10 疑念
「結局、昨日は帰ってこなかった……」
目が覚めたハルは、潤んだ瞳で天井を見つめる。
「やっぱり、私も行くべきだったかな……」
悩んだハルだったが、考えても仕方ないと思い起き上がった。
そして着替えをしている時、いきなりドアが開く。
「おはよう、ハル。そろそろ飯に……」
「きゃーっ! なんでいきなり開けるのよ!」
顔を出したマサに驚き、ハルは急いで体を服で隠す。
その行為に、マサは首を傾げた。
「なんで隠す必要があるんだ?」
「女の子が着替えているんだから、ドア閉めて! あと、入る時はノックしてよね!」
「へいへい、わかりましたよ」
マサはため息をついて、そのまま下におりていった。
「だからドア閉めてってばーっ!」
急いで着替えたハルは、マサを追いかけて階段をおりた。
「おはようございます、ハル殿。なにかあったのでござるか?」
「……なんでもない」
不機嫌なハルに、ユキは首を傾げる。
「それよりお腹空いたよね。今作るから」
「あぁ、それならマサ殿が作っていたでござるよ」
「えっ?」
リビングへ行くと、マサが料理をテーブルに並べていた。
「す、すごい……ほうれん草のおひたしに卵焼き、焼き鮭もある。なんてバランスの取れた朝食なの」
驚くハルだったが、ふとマサを見つめる。
その視線に気づいたマサは、ちらっとハルを見る。
「あんたの元気がなかったから、飯だけでも楽しめるように考えたんだが……」
「そうだったんだ……」
ハルは、マサに近づき手を握った。
「ありがとう、マサ!」
「お、お礼はいいから、早く食べようぜ!」
照れたマサは、そっぽを向いて椅子に座る。
ハルたちも椅子に座って手を合わせる。
「では、いただきます!」
そして、朝食を終えたハルたちは、片づけをして公園へと向かった。
公園に向かう途中、マサはある疑問が浮かんだ。
「そういや、ユキ。昨日はなんで、あの公園に来たんだ?」
「あぁ、それは……」
ユキは、苦笑いを浮かべながら頭をかいた。
「警察での話は終わりましたが、ハル殿たちの家を知らなかったので、出会った公園に行けば会えると思ったのでござる」
「ただの迷子かい!」
「まぁまぁ。ユキが来てくれたんだから、あの時はなんとかなったんだよ」
「そうだけどよ……」
納得のいかないマサに、ハルとユキは苦笑するしかなかった。
やがて公園に着き、三人は辺りを見回す。
すると、ベンチの下にある物を見つける。
「こ、これって……ユミちゃんが持っていたキーホルダー?」
ハルが拾いあげたそれは、ひびの入った小鳥のキーホルダーだった。
「おい、羽根も落ちているぞ」
マサが指さしたところには、数枚の羽根が落ちていた。
「やっぱり、なにかあったんだ……」
キーホルダーを握りしめるハルの頭に、タカトの言葉が響き渡る。
『無責任にも、程があるな。助けられるのには、限りがあるんだぜ?』
「私の行為は、無責任なのかな……」
「ハル殿?」
「だって、協力するって言っておきながら、ユミちゃんたちのピンチに何も出来なかったんじゃ意味がないよ!」
ハルが震えていると、マサとユキがそっと肩に手を置いた。
「気にするな、ハル。あいつらだって、ちゃんと逃げて他の町に行ったかもしれないだろ」
「そうでござるよ!」
「マサ、ユキ……」
「おや? こんなところで会うとは奇遇だな」
公園の入り口に目をやると、レンがハルたちの方に歩いてきていた。
「レンさん!」
「会ったところ悪いが、家に戻ることを勧めるよ」
「えっ、どうしてですか?」
「君たちは目をつけられている。むやみに外出しない方がいい」
「わ、わかりました……」
それからハルたちは、急いで家に帰ることにした。
★★★
「で、なんであんたまで家にいるんだよ」
不機嫌なマサは、強くレンを睨みつけた。
「まぁ、そんな睨まないでくれ」
レンは手を振りながら、ハルたちを見つめる。
「ここに来たのは、君たちに伝えておいた方がいいと思うことがあったからだよ」
「伝えておいた方がいい?」
首を傾げるハルに、レンは静かに頷く。
「実はあの場所で、誘拐事件があったみたいでね。一人はアニマだったらしい」
レンの話を聞いて、ハルの顔が青ざめていく。
「それって、ユミちゃんと高木さんじゃ……」
「ユミ?」
ハルは、ユミたちに協力していることをレンに話した。
「なるほど……その裏サイトというのも気になるな」
「研究所の奴らが絡んでいるなら、あんたなにか知っているんじゃないか?」
「待って、マサ。研究所って調べたらいっぱいあったよ」
「つまり、その中の一つが、ユミ殿たちを狙ったというのでござるか?」
「そうだな。君たちも用心した方がいい」
「ありがとうございます……」
「まぁ、安心してくれていい。君たちを狙う輩は、俺が成敗しておこう!」
「おぉっ、それは頼もしい!」
ユキは、輝いた目でレンを見つめた。
「ハル、どうかしたか?」
ずっと俯いたハルに、マサは顔を覗きこんだ。
「ハル?」
ハルの目は、少し潤んでいた。
「レンさん……あなた、もしかしてユミちゃんたちがさらわれるのを、見ていたんじゃないんですか?」




