87 あなたの優しさがうれしくて
リビングに入ったハルとユミは、イグたちの様子に驚いた。
「えっ、なに、どうしたの?」
「ケンカでもしていたんですか?」
「娘ーっ、いいところに帰ってきた!」
神の遣いは、泣き真似をし、ハルに抱きついた。
荷物をおろしたハルは、とりあえず神の遣いを撫でた。
「どうしたんですか、神の遣い様」
「あの者たちが、我をいじめるのだ!」
「えっ?」
「いや、俺たちは……」
「神の遣い様、ウソはいけませんよ?」
「ユミ……」
「お二人は、誰かをいじめたりなんかしません!」
「……その自信は、どこからくるのだ」
「ずっと一緒にいたから、わかりますよ」
「ユミちゃん……」
「ねっ?」
ユミの笑顔に、イグも微笑みを返した。
それを見ていた神の遣いは、ため息をつき鼻を鳴らす。
「ふんっ、つまらんな。もう少し焦ると思ったのに」
ふてくされた神の遣いはハルから離れ、テレビの前に座った。
わけがわからないハルは、首を傾げる。
「一体、なんだったの?」
「神の遣い様は、少しからかいたかっただけですよ」
「そうなの?」
「ほら、早く夕飯にしましょう。お腹空きました!」
「それだったら、俺たちも手伝うよ」
レンとイグは食材をなおし、全員で夕食をとった。
「そうだ、ハルさん。明日皆で、久しぶりにショッピングに行きませんか?」
「いいけど、神の遣い様はどうしよう……」
「おい、我も行くぞ」
「もちろんです。神の遣い様も入れて、全員ですから」
「それは楽しそうだね」
「なら、明日の十時には、出かけるとするか」
「じゃぁ、決まりですね!」
笑顔のユミに、ハルもうれしくなり微笑む。
やがて朝になり、予定の時間になった。
そしてハルたちは、前に訪れたショッピングセンターに来ていた。
「ここに来るのも、久しぶりだなぁ」
「ここで、あのキーホルダーをもらったんですよね」
「あっ、そうだったね」
「じゃぁ、チーム分けでもするか」
「あれ、全員でまわるんじゃないんですか?」
「それだと、周りに迷惑がかかるだろ?」
「ということは、二人と三人ですね」
「我は、娘と一緒だぞ!」
「あっ、神の遣い様ズルい!」
少年姿の神の遣いは、当たり前のようにハルに抱きつく。
それにユミは、悔しさを見せた。
「なら、誰がハルさんと行動するか、ジャンケンで決めましょう!」
「いや、俺は遠慮する」
「あら、イグさん珍しいですね」
「俺に構わず、二人でジャンケンしたらどうだ」
「では、レンさんいきますよ!」
「あぁ、ジャン」
「ケン」
「ポン!」
二人は、同時に片手を出した。
レンはチョキで、ユミはパーだった。
結果は、レンの勝ちである。
「組み合わせも決まったことだし、俺たちは行こうか」
「あっ、はい……」
ハルは、背中を向けているユミが気になった。
だが、神の遣いに手を引かれ、戸惑いながら離れていく。
ユミはというと、開いた手の平を、じっと見つめていた。
「その、なんだ……残念だったな、ユミ」
「べっ別に気にしていません。今回だけ、譲っただけですから!」
口をとがらせ、ユミはすねていた。
それがおかしかったイグは、笑いをこらえていた。
すると、離れていたはずのハルが戻ってくる。
「ユミちゃん、イグさん!」
「お嬢、どうした?」
「あの、これで好きな物買ってください!」
「おーい、娘! 早く行くぞーっ!」
「はーい、今行きまーす!」
神の遣いに呼ばれたため、ハルは慌てて返事をした。
そして、イグにお金を渡し、レンたちの元に小走りで戻っていく。
「じゃぁ、俺たちも行くか」
イグが振り向くと、ユミの姿はなかった。
「ユミ?」
周りを見渡すと、ある店のマネキンをユミは見ていた。
そのマネキンは、淡い水色のワンピースに、クリーム色のカーディガンを着ていた。
「この服が欲しいのか?」
「えっ?」
「ずっと見ていただろ」
イグに言われ、ユミは小さく頷く。
すると、イグはマネキンに近づき、値段を確認した。
そして、小さく頷いた。
「これなら、お嬢からもらった金で足りるな」
「あの、イグさん?」
「すまないが、これを試着したいんだが」
「はい、かしこまりましたー」
そう言って、店員は手際よく、マネキンから服を外した。
そして、ぽかんとしているユミに手渡した。
「はい、お客様」
「あっ、ありがとうございます……」
「俺はここで待っているから、試着してきたらどうだ?」
「はい!」
やっと笑顔になったユミに、イグもつられて微笑んだ。
試着室に行くユミを見送り、イグは近くの壁に背を預ける。
すると、店員たちの声が聞こえた。
「今のお客様って、アニマよね?」
「契約者は、一緒じゃないのかしら」
「それにしてもさっきの子、どこかで見たような……」
「あの、俺たちになにか用か?」
「いっ、いえ、こちらの話ですので!」
「イグさん、着替え終わりました!」
店員たちの話し声に、イグは不機嫌になる。
だが、タイミングよくユミの試着が終わった。
イグはユミに近づき、服を見つめる。
「どっ、どうでしょうか……」
「うん、よく似合っている」
「ほっ、本当ですか!」
「俺は、正直な感想を言っただけだが」
まっすぐ見つめるイグに、ユミは恥ずかしくなり、目線をそらした。
「じゃぁ、着替えますので、もう少し待っててください」
「あぁ、わかった」
そして、ユミは試着室のカーテンを閉めた。
着替え始めたユミの顔は、仄かに赤くなっていた。
「私、なんでこんなにドキドキしているんだろう……」
ユミは小さく呟き、自分の頬に手を当てたのだった。




