89 正体不明
あかりのさりげない優しさに、マサは微笑んで手を伸ばした。
しかし、白衣を着たアキナが入ってきたため、手を引っこめた。
「はーい、検査の時間ですよー」
「アキナ、そんなこともやっているのか」
「これは、私が好きでやっているの」
振り向いたアキナは、ウインクして微笑む。
マサが呆れていると、カートを押したユキが入ってくる。
「……なんで、ユキがここにいるんだよ」
「なんでって、アキナ殿の手伝いをしているのでござるよ」
「あんた、ハルのアニマをやめて、その女につくのか?」
「そっ、そんなことは!」
強く睨むマサに、ユキは慌てて手を振る。
その時、助けぶねを出したのは、アキナだった。
「ちょっと人手が足りなかったから、ユキ君を借りただけよ」
「アキナ殿……」
「私は、ハルさんからなにも取る気はないわ」
アキナの真剣な眼差しに、マサは鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
すると、陽気な声で薫が入ってきた。
「やぁ、みんな元気かい?」
「薫さん……」
「おや、なんだか空気が重いみたいだが……」
薫が頬をかいていると、あかりがため息をつく。
「あんた、間が悪いね」
「アキナ君、彼らとなにかあったのかい?」
「いえ、大したことでは……」
言葉を濁すアキナを、薫はじっと見つめる。
すると、女性研究員が薫を大声で呼んだ。
「藤崎先ぱーい、ちょっと来てくださーいっ!」
「おや、呼ばれたみたいだね」
「あの……」
「ちょっと私は行くけど、君たち仲良くするんだよ?」
そう言って、薫はマサたちの病室を出ていった。
そして、女性研究員と合流し、玄関まで向かった。
玄関に着くと、他の研究員たちが困り果てていた。
「一体、どうしたというんだ」
「それが……気づいたらここに置かれていて……」
玄関には、人がひとり入るぐらいの、長方形の箱が置かれていた。
「誰かの荷物かい?」
「いえ、誰も頼んでいません」
「なんだか、不気味ですね……」
「とりあえず、私の研究室に運んでおいてくれ」
「了解です」
そして、薫は来た道を戻った。
研究室に着くと、すぐパソコンを起動させる。
素早く操作し、キーボードを打っていく。
やがて作業を終えると、コーヒーを入れるため、ゆっくり席を立った。
すると、一通のメールが送られてきた。
それに気づいた薫は、パソコンを操作し、メールを開いた。
「これは一体……」
★★★
ユミたちと合流したハルたちは、とあるカフェでお茶をしていた。
しかし、ハルだけ落ち着きがなかった。
「ハルさん、どうしたんですか?」
「いや、楽しくて忘れていたけど……」
ハルは頬をかきながら、また周りを確認する。
「また、あの空間が現れるんじゃないかと思って……」
「確かに、前回は桂木博士との戦いの後、すぐ現れていたな」
「ということは、今回の件は、まだ終わっていないってことですか?」
「それは、まだわからないな」
「なら、神の遣いに聞いたらどうだ?」
全員の視線が、神の遣いに集まった。
だが、当の本人はパンケーキに夢中だったのである。
「神の遣い様……」
「本当、中身まで子どもなんだな」
「ふふっ、じゃぁ私たちも早く食べよっか!」
元気になったハルを見つめ、レンたちは微笑んだ。
すると、ユミの紙袋にハルが気づく。
「あれ、ユミちゃんなにか買ったの?」
「はい、服を買ってもらいました」
「買ってもらったって、イグさんに?」
ハルに聞かれ、ユミは微笑んで頷いた。
そして、イグに視線を移し、お互い微笑みあう。
そのことに、ハルは納得して頷く。
突然大人しくなったハルに、レンは首を傾げる。
「それで、ハルさんたちはなにをしていたんですか?」
「えっと、私たちは……」
「我らは、ゲームというものをしていたぞ!」
ユミの質問に、ハルは言葉に詰まってしまう。
その時、答えたのは神の遣いだった。
「へぇー、どんなゲームだったんだ?」
「モグラ叩きと、クレーンゲームだよ」
「我は驚いたぞ。娘の動きがあまりに鈍くてな」
「かっ、神の遣い様、余計なこと言わないでください!」
「なんだ、説明してやったのに」
「その説明はいりません!」
ハルは頬を膨らませ、注文したオムライスをかきこんでいく。
だが、途中のどに詰まりかけ、顔が赤くなる。
「ハル、慌てなくて大丈夫だから」
「……すっ、すみません、ありがとうございます」
レンに背中を叩かれ、ハルは落ち着きを取り戻した。
そして、紅茶をひと口飲み、深呼吸をする。
「これを食べ終わったら、家に帰ろうか」
「そうですね……」
それから、ハルたちは昼食を終え、家に帰った。
すると、家の固定電話のボタンが光っていた。
光っていたのは、留守番電話のボタンだった。
「えっ、誰からだろう……」
ハルは、恐る恐るボタンを押した。
機械音の後に聞こえたのは、薫の声だった。
『ハルさん、すまないが二週間後に研究所に来てほしい。確認してもらいたいことがあるんだ』
留守番電話は、そこで終わっていた。
「なんだろう、確認したいことって……」
ハルは考えたが、答えは出なかった。
「まぁ、二週間後になればわかるよね」
そう言うと、ハルはカレンダーに印をつけ、小さく頷いたのだった。




