第四百六十五幕 中等部三年目・二学期の長期休暇
職場体験が終わり、二学期も終盤に差し掛かっていた。
というか今日がもう終業式で、明日から長期休暇に入る。なので私は今日、自宅に帰る為荷物を纏める予定だよ。
クラスは長期休暇の事と、職場体験の事で持ちきりだね。
「よっ。ティーナ。どうだった? 職場体験の雑貨屋」
「とても楽しかったよ! それと……ちょっと悲しくなったかな」
「そっか」
「ボルカちゃんの行ったギルドはどんな感じだった?」
「前に話した通り実力が少し足りないメンバーで……悪くはなかったかな。戦友も出来たぜ」
ボルカちゃんの方も良い思い出ができたみたいだね。そして少し遠い目をした事から、ちょっとした成長もしたみたい。
そこにウラノちゃんとルーチェちゃんもやって来る。と言うよりルーチェちゃんがウラノちゃんを引っ張ってきた。
「職場体験、体験学習の感想会ですの? お二方!」
「わっ……なんか前より距離近くなってない……?」
「前からそうだったようにも思えるけど……流石にこんなんじゃなかったよな」
同時に抱き付いてくるルーチェちゃん。距離感は前から近かったけど、より一層近いような気がする。
ルーチェちゃんも職場体験で何かあったのかな?
「彼女、終わってからずっとこうよ。貴女達は常に一緒に居るから、その分のしわ寄せが私の方に来るの」
「あら、そんなんじゃありませんわ。外交でも良いお友達も出来ましたから。体験学習で近付いて来た大人達の邪念を純心な貴女方で浄化しているだけですの!」
「そんなんな気がするけど……」
友達が出来たのはいいけど、やっぱりそれなりに色々あったみたい。
思えば“魔専アステリア女学院”というブランドに、シルヴィア家という家柄。すり寄って来ない訳がないよね。そう考えると私の所の店主さんや、ボルカちゃんの所のギルドはかなり個人を尊重してくれてるのかも。
「ウラノちゃんは? この学校だったけど」
「いつもと変わらない感じだったわ。下級生の子達と少しだけ仲良くなれた程度ね」
「ふふ、ちょっと笑ってる。良い体験だったんだね!」
「……まあまあよ。まあまあ」
慣れ親しんだ“魔専アステリア女学院”。ウラノちゃんはそこで悪くない学習を送れたみたいだね。
それらに思いを委ねつつ、私達は放課後でポツポツと人が少なくなるクラスを離れ、荷物整理の為に寮の方へ。話は二学期の長期休暇についてに変わってくる。
「今年の長期休暇は何する? イベント事は目白押しだぜ」
「新しい年にもなるもんね~。女神様の誕生日もだっけ」
「新年はともかく、創造神の誕生日はアタシ達には関係無いけど、便乗してパーティーするのは最高だしな~」
「ふふ、確かに。今年も盛り上がると良いね~」
「盛り上げて見せますわよ~!」
様々なイベントがある長期休暇。毎日みんなと集まる……って訳にはいかないけど、楽しみなのは変わらない。
浮き足立つ気持ちを抑えつつ、寮の荷物をまとめた私達は“魔専アステリア女学院”を後にした。
「それじゃあ、お休み中も遊ぼうね!」
「おう!」
「ですわー!」
「……考えておくわ」
門の前でボルカちゃん達と別れ、帰路に付く。
私の前には既にお迎えの馬車も来ており、自宅へと帰るのだった。
*****
──“長期休暇”。
お休み中、宿題や課題を終え、夜はお勉強もするけど昼間は趣味に没頭する。
私のお人形王国もいよいよ完成が見えてきたよ!
それと同時に、部活動が無いので腕が鈍っちゃうからママやティナ、お人形のボルカちゃんを自室から遠隔操作して鍛えてる。
「やあ、これはこれはティーナお嬢様の。お手伝いしてくださるのですね」
『うん! 手伝うよ!』
「おや、お嬢様の声まで聞こえてきますね」
ティナの視覚共有で確認し、魔力の糸を振動させて糸電話みたいに声を届ける。ママ……のお人形なら植物で物も運べるから、いつも頑張ってくれてる使用人さん達のお手伝いも出来るよ。
とは言っても専門職の使用人さん達の方が慣れていて完成度が高いのは間違いないので、ちょっとした物運びとか邪魔にならない範囲でだね。
『手伝います!』
「おや、ティーナお嬢様。ありがとうございます」
ボルカちゃんのお人形で炎を使い、お湯を沸かしたり外で作業してる使用人さんの為にこの季節の寒さを和らげたりする。
火力の微調整もまた一つの訓練になるから良い感じに鍛えられるかも。
「ふう、完成」
そしてマルチに脳を使いつつ、目の前の趣味も作り終えた。
一度で複数の事を行うマルチタスク。視覚も聴覚も共有しているから普通のそれとは違うけど、なんとか上手くいったね。
しばらくダイバースをしていないけど、調整はバッチリ。
「ティーナ! 遊ぼうぜー!」
「あ、ボルカちゃん」
ティナがボルカちゃんの声を拾い、彼女が遊びに来た事が分かった。
ボルカちゃんは使用人さん達とも顔見知り。門を通って此処に向かう。と言うか、声が届かないのを理解した上で、わざわざ遊ぼうと言ってくれるなんてボルカちゃんらしいね。
今のうちにお片付けしつつ、ボルカちゃんが私の部屋に来る頃には綺麗にし終えた。
「おー、いつも片付いてんなー。ティーナの部屋」
「さっきまで散らかってたんだけどね~」
「それを言っちまうのかよ」
笑って返すボルカちゃん。
確かにボルカちゃんが来る前に片付けたのに言っちゃったら意味無いかぁ。
そんな事はさておき、使用人さん達が持ってきた紅茶とクッキーを楽しみながら今後の予定について話し合う。
「今日は何する~?」
「このままティーナん家でのんびりするのも良いけど、それじゃ鈍っちまうからな。ちょっと外に出るか」
「うん。そうしよっか」
ボルカちゃんに誘われて外へ。
冬空の下、寒さが息を白くするけどボルカちゃんは元気だった。
周りの人々が厚着をする中、彼女は薄着とまではいかないけど重装備じゃない。炎の系統だから寒さに強いとかあるのかな? 私は普通に寒いのでそれなりの厚着。
「寒くないの? ボルカちゃん」
「ん? ああ、問題無いぜ。アタシに流れる魔力は熱が中心だからな! ダイバースで炎は使いまくってるし、癖になったのか余波的なものか、微かな魔力因子でポカポカなんだ」
「便利だねぇ~」
ただ炎魔導の使い手だからではなく、使い込んでいるからってのもあるんだね。
常に体内を流れる魔力。それを属性に変換して放ってるんだから、文字通り余熱が残るみたい。私の体にも何か変化が起きてるのかな……って思ったけど、ティナの視覚共有で視点が二分割してるから演算能力が高まってたりして。なんてね。実感は無いかな。
取り敢えず、魔導を使い込めば体に何らかの変化が起きる。そんな事もあるってだけだね。
「お、なんか賑わってんぞ」
「え? あ、本当だ。なんだろう。何かの催しかな?」
雑談したり近くのお店でちょっとしたおやつを食べたり。そんな感じで過ごしていたら人だかりのある場所を見つけた。
この時期、女神様の聖誕祭だったり年末年始の行事だったりで常に賑わっているから珍しい光景じゃないけど、興味本位で覗いてみた。
《さあさあさあ! 街主催、ストリートダイバース大会の募集だァーッ! ゲストとしてプロのダイバース選手が見届けてくれるよー! チームは三人から! さあさあさあ! 受付はすぐに締め切っちゃうよー!》
「ストリートダイバースなのに街が主催なんだ……」
「まあ、ダイバース人気を考えりゃ別におかしくもないな。けど三人からか~。アタシ達だけじゃ参加出来ないな」
「するつもりだったの?」
「当然! 部活が終わってから久しくやってないし、鍛練はそりゃあ続けてるけどやっぱ実践だと違うからな~」
「あー、確かにそれはそうかも。でも参加出来ないんじゃね~」
「景品も良さげなんだけど、ま、しゃーないか」
人数制限によって私達は参加出来ない。それなら観客として見ていた方が良いかな。特にやる事も無かったもんね。
私とボルカちゃんは観客席の方に向かう……そんな時。
「……あれ? あの子……」
「知り合いか? まあティーナん家の近所だしな」
「ううん。そうじゃないけど、なんか落ち込んでる」
「ん? 確かにそうだな。何かあったみたいだ」
観客席の近くで一人、膝を抱えて小さく座っている女の子が居た。
なんだか寂しそうで、落ち込んでる様子。小さい子が一人で外出するのも、無い事はないけど珍しい。私達はその子に近付いてみた。
「こんにちは。そこに座ってると冷えちゃうよ?」
「……え? ……。……こんにちは……大丈夫……こうしてたいから。気にしないで」
「そんな対応で気にするなってのは難しいな。本当に嫌なら去るけど、相談したいなら乗るぜ?」
「……」
女の子の目線にしゃがみ、話し掛ける。
戸惑いを見せるけれど、ゆっくりと口を開いた。
「私……私たち……本当はこの大会に出るつもりで……友達と……でも、友達が急に来れなくなって……病気しちゃったって……だから私……」
「成る程な。来たは良いけど、ダチから来れないって連絡があって落ち込んでいたところ、アタシ達が来たって訳か」
「うん……」
「えーと……それならお見舞いとかに行ったら良いんじゃないかな?」
女の子に聞いてみる。
このまま此処で、一人で過ごすよりはお友達のお見舞いに行った方が彼女にも友達の為にもなるんじゃないかと。
それを聞き、女の子はステージの方を指差した。
「お見舞い……あれが欲しくて……」
「えーと、優勝商品の国外旅行?」
「違う……参加賞……」
「“マジックドーム”か。確かにお見舞いにゃピッタリだな。しかもこの街の限定品」
「そっか。普通のマジックドームじゃなくて、この大会のマジックドームが欲しいんだ」
マジックドーム。それはドームの中に景色があり、それが魔力に呼応して変化していく装飾品。
この大会限定の物なので、参加出来なかった代わりに思い出をあげたいんだ。
「……それなら、ボルカちゃん!」
「ああ、乗らない手は無いな」
「……?」
私とボルカちゃんは顔を見合わせ、決意をする。元々参加したかった訳だもんね。
女の子に視線を向け、私達は提案した。
「私達でチームを組んで参加しよう!」
「え……?」
「街の大会らしく大人も子供も年齢制限無しだからな。フリーのアタシ達とならチームを組めるぜ!」
「いいの……?」
「当っ然。ダチを思う奴に悪いやつはいないからな!」
ニッと笑い、女の子の頭を撫でるボルカちゃん。
女の子は立ち上がり、私達を見て頷いた。
「うん……分かった。私も出る……」
友達の為なら即座に行動に移す。良い子だね。将来は大物になるかも!
長期休暇初日、私達は街の主催するダイバース大会に参加する事にした。




