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18 ありがとう

 ハルたちはレンに案内されて、研究所をまわっていた。

「ここって、すごい広いですよね」

「そうだな。ここには病院もあるし、アニマたちに不便がないようにしているらしい」

「へぇー」

「おーい、お嬢ーっ!」

 ハルが呆気にとられていると、どこかで聞いたことのある声が聞こえた。

「誰かうなぎの話した?」

「それ、どじょうのことを言いたいのか?」

「どちらも、おいしそうでござるなぁ」

「君たち、わかって聞こえないふりしているだろう……」

「あっ、バレました?」

「声の主は、多分君に会いたがっている人物だよ」

 レンが通路の先に目をやると、イグがハルたちに手を振っていた。

「よかった、来てくれたんだな」

「えっと、一度研究所がどういう所か、見ておこうと思って……」

「ということだ。残念だったな、イグ」

「えっ?」

「レン、茶化すな。俺が直接、礼を言いたかったんだ」

 イグはレンを睨みつけたが、レンは笑いをこらえている。

 それに呆れて、イグはため息をついた。

「あの、礼ってどういうこと?」

「俺が今、こうしていられるのはあの時、お嬢が助けてくれたおかげだ」

 ハルに視線を移したイグは、深々と頭を下げた。

「ありがとう」

「わわっ、頭を上げてください!」

 突然のイグの行動に、ハルは大慌てだった。

 なぜなら、そこを通りかかった人たちが、ハルたちを不審な目で見ていたからである。

「余計目立っているな……」

「……お嬢を困らせるつもりはなかったんだが」

 頭を上げたイグは、少し困った顔をした。

 それに気づいたハルは、慌てて手を振る。

「私は、応急処置しただけだから……ちゃんとできたかわからないけど……」

 苦笑いを浮かべたハルは、レンに視線を移す。

「それに、病院に連れて行ったのはレンさんだし」

「それでも、俺の命は助かった。お嬢には感謝している」

 感謝の気持ちを受け、ハルは恥ずかしそうに笑った。

「その『お嬢』って呼ぶの、やめてくれませんか?」

「なぜだ? それ以外に呼び方があるのか」

「この方はハル殿でござる」

「……俺はお嬢と呼ぶ」

「もう好きに呼んでください……」

 あきらめたハルを見て、全員笑いをこらえていた。

 すると、イグが真面目な顔をして、ハルを見つめる。

「俺もお嬢に協力させてくれ」

「協力、ですか?」

「あぁ、俺も力になりたいんだ」

 イグがハルの手を握ると、マサがその手を叩いた。

「どさくさに紛れて、なにしているんだよ!」

「なにを怒っている?」

「手を握る意味がわからねぇ!」

「俺はただ、お嬢に協力したいと言っただけだが」

「だったら、手を握らなくてもいいだろ!」

 突っかかるマサを、イグは腕を組んで見下ろしている。

「あれ?」

 ふとハルが、イグの片腕を指さした。

 その腕は、長そでで隠れており、手には手袋をしていた。

「確かあの時、右腕が無かったはずじゃ……」

「これは義手だ。ここに着いた時に、つけてもらったんだ」

「そうだったんですか。よかった……」

 ほっとしたハルの顔を見て、イグがそっと微笑む。

「あっ、イグさんこっちにいたんですねーっ!」

 遠くの方からやってくる女性に、イグは顔を引きつらせた。

「さぁ、病室に戻ってリハビリですよ!」

「ちょっ、ちょっと待て。まだ話がーっ!」

「言い訳は聞きません!」

 女性はそう言うと、イグを引っ張って、来た道を戻っていった。

「あらあら、なんだか賑やかねぇ」

 すると、茶髪で短髪の女性がやってきた。

 女性はイグたちとすれ違い、ハルたちの方に歩いてくる。

「はじめまして、私はここの研究員です。これ名刺ね」

 ハルは名刺を受け取り、名前を読み上げる。

「藤崎、薫さん?」

「えぇ、よろしくね。親しみやすく、下の名前で呼んでいいから」

「は、はぁ……」

「薫、ハルが困っているじゃないか」

「あぁ、ごめん。今日は、来てくれてありがとう!」

「いえ、レンさんから会いたがっている人がいると、聞いたので」

「あぁ、それなら私だよ」

 薫は、持っていた資料をハルに渡した。

「君たちは、あの大型アニマを倒したんだろう?」

「倒したというか、その……」

 口ごもるハルに、薫は首を傾げる。

「それよりも、調べたいことがあったんじゃないのかい?」

「あぁ、そうだった!」

 レンに言われて、薫は渡した資料を指さす。

「これにも書いてあるんだけど、その指輪を調べさせてほしいの」

「えっ、これは外せません!」

 ハルが慌てて指輪に手をやったので、資料をばらまいてしまう。

「あっ、ごめんなさい!」

「ハル、落ち着いて」

 焦るハルの肩に、レンが優しく手を置く。

「やめる意思がなければ、契約は解除されないよ」

「な、なんだ……安心した……」

「レンから聞いていた通り、心優しい子みたいだね」

「えっ、それってどういう……」

 ハルが顔を上げると、薫もしゃがんで資料を拾っていた。

「君の指輪は、特別な物だからね」

「特別……確かレンさんも、同じようなことを言っていたような……」

 資料を拾い集めたハルは、立ち上がりじっと指輪を見つめる。

 薫も立ち上がり、指輪を撫でた。

「一つの指輪で、複数のアニマと契約できるのは珍しいことなんだ」

「そうなんですか?」

 ハルの疑問に、薫は頷いた。

「普通は、一人一つ指輪を持っているはずなんだが……」

 そして、薫はマサに視線を移した。

「どうして、君がこの指輪を持っているのかな?」

「……」

 薫の視線に、マサは気まずくなり俯く。

 それに薫は微笑んで、またハルに視線を戻した。

「まぁ、契約できて、本当によかったよ。じゃぁ、これ貸してね」

「はっ、はい、どうぞ……」

 指輪を受け取った薫は、上機嫌で去っていった。

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― 新着の感想 ―
指輪に義手という具合に、手に関わるアイテムにクローズアップされましたね。 失われた右腕に付けられた義手にどんな機能があるのかも興味深い所です。
指輪は外しても意思がなければ解除されることはないんですね♪ 何か解明されることはあるのかな〜?
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