32 あなたの幸せを、私は願っているわ
「君に恨みはないけど、かほちゃんのためなんだぞ!」
「やめろ、ニア!」
ニアは両手をクロスさせて、爪を伸ばした。
そして、一気にハルに向かって飛ばす。
「シルバークロー!」
「えっ……」
「お嬢!」
イグは、ハルを庇うため手を伸ばす。
「サンダーボルト!」
しかし、ハルに当たることはなかった。
なぜなら、マサがとっさに電撃を放ったからだ。
電撃が当たった爪は、焼け焦げて床に落ちた。
「マサ、どういうつもり?」
「それは俺のセリフだ。人間を攻撃させるなんて……」
「別に、罰せられることなんてないでしょ?」
「……そんなことも、わからなくなったのか」
ため息をつくマサを、かほは睨みつける。
「私に呆れているみたいだけど……」
だが、かほは睨むのをやめ、大きく肩を落とす。
「私も、あなたにがっかりよ、マサ」
「なんだと?」
「私に味方してくれると思ったのに、結局その子を選ぶのね」
「それは、あんたがハルを攻撃したからで……」
「うるさいわね。これで話はおしまい」
マサに背を向けたかほは、ガードマンを呼びつける。
「全員、ここからつまみ出してちょうだい!」
かほに指示されたガードマンは、ハルたちを次々と外につまみ出す。
そして、全員出たところで、勢いよくドアが閉められた。
部屋では、かほが力なく、椅子に腰かけていた。
「かほちゃん、大丈夫?」
「ニア、マサたちは全員出たかしら」
「さっき、皆外につまみ出されていたんだぞ」
「そう……これでもう、マサとも会えないわね」
「どうして、あの女の人を攻撃したんだぞ?」
「だって、そうすればマサはあの人を庇うでしょ?」
首を傾げるニアに、かほは優しく微笑む。
「あの人のこと、とても大切そうにしていたから……」
「でも、かほちゃんとマサも、お互い大切だったんだぞ」
「そうね……でも、私はマサを傷つけた」
ニアの頭を撫でながら、かほは切なく微笑む。
「かほちゃんが、悪者になる必要はないんだぞ!」
「ニア?」
「かほちゃんがいい子なのは、僕が一番知っているんだぞ!」
そして、ニアはかほに抱きついた。
「だから、そんな悲しそうな顔しないでくれなんだぞ……」
「……ありがとう、ニア」
うれしくなったかほは、ニアを優しく抱きしめる。
そして、小さく呟いた。
「マサ……あなたの幸せを、私は願っているわ」
★★★
「あいたたた……皆、大丈夫?」
「あぁ、ハル以外は全員ちゃんと着地したぞ」
「お嬢だけだな、尻もちをついたのは」
「しっ、仕方ないじゃないですか! まさかつまみ出されるなんて……」
話していて、ふとハルはマサに視線を移した。
「あれ、なんでマサまで外にいるの?」
首を傾げるハルに、マサはため息をつく。
「そんなの、俺が聞きてぇよ」
「でも、これで作戦は成功したと言えますね!」
「いや、どう考えても、失敗していただろう」
「イグ殿、余計なことを言わなくても……」
「まぁ、ここだと迷惑だから、皆で帰ろう?」
体を起こしたハルは、視線を感じ屋敷に振り向く。
すると、かほがハルたちを見つめていた。
ハルは一礼して、マサたちのところに走っていった。
「ハル、もういいのか?」
「うん。マサの方はよかったの?」
「俺は、もう未練はねぇよ。さっさと帰ろうぜ」
しばらく歩いていたハルたちは、公園を見つけた。
その公園は、ハルの近くにあった公園より広く、子どもたちが遊んでいた。
「けっこう歩いたから、ここで休憩しない?」
「俺たちは構わないが……」
イグが話そうとしたが、ユミに腕を引っ張られる。
「私たちは、向こうで休んでいますので……」
そして、ユミはユキの腕も引っ張った。
「ハルさんは、マサさんと少しお話されてはどうですか?」
「ユミ、そんな気を遣わなくても……」
「わかった。ありがとう、ユミちゃん!」
ユミにお礼を言ったハルは、マサの手を握った。
「行こう、マサ!」
「ちょっ、ちょっと待てよ、ハル!」
公園の端にある、ベンチに向かう二人を見て、ユミは微笑む。
「まったく、世話がやけますね」
「でも、マサの奴、少しうれしそうだったな」
「ふふっ、後で、二人の話を聞くのが楽しみです」
不敵に笑うユミに、イグとユキは顔を引きつらせた。
その頃、ベンチに座ったハルとマサは、お互い黙っていた。
二人とも、なにを話そうか迷っているのである。
そのため、二人とも目が泳いでいた。
先に口を開いたのは、ハルだった。
「あのね、マサ!」
思ったより声が大きかったため、慌てて口を手で押さえる。
そして、一度深呼吸をして、マサを見つめた。
「マサ、私あなたに聞きたいことがあるの」
「あぁ、俺も話さなきゃならないことがあるんだ」
マサは俯いていたが、少しずつ話し始めた。
ハルがつけている指輪のこと。
そして、どうしてそれを持っていたのかを……




