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【第12回 ネット小説大賞受賞】稀代の悪女は、猫となり愛を知る。  作者: 清澄 セイ


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死んでくれてありがとう

「殿下がいらっしゃる時はいつも気を揉むのよね。ヘレナ様との逢瀬を、見てみないふりしなきゃならないし」

「だけど、眼福よ。あれだけの麗人はなかなかいないし、ましてや王子様なんて物語の中でしかあり得ないようなことだもの」

「そりゃあ、ヘレナ様も必死になるわけだわ。オフィーリア様と正式に結婚なさる前に、なんとしてでも自分のものにしなくちゃってね」

 けらけらと笑いながら、メイド達は去っていく。結局、どれだけ権力を持っていようが性悪は嫌われる。表向きではヘレナに従うしかなくとも、裏ではああして嘲笑っている。

 思えばアレクサンドラの公開処刑のあの日、てっきりゴミ屑でも投げつけられると期待していた私は、眼前に広がる鮮やかな花束の山を見てさすがに困惑した。

 それは婚約者である王太子の仕業で、頭の足りない小太りだと私が散々馬鹿にしていた相手。公開処刑を望んだ私に与えられたのは、死化粧には不釣り合いな純白のドレスと派手な化粧。その上花に囲まれて、割れんばかりの拍手喝采を受けた。

「良かったなぁ、アレクサンドラ。皆がこの良き日を祝福しているぞ。案ずるな、誰もお前を恨んでなどいない。そんな価値もない、取るに足らない存在だからな」

 私に虐げられるばかりで度胸もない男だと思っていたけれど、あれだけは素晴らしい演出だった。おかげで私は、まんまと歯軋りさせられたのだから。

 断罪場で私を悪魔と叫び、ありったけの侮辱で罵った。それまでどれだけ好き勝手にしても文句ひとつ言わなかった人間の、憎しみに歪んだ顔はなかなかどうして悪くない。

 てっきり、処刑塔でもあの表情が見られるとばかり思っていたのに、まさか最後にあんな形で一矢報いてくるとは。さすがの私も、温かな笑顔と拍手に包まれながら頭を落とされることになるとは予想していなかった。

 しかし、それは妙案かもしれない。ヘレナが最期を迎える時には優しく手を握ってやろうと、架空の未来を想像した。

「ああ、だめよね。妹を死なせないよう、ヴィンセントにお願いしなきゃ」

 あの男は、ヘレナと違い曲者だ。今回はまかり間違っても、相打ちという結果は許されない。オフィーリアの幸せには不要な登場人物だが、安易に邪険にしてはすぐに殺されてしまうだろう。

「とりあえず、お昼寝でもしましょう」

 暖かな陽射しのベールが私の体を包み込み、その気持ち良さに身を委ねながらうっとりと瞼を閉じたのだった。

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