21 神の遣い
「ユミちゃん?」
ハルの手を掴んだのは、ユミだった。
その姿は、前にあった大型アニマのものではなく、会った時の少女のままだった。
「よかった、また会えた!」
「よかったじゃありません!」
声を荒げたユミに、ハルはぼう然とする。
「ここがどこだか、わかっているんですか?」
ユミは、少し声をおとして、ハルを見つめた。
ハルは、困った顔で首を傾げる。
「ずっと落ちてきたから、わからないよ……」
俯くハルに、ユミはため息をついた。
「ここは、黄泉につながる狭間ですよ」
「えっ、じゃあ私死んだの?!」
「いいえ、ハルさんはまだ生きてます」
そう言われて、ハルは安心した顔になる。
「でも、長くここにいると、体がもたないかもしれません」
「うそっ、どうしたら……」
「おい、誰だ。我の眠りを邪魔する奴は……」
二人が話していると、どこからか低い声が聞こえてきた。
振り向くとそこには、巨大な鹿に白い大蛇を巻きつけた者が座っていた。
「でっ、でか……これも、大型アニマ?」
ハルが驚いていると、ユミが慌てだした。
そして、急いでハルの口を押える。
「んーっ!」
「ハルさん、言葉を選んで!」
ぷはっ、どうしたのユミちゃん
「この御方は、神の遣い様です」
「神の遣い?」
首を傾げるハルに、神の遣いは盛大に笑いだした。
「はははっ! いやはや、無礼な人間もいたものだな」
笑い終わった神の遣いは、またすぐ真顔に戻った。
「あの大型アニマと、我を一緒にするのだからな」
「すっ、すみません!」
その威圧感に、ハルはすぐに謝罪した。
「あなたみたいな方を、初めて見たものですから……」
震えるハルに、神の遣いは笑いだす。
「しかし、なぜ人間が、このような場所に来たのだ?」
「私は、ユミちゃん……この子に会いたくて、洞窟に入ったんですけど……」
「ほぅ、洞窟とな」
「その時、声が聞こえたんです。あなたじゃないんですか?」
「我は知らんな。もしや、あの方が……」
「あの方?」
「多分、神様のことですよ、ハルさん」
「えぇっ、神様?!」
ハルが驚いていると、神の遣いが咳払いをする。
「では、話を戻して、続きを聞こうか」
「すっ、すみません……この洞窟は、黄泉がえりができると聞いたので進んでいたら、黒い影に襲われたんです」
ハルの話を、神の遣いは黙って聞いていた。
「そして、いきなり地面が割れて、落ちたらここに来たんです」
「ふむ、理由はわかった」
「神の遣い様……」
「しかし、その少女はたくさんのアニマを殺した」
大蛇がスルスルと、ユミの顔の前にやってくる。
「だから罰として、ここの番をしてもらっているのだ」
「でも、あのことはユミちゃんが悪いわけではないんです!」
「悪いわけではない?」
「すべては、そうさせた人間が悪いんです!」
ハルが声を荒げると、ユミがそれを制した。
「ハルさん、いいんです。私がやったことに、変わりはないんですから」
「でも……」
「私はあの時、ハルさんに救われました」
ユミは、優しくハルの手を握る。
「だから、その罪を背負っても構いません」
「そんなの、ダメだよ!」
「ハルさん?」
否定するハルに、ユミは首を傾げる。
「それなら、私も一緒に背負うから!」
ハルは涙を浮かべた目で、ユミを見つめる。
しかし、ユミは首を横に振った。
「ダメですよ、ハルさん」
ユミは子どもに言い聞かせるように、優しく語りかけた。
「あなたには、待っている人がたくさんいるんですから。私のことは、気にしないで」
「いやっ!」
ハルは、ユミの手を強く握りしめた。
「やっと会えたのに……また別れるなんて嫌よ!」
「わがままを言わないでください!」
ユミに叱られて、ハルは唇を噛み俯く。
「私は、あなたを助けることができなかった。だからもう離れたりなんかしない、!」
「ハルさん……」
ユミの瞳には、涙があふれていた。
そしてハルは、神の遣いに振り向いた。
「お願いです、ユミちゃんを解放してください!」
「なんだと?」
「この子の罪は、私も一緒に背負います」
ハルが頭を下げると、ユミも慌てて頭を下げる。
神の遣いは、じっと二人を見つめていた。
だが、やがて深いため息をつく。
「そこまで言うなら、我からはなにもないよ」
「それじゃぁ!」
「まぁ、待て。彼女には新しい肉体が必要だろう」
すると、ユミの体が光りだした。
「ユミちゃん?!」
「安心しなさい。肉体を与えただけだよ」
「そっ、そうだったんですか……」
「もう、用はない。彼女を連れて、早くここから立ち去りなさい」
神の遣いは、言い終わるとそっぽを向いた。
ハルとユミは、顔を見合わせ喜んだ。
「「ありがとうございます!」」
二人は、一緒にお礼を言って頭を下げる。
そしてハルは、ユミに抱えられて飛び立った。
だが、神の遣いは不敵に笑う。
「他の者たちが、それを許してくれるといいがな……」
神の遣いが脚を鳴らすと、黒い影が現れる。
それはアニマの姿となり、二人を追いかけていく。
「無事に逃げられたなら、お主たちを許すとしよう……」




