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【第12回 ネット小説大賞受賞】稀代の悪女は、猫となり愛を知る。  作者: 清澄 セイ


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隅に追いやられた理由

「日当たりが良いのよね、ここって」

 適当な木箱を窓辺に積み上げ、そこに腰を下ろし脚を組む。明かり取り用の窓にしては大きく、外側に開く。まるで「飛び降りご自由に」とでも言いたげな造りのそれは、私にとっては有利な産物でしかない。

 ここにいても、誰かしらの声が耳に入ってくる。忙しなく出入りする使用人や業者達の噂話も、ヘレナや母サラの金切り声も、父ホーネットのがなり声も、何もかも。

「なんだか眠くなってきたわね」

 伸びをすると天井に腕が当たるのは不快だが、狭い場所が落ち着くのは猫の名残。アレクサンドラが寝ていた天蓋付きのベッドは、一体この部屋の何倍あっただろうと純粋な疑問が湧いた。

「そういえば今日、ヴィンセント殿下がいらっしゃるらしいわよ」

 ふと、青嵐に乗ってメイド達の会話が私の元へと届けられる。少し耳を澄ますと、その下世話な話の続きをしっかりと聞くことが出来た。

「ああ、だからオフィーリア様を屋根裏へ追いやったのね」

「仮にも王子の婚約者である娘に酷い仕打ちなんて、奥様もよくやるわよ」

「仕方ないわよ。ヴィンセント殿下も、本当はヘレナ様と結婚したいみたいだから。オフィーリア様は、家族からも婚約者からも疎まれるお可哀想な方だわ」

 彼女らの口にする“可哀想”は、明らかに私を見下していた。今日ヴィンセントがこの屋敷を訪ねてくることを知らされないという、そんなあり得ない話がまかり通っている時点で、周囲が私を馬鹿にする十分な理由となる。だからこそ、真昼間から下品な声を晒して得意げに悪口を吹聴出来るのだ。

「ヴィンセント、ねぇ……。随分と久しぶりに思えるわ」

 ふんと鼻を鳴らしながら、猫として絶命したあの夜を思い返す。ヴィンセントを殺した後、オフィーリアの傍でいつの間にか生き絶えていた。後悔などしてもいくらしてもしきれないが、オフィーリアを救えなかった事実よりも、ヘレナの顔を爪研ぎに使えなかったことの方が悔しくて堪らない。それから、ヴィンセントのあの薄気味悪い純黒の双眼を抉って、あの世でも二度とオフィーリアをその瞳に映せないようにしてやりたかった。

 彼女はすでに息絶えていたのだから、見るに絶えない残虐な方法で罰を与えればよかったのだが、いかんせん時間が少な過ぎた。

 所詮は無力な小動物で、やらなければやられていた。考える余裕などなく、ヴィンセントとの勝負は紙一重だったのだ。

 稀代の悪女と呼ぶには、愛を知り過ぎてしまった。一度腑抜けた魂は、もう二度と愛される前には戻れない。

 まぁ、過去に思いを馳せても意味がない。オフィーリアを死に追いやった狂人の顔を拝んでやろうと、可愛らしく微笑んだ。

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