41 大切な人
部屋に着いたアキナは、小さく深呼吸をする。
そして、ドアを開けると、猫のマサが座っていた。
「お待たせ。さぁ、行こうか」
アキナは笑顔を作り、しゃがんでそっと手を伸ばした。
しかし、猫のマサはそっぽを向き、アキナの横を通りすぎていった。
「今の状態なら……」
そう呟くと、アキナのペンダントが赤く光り、目つきが変わる。
アキナが胸の前で構えると、手が氷の爪になった。
そして、歩いていく猫のマサに、狙いを定める。
すると、服を引っ張る感触がした。
アキナが振り向くと、虎のユキが服を噛んで見上げていた。
その目は、とても心配そうに、アキナを見つめている。
そのため、アキナは後ろめたさを感じてしまう。
「そうよね……こんなことしたら、動物虐待とか言われてしまうわね」
「グルル?」
虎のユキが首を傾げると、アキナは首を横に振り、氷の爪も解いた。
「なんでもないよ。早く猫ちゃん、追いかけないとね」
「ガウ!」
微笑むアキナに、虎のユキは応えるように鳴く。
そして、アキナに抱きかかえられ、部屋を出ていった。
しかしその様子を、鷲のイグが険しい目つきで見つめていた。
★★★
「待ってー、ユミちゃーん!」
ハルは、インコのユミを追いかけていた。
「いっ、一体どこまで、行くのよぉー……」
しばらく追いかけていたため、ハルの体力は限界だった。
すると、ある場所にインコのユミは入っていく。
「えっ、ここって展望室?」
恐る恐る中に入ると、奥に人影が見えた。
インコのユミも、その上でクルクル回っていた。
ハルが近づくと、その相手も振り向いた。
「えっ、レンさん?」
「ハル、どうしてここに……」
その人影はレンであり、ハルが来たことに驚く。
「マサたちの部屋に行ったんじゃないのかい」
「行こうとしたんですけど、いきなりユミちゃんが飛んでいっちゃって……」
問題のインコのユミはというと、レンの肩にとまってくつろいでいた。
「ユミちゃんたら、もうー……」
呆れているハルを見て、レンは笑いをこらえている。
「君たちは、本当に面白いなぁ」
「そうですか?」
ハルは息を整えながら、近くの椅子に腰かけた。
「こっちは、だいぶ走らされて疲れました……」
「おやおや。ハルを疲れさせてはダメじゃないか、ユミ」
言われたインコのユミは、レンの肩からハルの頭にとまった。
「そういえば、レンさんはどうしてここに?」
「あぁ、ちょっと考え事をしててね」
話すレンの表情は、切なげだった。
「実は、薫のことなんだが……」
「薫さんと、なにかあったんですか?」
「いや、そうではないんだ。ただ……」
「ただ?」
「俺に、なにか隠していることがあるみたいなんだ」
「薫さんに限って、そんなこと……」
「俺もそう思いたいんだが、薫の気持ちがわからないんだ」
苦しそうに話すレンを見て、ハルは胸がしめつけられる気がした。
インコのユミは心配なのか、ハルの左肩にとまって見上げている。
「薫さんは、レンさんに迷惑をかけないようにしているんだと思います!」
思いのほか、ハルの声が大きかったため、二人とも固まる。
「ごっ、ごめんなさい」
「いや、大丈夫だ。続けてくれ」
レンに促され、ハルは静かに口を開く。
「私だったら、大切な人に迷惑はかけたくないです。きっと、薫さんも同じだと思います」
「そうだろうか……」
「今、なにかやろうとしているのなら、それに巻きこみたくないんじゃないでしょうか」
「やろうとしていることとは?」
「それは、わかりません……」
ハルはうまく答えられずに俯いてしまう。
すると、レンに頭を撫でられた。
「こっ、子ども扱いしないでください!」
「そこに頭があったからつい、な」
「むぅー……」
頬を膨らませるハルだったが、ふとあることを思いだす。
「もしかしたら、契約をやめたのと関係があるんじゃないですか?」
「ふむ……」
レンは、あごに手を当てて考えたが、答えは出なかった。
「やはり、薫のことがわからないよ」
「そうですか……」
「だが、君が言ってくれたことには励まされたよ」
そして、レンはハルに微笑みかけた。
「ありがとう、ハル……」
「そっ、そんなお礼なんていいですよ!」
「そうか、これでは足りないか。なら……」
ハルに近づいたレンは、ハルの指輪を指さす。
「俺と、契約してくれないか?」
「いっ、いいんですか?!」
驚くハルに、レンは首を傾げる。
「そんなに驚くことはないだろう」
「驚くに決まっているじゃないですか。でも、うれしいです!」
笑顔のハルに、レンは熱い気持ちを覚える。
すると、レンの想いに応えるように、指輪が光りだした。
「また光ってる……やっぱり、アニマの想いに反応しているんだ」
「……じゃぁ、指輪をこちらに」
レンに言われ、ハルは指輪をしている手を伸ばした。
そこに、レンがキスをしようとする。
しかし、すぐハルが手を引っこめてしまう。
「どうした、ハル」
「いや、今日は新月だから、契約したらレンさんも動物になっちゃいますよ!」
「おっと、それもそうだな」
そして、二人は微笑みあった。
すると、レンがハルの頬に片手を添える。
「じゃぁ、今はこれで我慢するとしよう」
「えっ?」
戸惑うハルの右頬に、レンが軽くキスをした。




