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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部一年生
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第二十五幕 肉体派

『ピギィ!』

「甲高い金切り声……うるさっ!」


 こう言っちゃ悪いけど、耳障りな声が響いて毒液が吐き出された。

 アタシは炎をぶつけて蒸発させたけど、これってマズイかも。


「ルーチェ! 息を止めて離れた方が良い! アタシはルーチェが居るから大丈夫だけど、アタシには助けられない!」


「わ、分かりましたわ!」


 猛毒の液体に炎をぶつけたら有毒ガスが発生するのは当たり前。毒の成分を含んでいる訳だからな。

 ルーチェの魔法をアタシは知っているから強気に出られるけど、本人がやられたら対処のしようがない。


(けどま、なるべく息はしない方が良さそうだ。隙間は至るところに空いてるから自然に抜けるのを待とう)


『ピギュア!』

(相変わらず耳障り……!)


 思考を余所に構わず仕掛けられる。

 続いて吐かれたのは炎。ワームって火と毒で戦うんだっけな。ドラゴンの成り損ないとはよく言ったもんだ。

 個体によっては上位に君臨する事もある魔物だけど、コイツはアタシでも火と毒が防げるからそんなに強くないんだろうな。

 先輩達が用意してくれたダンジョンだし、アタシ達のレベルに合わせてるか。


(呪文は無しで……“フレイムアロー”!)

『ギュアァ!』


 杖を振るって矢を生み出し、それを一気に射出する。

 貫かれたワームは悲鳴のような声を上げ、ウネウネと体をくねらせながら悶える。

 うへぇ……攻撃しといて悪いけど、気持ち悪ぃな……。そのまま床を這い、左右に体を揺らして勢いよく迫り来る。


『ピギャアアア!』

「キャアアア!! 迫って来ますわああああぁぁぁぁっっっ!!!?」

「おわっ!? こっちがビビる! けど、確かにキモいぃぃぃ!」


 その光景は……なんだろう。言葉で表しにくいけど、とにかくキモい!

 口から体液を吐きながらうねった細長いナニかが来ているこの光景。生理的に無理な感じだ。


『ピギィィィ!』

「あ、足に……!?」


 アタシの足にワームが絡み付き、ぬめった感触と弾力が直に来る。

 超絶気持ち悪い……! 帰ったらソッコー風呂に直行したい!

 そんな事を考えながら杖に魔力を込め、


『ピッキャア!』

「……っ。手にも……!」


 杖の持った手に尾が絡み付き、足から腕に掛けて生暖かいヌメリが伝わる。

 うげぇ……。しかもこの体液……制服から中の方に入ってきてる……。そしてなんか生臭い。

 杖が使えないなら魔術で行くか。


「キモいから……離れろ……!」

『キギャア!』


 火球を撃ち出し、吹き飛ばすようにワームを弾く。

 ただの炎に吹き飛ばす力は無いけど、魔法や魔術からなる炎だからな。なんか不思議な力が働いて吹き飛ばす事も可能だ。

 そして炎があまり効かないのは承知の上。そういう時は魔法使いのアイデンティティを利用するだけ!


「そらよっと!」

『プギャア!』

「物理魔法ですわ……」


 魔力を込め、高めた身体能力と強化した杖でワームを殴り付ける。

 それによって怯んだ隙にアタシはルーチェの手を引いてダンジョン内を駆け出した。


「ちょ、ボルカさん!?」

「このままじゃジリ貧だ。しかも毒を散らすから狭い部屋だと不利になる!」

「そうですけど、どこへ行かれるんですの~!?」

「アタシに考えがある。諸々終わったら回復頼むぞ!」

「え?」


 わざと追い付ける速度。加えて痕跡も残している。

 これなら絶対追ってくる。ドラゴンの成り損ないだけあって耐久力はまあまあだし、それならさっさと終わらせるだけ。


『ピギャアアア!』

「やっぱし追ってきたか。ほらほら、その程度じゃ追い付けないぜ! “ファイアボール”!」


 次々と下級魔法を放ち、小さいながらもダメージを与えてワームを挑発していく。

 本能で動いているような存在。アタシ達を追って来るのは必然であり、必ずそうなるからこそその道に仕掛けておくのが得策。

 アタシは天井へ炎を放った。


「“フレイムブロー”!」

『……!』


 撃ち出した火はワームの頭上を行き、アタシが立ち止まった瞬間に相手が飛び掛かる。

 つまりチャンスはそこで生まれる。


「アタシが狙ったのは、この高い天井だよ!」

『プギィィィ!』


 直後に天井が崩落し、ワームの体は崩れた瓦礫に飲み込まれた。

 それなりに頑丈だからまだやられてはいないと思うけど、結構なダメージにはなる筈だ。

 そこから更に畳み掛ける。


「コイツに効くのは物理かなー。やっぱ!」

「ボルカさん!? そんな無茶な!」


 全身に魔力を流し、それを炎に変換。体内で燃え盛る肉体となった。

 これで相手の炎にも耐えられる。全身をコーティングしている訳だからな。毒だってある程度は無効化するから問題無し。

 そして身体能力も大幅アップだ!


『ピギュウ!』

「終わらせるぜ!」


 強化した身体能力に炎のバフを付与し、推進力を高めて爆発的に加速する。

 ジェットエンジンみたいなもの。ティーナと一緒にセンパイから逃げている時に思い付いたやり方だ!


「高速の拳を叩き込みィ!」

『ピ……!』


 加速して拳を打ち込み、アタシの手はワームの口の中へ。火炎を吐いても意味がないと本能から汲み取ったのか直後に毒液を吐かれて気分が悪くなる。しかも腕に牙が刺さって痛い。

 けど既に準備は整っている! 言うならアタシが全身を魔力コーティングした時点で完了だからな!


「火耐性はかなり高いよな? けど、液体でも気体でも、飲み込み過ぎると崩壊するんだぜ!」

『──!』


 魔力を全解放し、ワームの体内へ炎を放出。耐熱性があって火にも強い体だからこそ逃げ場を無くしたエネルギーは蓄積される。

 風船に空気を入れ過ぎたらどうなるかの想像は難しくないだろうさ!


『ピギャア!』

「我慢比べって訳だな! 乗った!」


 毒と火に全身が包まれ、痛いし熱いし息も苦しい。けど耐えている。

 制服もボロボロになっちゃうな。買い換えなきゃならないか。と言うか、今度からはちゃんと学校指定の運動服を着よう。出費もその方が抑えられる。


「ほらほら、頑張れ頑張れ。もっと沢山出さなきゃ、アタシをオとす事は出来ないよ!」

『──!』


 両手を穴に突っ込み、更なる火炎を撃ち込む。次第にワームの出力も弱まり、今一度力を込めて吹き飛ばした。


『───』


 反応が無くなり、体内から炎に包み込まれるように破裂。毒ガスと混ざり合って大きな爆発が巻き起こり、アタシの体はルーチェの方に吹き飛ばされた。


「やりぃ~。アタシの勝ちだな!」

「ボ、ボルカさん! 大丈夫ですの!?」

「ううん。全然! 多分余命数分!」


 次の瞬間に意識が遠退き、その場で失う。目覚めた時、アタシはルーチェを見上げる形となっていた。


「お、治してくれたのか。サンキュ!」

「治すに決まっているでしょう! 本当に無茶をするんですから!!」


 制服は丁寧に脱がされており、下着も羽織っていない状態。ちょっと恥ずかしさと肌寒さもあるけど、全身大火傷と中毒だからマジで隈無く回復させなきゃヤバい状況にあったのだろう。

 近くに折り畳まれている衣服や下着を見、ルーチェの上品さがしかと伝わった。


「けど本番じゃ使えないやり方だなぁ~」

「当たり前ですわ! 一歩間違えたら本当に死んでしまうんですもの!」

「いや、それもあるけどさ。迅速な治療が必要だし、会場のモニターにアタシの裸体が映るのは問題だろ?」

「そっち!? いや、確かにこの御綺麗な体を皆様に晒すのはイケないと思うけれど……そちらですか……」

「そりゃアタシも死にたくはないさ。けど、ルーチェが居てくれるだろ? それに本番ならティーナやビブリーも居る。多少の無茶は心配ないって思ってるぜ!」

「……っ。そ、そう言われるのは悪くありませんわ……けど、ティーナさんは私以上に悲しむと思いますのでこんな真似は二度としないでくださいまし!」

「はーい。反省してまーす」

「本当にそうですの……」


 ルーチェの魔法は聖なる回復魔法。それも高等部レベルの上級魔法。

 即死だったらマズイけど、重傷なら完治まではいかずとも戦線に復帰出来るくらいは治せる。

 お陰でアタシもこんな無茶を出来たって訳さね。


「改めて、サンキュ! ルーチェ!」

「もう……」


 行動可能になり、衣服を着用。……あちゃあ、魔力でコーティングしても火で焼かれたからボロボロだ。色々見えてる。

 まあでも、このダンジョンに居るのはルーチェやティーナ達。そして見ているのも先輩達だけ。あんま支障はないか。

 ワームを倒したアタシ達。“アタシ”だけじゃないよ。ルーチェが居なきゃ相討ちだったからアタシ“達”。

 さて、大分時間も食ったし、出入口を探しますかぁ~。

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