第二十六幕 待ち受けていたのは
ゴーレムを倒した私達は、また再び探索を再開していた。
たまに現れるアンデッドモンスターや魔物から痕跡を見つけては進み、ティナを先行させて安全な場所を探す。
結構入り組んでいたダンジョンだけど、大まかな地形は把握したし事は順調と言える段階にあるかも。
「もうそろそろ出口が見えてきてもおかしくないよね?」
「多分ね。さっきより空気が澄んでいる感覚があるから。天井とかの穴から入る空気だけじゃ限られる。だから大きな空気の抜け道があるって事」
「そうなんだ! じゃあホントにあとちょっとなんだね!」
「そうなるね。けど油断は禁物。またゴーレムとかみたいな産物とか、そのゴーレムを造った術師を殺めた魔物が居る可能性もあるからね」
「た、確かに……あんなに強い土人形さんを造った人がやられちゃった相手……何年前の出来事かは分からないけど、まだ居るかもしれないんだ……」
まだ存命なら、多分それがこのダンジョンの主という事になる。
会いたくはないね……。ボルカちゃん達も心配だけど、私達かボルカちゃん達かのどちらかが早いところ抜け出せば先輩達に回収される。
早くゴールを目指す事には変わりないかな。
「……! ウラノちゃん。ティ……お人形さん越しに声が聞こえた……」
「……! という事は何かが居るって事だね?」
「多分。声色には覇気が無くてフラフラしているからゾンビとかのアンデッドモンスターだと思うけど、本当にすぐ近く。二、三十メートルあるかないかくらい」
「本当に近いね。じゃあそこの曲がり角の先だ」
「うん……!」
アンデッドモンスターの気配があった。
私達は万全にも近い状態。対処は可能。だけど確かめてみて分かったけど、ママの植物魔法でアンデッドを倒す事は出来ない。
動きを半永久的に封じる事は出来るけど、完全に消滅させるとかはやれないの。ウラノちゃんの本魔法も種類によってピンきり。だからアンデッドが相手の時は動きを封じて駆け抜けるのが得策。
「準備はいい?」
「OK……!」
数メートル進み、曲がり角の近くで待機。ティナは既に私の元に戻しており、ママを立たせて魔力を込める。
ウラノちゃんも魔導書を開いて警戒を高め、私達にも足音が聞こえるようになった。
「……!」
「走ってくる……!」
機敏なアンデッド。じゃあグールとかかな。数秒もしないうちに曲がり角から来る事が分かった。
だからもう準備は終えている。それは──今!
「“木樹捕縛”!」
「先手必勝! “フレイムランス”!」
「物語──“土人形”!」
「“光の矢”!」
「「「「…………え……?」」」」
樹を伸ばし、それは炎の槍と衝突。
本からさっき見たゴーレムを出し、光の矢に射抜かれた。
熱風がお互いの髪を揺らし、私達は向き直る。もしかしてこれって……!
「ボ、ボルカちゃん!?」
「ティーナか!」
「なんだ。ルーチェね」
「ウラノさんですの」
出会った人達は、別チームとして競い合っていたボルカちゃんとルーチェちゃん。
同じダンジョンでの試合だけど、ここまで会わなかったから驚いたぁ。
互いに互いを確認し、ボルカちゃんは杖を下ろして言葉を続ける。
「ティーナ達が此処に居るって事は、多分正解のルートみたいだぜ。ルーチェ!」
「その様ですわね……。炎の探知機があったとは言え、あんな闇雲に動き回って正解を引き当てるなんて……なんて豪運……」
炎の探知機? そんな物を使えるんだ。流石はボルカちゃん。
そして突っ走る感じでやって来たのも彼女らしいね。
「そう言えば、お人形さんを先行させて出口を探していたけど、ボルカちゃん達の声に覇気が無かったよね。どうかしたの? 制服もボロボロだし……」
「ん? あぁー……まあ、ちょっとした魔物と戦って負傷したんだ」
「負傷……! だ、大丈夫なの……!?」
「その点はルーチェに治して貰ったから元気になりつつあるよ。見ての通りピンピンさ!」
「良かった……」
結構傷は深かったらしいけど、ルーチェちゃんのお陰で治ったみたい。
みんなはスゴいなぁ。何もやれてないのは私だけ……。だって私の魔法はママやティナありきだもん。ティナは私だけど、今のところ偵察くらいしかしていない。
私もみんなに負けないように頑張ろう!
「そんで、一応アタシ達は敵同士だけど、どうする?」
「……!」
そこにボルカちゃんが一言。
そう、今の私達は敵。そう言うルールで執り行われている。
その場合どうしたらいいんだろう……。やっぱり戦わなくちゃいけないのかな。
ルーチェちゃんとウラノちゃんもボルカちゃんの言葉に続く。
「そうですわね。先輩達の狙いもこれでしょう。本番ではどんなルールでも定められるからこそ、例えお友達であってもやらなきゃならない時があると……」
「私は別にどうでもいいかな。友達ではあるかもしれないけど、特別仲良しって訳じゃないから。言うならただのクラスメイト」
友達同士の立ち合い。これもルミエル先輩の狙い。そう言うルールや、相手の魔法でそうなる可能性があるから。
ウラノちゃんからまだ仲良しって認められていないのも気になるけど……親睦は後で深める! 絶対に!
今はボルカちゃん達の方かな……!
「確認しておくけど、ルールは把握しているよな?」
「まあね。別に血みどろの死闘を繰り広げる必要は無い」
「あ、そっか。先にゴールした方が勝ちだもんね!」
「それを踏まえた上での私達の行動は……」
──瞬間、全員が一斉に動き出した。
私はボルカちゃん達の前へ植物魔法からなる樹の壁を作り出し、それをボルカちゃんは火の槍で貫通。
魔術の要領で掌から炎を放出し、先行く私達の後を追った。
その後ろには光の鎖でルーチェちゃんが繋がっている。ボルカちゃんの速度を最大限に利用する形みたい……!
「ゴールはそっちなんだな!」
「分からないけど、とにかく先に行くよ!」
「ハッハ! ティーナの植物魔法は相変わらずの魔力出力だな!」
実際のところ、大凡の検討くらいで場所までは分からない。だけどバッティングしちゃったからにはそこ目指して行くしかないよね!
様々な形の木々を生み出して壁とし、ボルカちゃん達の通行を妨げる。
「炎は植物を焼き尽くせるんだぜーッ!」
「だよね~! けど、元気な樹には沢山の水分が含まれてるから中々燃えないよ!」
「アタシの炎魔法は実体を持たせる事も可能さ! 高速で極太の槍を突き刺したらアタシ達が通れるくらいの穴は出来る!」
「流石! ボルカちゃん!」
「敵を褒めるな敵を! 嬉しいけどさ!」
木々の壁を物ともせず一気に迫り来る。
多少の足止めは出来ているけど時間の問題かも。
本魔法は準備が必要だから現状でやれるのはただひたすらに樹を張り巡らせて私達は身体能力を強化して走るだけ。
「ハァ……ハァ……このところ走りっぱなしで……身体……能力を……強化してもっ……疲れる……」
「ファイト! ウラノちゃん! 私も頑張るから一緒にゴールしようね!」
「なんか裏切りそうな言い回し……性格上そんな事しないんだろうけど。……それにしても貴女、意外と体力あるね……。どちらかと言えばインドア派なんでしょ……?」
「うん! だけど屋敷中を走り回っていたから! 自然と体力は付いたのかも!」
「な……成る程……ね……」
ゼェ……ハァ……と大きく息を吸っては吐いてボロボロになりながらも進む。
何か移動に使えそうな植物って無いかな……。馬車とかの材料ならあるけど、組み立てる時間なんて到底無いもんね。
「……! あ、けど見て! 向こうに光が差し込んでるよ!」
「……! ほ、本当だ……あの光の加減から大きな差し込み口があると判断して……十中八九出口!」
「やった! このまま逃げ切れば勝てるね!」
「そうだ……ね……」
逃げ切れるかな?
常に壁やネット。トラップは張っているけど、ボルカちゃんの突進力はとんでもない。
やって来るのも時間もんだ──
「誰が、誰から逃げ切るって!」
「「………!」」
「は、速過ぎますわ! ボルカさーん!」
会話の途中、横からボルカちゃんが飛び出した。
追い付かれた……!? ううん、追い抜かれた! だけどまだ手段はある。出口ならどこかに引っ掻ける場所がある筈!
ダメ元で蔦を伸ばし、何かに引っ掻けた。
「……ぇ……?」
「……は……?」
蔦を引き、ボルカちゃんに追い付く。そして私達は二人同時に素っ頓狂な声を上げ、目の前に立つ“ソレ”を視界に収めた。
ソレは私達を見るや否や、ノソリと動いて息を吸う。その時、
『ブモオオオォォォォォッッッ!!!』
「「……っ!」」
「「……っ!」」
とてつもない絶叫が響き渡り、その衝撃で天井が崩れ落ち、私達四人が入ってきた穴が塞がれてしまった。
だけどこの際それは置いておく。だって私達の前に居る魔物は……!
「ミノタウロス……!」
迷宮の番人、牛の頭に人の体を持つミノタウロス。蔦を絡めたのはツノだったんだ……!
確かに場所的には居てもおかしくないけど、私達にとっては存在自体がおかしなもの。
だってミノタウロスは、かつての英雄達が倒したって記録が残っているんだもん。
伝承じゃなくて、明確な数千年前の記録。海の神様の怒りを買ったとある青年は醜い化け物の姿にされたと云う。それが魔族の国へと行き渡り、当時旅をしていた英雄達の剣士が切り伏せたって……。
その事からしてもミノタウロスは世界に一体しか居ない筈。だとすると同じように怒りを買った誰かなのか、似ているだけの別種なのか。その何れにしても私達で務まるような相手じゃない……!
『グモォォォッッッ!!!』
「……っ。なんつー絶叫だよミノタウロス……!」
「鼓膜が破けちゃう……!」
絶叫だけで傷を負い兼ねない程の存在。
魔物という領域に留まっていないよ……正しく怪物! って感じ……!
片手には武器の戦斧が持たれており、筋肉質な体が鼓動する。
私達の迷宮脱出ゲーム。本当にそうだとするなら、おそらくこのミノタウロスが此処の主……!
私達は息を飲み、ミノタウロスに向き合うのだった。




