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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部一年生
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第二十二幕 迷宮脱出ゲーム

 会った直後に模擬戦をする事になった私達は、それぞれでチームを組むらしい。

 そのチームは部長のルミエル先輩が決め、提示されたルールでダイバースを行うみたい。


「それではチームですが、ティーナ・ロスト・ルミナスさんはウラノ・ビブロスさんと。ボルカ・フレムさんはルーチェ・ゴルド・シルヴィアさんと組む事にしました」


「アタシは縦ロールとか。よろしくな!」

「あの……ボルカさんと組めるのは大変嬉しいのですが、印象ではなく名前をお呼びして貰いたいですわ」

「ハハ、OK。ルゴシ!」

「奇っ怪な短縮法を試さないでくださいまし!?」


「よ、よろしくウラノちゃん!」

「うん。本当はボルカさんと組みたかったんだよね」

「え!? えーと……ちょっと違うかな。今回はみんなの親睦を深める為だし、私はウラノちゃんと組めて嬉しいよ! 言うなら、ボルカちゃん、ルーチェちゃんとも(・・)みんなと組みたかった。かな!」

「そう。それは良かった」


 チームは私とウラノちゃん。ボルカちゃんとルーチェちゃんに分かれた。

 ボルカちゃん達とも組みたい気持ちはあるけど、全然嫌じゃないのは本当。だって新しいお友達が出来るかもしれないから!

 だけどウラノちゃんにはどう思われているんだろう……。あまり印象は良くないのかな……。


「それでは早速始めましょうか。ルールは“迷宮脱出ゲーム”よ!」


「迷宮脱出ゲーム?」


「ええ。ダイバースには“狩り”が許された迷宮。所謂いわゆる“ダンジョン”を借りる事が出来るの。そこには魔物達が居て、魔物を退けながら先に脱出した方が勝ちと言うシンプルなものよ。メジャーなルールで、よく行われている試合でも使われる事が多いわ」


 迷宮脱出ゲーム。それは魔物を倒しながら早い者勝ちでダンジョンから抜け出すもの。

 ルールは分かったけど……。


「何の悪さもしていない子達を倒すんですか……?」


「ふふ、貴女は優しいのね。ティーナさん。けど安心して。指定ダンジョンに居る魔物は液体や物質に魔力が宿っただけの意思の無いモンスターとか、死してなお苦しみ、魂だけで彷徨さまようしかない救いを求めているアンデッドが大半なの。自然リスポーンしたり、倒される事が救済になる魔物しかいないわ」


「そうなんですか……」


 意思の無いモンスターに救いを求めるアンデッド。それがダンジョンに居る魔物達。

 それなら救い出した方が良いのかも。死んじゃったのに救いが無いなんて──


【……貴女が居てくれたから、私は幸せだったわ。今までありがとう】


 ──無い……なんて……あれ……なんだろう。今の記憶……。

 前にも何度かあったけど……胸が締め付けられてるみたいに苦しくなる……。


「はぁ……はぁ……」

「ティーナさん……!? 大丈夫!?」


 ルミエル先輩が私の側に寄り添って支えてくれる。

 見ればボルカちゃん達も来てくれていた。また迷惑掛けちゃったかな……。


「大丈夫です……。ちょっと緊張のし過ぎで……」

「ホント? もし体調が悪いのならまた後日にするけれど……」

「いえ、問題ありません……。たまになるだけで……」


 そう、たまに変な感じになるけど、自然と収まって落ち着く。

 先輩達やみんなに心配掛けるのは良くないよね。深呼吸をし、気持ちを整えた。うん。大丈夫。何の問題も無い。

 落ち着いた所で元気を振り絞り、みんなに話す。


「もう大丈夫です! 発作みたいなもので、たまに気分が悪くなるだけでそれ以外には何もないので続行してください!」


「そうかしら……? 貴女が望むならそうするけど、ダメそうならちゃんと言ってね。何かの影響があるなら私達が見極めて無理矢理でも止めるから」


「はい!」


 私の体調を心配してくれている様子。私が大丈夫でもダメそうと判断したら止めるらしい。

 後輩想いの先輩だね。けどホントに平気だから問題無し! ……多分。

 そんなこんなでウラノちゃんが私の方に来て話す。


「私と組むのそんなに嫌だった?」


「ううん! 違うよ! 違うの……なんて言えば良いんだろう……さっきも言ったみたいに発作的な感じだけど……病気診断はされなくて……貧血とかに近いのかな? 私もよく分からないけどそんな感じ」


「全部が曖昧。私とは嫌じゃないの?」


「当たり前! 私はみんなと仲良くなりたいし、ボルカちゃんやルーチェちゃんみたいにウラノちゃんも好きになるつもりだよ!」


「お、大きな声で恥ずかしい事を言うんだね……」

「え? そうかな?」


「ティ、ティーナ……。ちょっと恥ずい」

「えーと……ティーナさん……私も……」


「……?」


 友達を好きになるのが恥ずかしいって思うのは何でだろう。好きなら好きって言えば気持ちが伝わるのに。

 見ればボルカちゃんとルーチェちゃんの二人もちょっとよそよそしくなっていた。ホントになんで?


「ふふ、気持ちを正直に言うのは大事よね。それじゃ、早速今回のダンジョンに向かいましょうか。長い事使われていない場所だけど、そんなに強い魔物は出てこない所だから中等部に入りたての貴女達でも簡単に攻略出来るわよ♪」


 そう告げ、ルミエル先輩は記入用の紙と転移の魔道具を取り出した。

 それらに魔力を込め、登録を完了した私達の場所は一瞬にして神殿のような所に移った。


「わぁ……!」

「此処が例の舞台ね」


「もうティーナ達の場所は見えないな」

「差し詰め反対側にでも送られたのでしょう。やりますわよ! ボルカさん!」

「おう!」


 私とウラノちゃんの位置からボルカちゃん達や先輩達は見えない。別々の場所って事だよね。

 今回の判定員とかは居ないし、先輩達が見守ってくれてるのかな? それなら安心出来るね!

 その神殿は古めかしさが残っている物であり、建物を支える柱の所々にはクモの巣が張られているのが見えた。

 チラホラ雑草があったり砂が入り込んでいたりと人の手が全く加わっていないのがよく分かる。

 だけど何度か舞台になっているらしいから定期的に色んな意味での掃除はされてるんだよね。……ううん。今は使われてないって言ってたから、かつては整備されていた……かな?

 ウラノちゃんも周りを見渡し、私に向けて話し掛ける。


「それじゃ、早速開始するよ。貴女の人形魔法は何が出来る?」

「えーと、植物を生やしたり、感覚を共有して索敵したりそんな感じかな」

「ふぅん。それはまあまあ便利だね。じゃあ早速共有をお願い。出入口を探そっか」

「うん。……えーと、その為には私の視界が悪くなるから手とか握っててくれないかな……」

「……! ま、まあ、確かにその必要はあるかもね。それだけのアドバンテージはある。いいよ」

「ありがと!」


 ウラノちゃんの手を握り、ティナに魔力を込める。ティナの視界が私の目に伝わり、聞こえる音が鼓膜を揺らす。

 五感の一部を繋ぎ合わせ、魔力の糸を伸ばしてティナを飛ばした。

 そこにウラノちゃんは声を掛ける。


「私の言葉には返せる?」

「うん。ティ……お人形さんから聞こえる音は風を切るものだけだから平気。返事は出来るよ」


 それは応答の確認。私が場所とかを把握しても、私だけで取り込める作戦は少ない。なので言葉を返す事は出来るようにしている。

 ウラノちゃんは多分頷いて返した。


「分かったわ。早速だけど、貴女の糸は何処まで伸ばせる?」


「うーんとね……詳しくは測った事無いかな。今までの実例で言うと、数キロ……直径二キロ以上五キロ以下の森とか、上空数百メートルには届いたかな。限界はまだ試してないよ」


「結構な広範囲を調べられるんだ。視界や聞こえる音の範囲は?」


「視界は普段の私と変わらないくらいかな。音も同じ。私が能力そのまま小っちゃくなったみたいな感じかな!(ティナはティーナ()だから当たり前だけどね!)」


「ありがと。大凡おおよそは把握したよ」


 ティナを通しての確認を終え、私はウラノちゃんに手を引かれながら神殿内を行く。

 ティナは先行させてるから、私達は安全に進む事が出来る。今回のルールは何よりも先に脱出した方が勝ち。本来なら二手に分かれた方が良いので分かれ道があったら私達とティナは別々の方向に行くよ。


「二百メートルくらい先に分かれ道発見したよ!」

「道の数は?」

「左右と中央で三つかな」

「奥を見た感じの印象は?」

「左側は若干だけど他より草が多いかも。中央はただひたすら一本道。右側には……わっ……人の骨がある……」


 分かれている三本の道。

 左右と中央。ほとんど同じだけど、若干の違いは見える。人骨は怖い……。見たくないなぁ……。先も真っ暗で不気味だし……。

 私の返答を聞いたウラノちゃんは言葉を続けた。


「それじゃあ左側ね。草があるって事は風に乗って種とかが運ばれてきた事の証明。定期的に水や日光も入ってくるかも。確認しておくけど、天井が壊れてて光が漏れたり空が見えたりはしていない?」

「うん。基本的に暗いね。確認出来る範囲が狭いよ」

「確定したわ。中央はよく分からないけど、右側は絶対ダメ。魔物が住み着いているって事だから。左側にも水を運ぶスライムとかが居るかもしれないけど、白骨化させる程じゃないから安心出来るよ。……消化液からなるスライムだったら厄介だけどね」

「ス、スゴい……スゴいよウラノちゃん! ほんの少しの情報だけでここまで分かっちゃうんだ!」

「そ、そんなに素直に喜ばれるとちょっと恥ずかしい……。物語の主人公みたいにキリッ……って感じで話しちゃったし……」


 ウラノちゃんの声が少し小さくなった。

 なんでだろう? 私はスゴい事をスゴいって言っただけなんだけど、気に障っちゃったかな……。


「えーと……怒らせちゃったならごめんなさい……」

「全然怒ってないよ。と言うか、なんでそんな判断になっちゃうかな。……同い年の子には褒められ慣れてないから恥ずかしかっただけ……」

「そうなんだ! 怒ってなくて良かった~!」

「……貴女、本当に素直なんだね……」

「……?」


 なんだろう。この何とも言えない声音は。

 私は思った事を言ってるだけなんだけど、それは素直って言えるのかな?

 ま、いっか。ボルカちゃんやルーチェちゃんとも組みたかったけど、頼りになるウラノちゃんとも組めて良かった~。贅沢言うなら全員で試合に出たいね!

 そんな事を話しているうちに分かれ道に来た。


「ほら、さっさと左側に……何してるの?」


 ウラノちゃんが先の道へ行こうとするけど、私は名前も知らない誰かの骸骨の前に座る。

 それについて疑問に思う彼女へ返した。


「……誰にも弔われないでずっと一人ぼっちなのは可哀想で……何となく放っておけないんだ。供養は出来ないけど……せめて寂しくないように……」


「……そう。立派な心掛け」


 ママを通して魔力を使い、その周りに花を咲かせる。

 お花には色々な花言葉があるみたい。図鑑を調べていたら分かったの。だから鎮魂になるような物を選んで包み込んだ。

 何となく。本当に自分でも理解出来ないけど、放っておけない。ウラノちゃんも分かってくれたみたいだね。


「行こっか。左側だよね」

「ええ。既に人形を先行させたよね?」

「うん。けど結構入り組んでて複雑。天井もボロボロで人は通れないくらいの穴が空いてるから植物とかの目印も無いかも……」

「年季の入った神殿はそれが普通。そう言う時は壁伝いに行けば辿り着けるけど、少し時間が掛かるね。今回の勝利条件的にも先に脱出した人の勝ちだから、あまり得策じゃないかも」


 脱出する手立てはあるみたいだけど、それも結構難しいみたい。

 ううん。難しいと言うよりは時間が問題との事。これは早い者勝ちの試合。ゆっくりはしていられないね。

 だけどどうしよう……。


「スライムでも居ればまたヒントになるんだけどな……」


「スライム? スライムがヒントになるの?」


「ええ。スライムは湿地を好む魔物でしょ? だから本能……とでも言うのかな。生態的に水気の感じる場所によく巣を作るの。まあ、独立した魔力の塊だから厳密に言えば巣とも違うんだけどね。取り敢えずスライムが居る場所は水場が近いって証明。逆に乾燥している場所には居ないから、スライムを見つけたら取り敢えず逃げて、追ってきたらその先には水場がある。来なかったら乾燥しているって見分ける事が出来るの」


「そうなんだ……」


 魔物の生態から判断して居場所の特定を行うやり方。ウラノちゃんは本当に詳しいんだね。毎日本を読んでいるし、スゴく物知りなのかも。

 ボルカちゃんとは別方面で頼りになる!


「一先ず先に進もうか。ここからは魔物を避けるんじゃなくて積極的に見つけてその生態から出口を特定するよ」

「うん!」


 左側へ行き、更にその先へ。

 ここまでは……と言っても精々数百メートルだけど魔物を避けてきた。だけどここからは敢えて魔物とぶつかり進まなきゃならないみたい。

 私達の迷宮脱出ゲーム。それはまだ始まったばかり!

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