魔晶石作り
「ええと、さっきはどうやったんだっけ?」
ドラゴンの姿に戻った私は、岩だらけの火口を見回して首を傾げた。
「確か、火山で出来る石の事を考えて、それから……何だったっけ?」
不親切チュートリアルちゃんは、少し離れた所から黙って私の様子を見ている。だけど、めっちゃ期待されてるのをひしひしと感じるわ。
「あ、そうそう。岩だらけで面白くないから、もっとキラキラして明るい場所だったら良いなって思ったんだっけ。宝石とか原石とかがいっぱいあるみたいな!」
思い出して手を打った瞬間、またしても閃光が走り一瞬だけ目が眩む。
まあ実際にはドラゴンになってる私は、全然目が眩むなんて事はないんだけどさ。いきなりだから、びっくりはするわよね。
そして光が収まった時、またしても辺り一面は巨大な魔晶石に埋め尽くされていました。
しかもさっきよりも大きい。
小さな魔晶石は全くなくて、一つ一つがドラゴンになった私の手でも掴めるくらいある。はっきり言って小さい魔晶石でも余裕の3メートル越えサイズ。
「あらら、ちょっとやりすぎたかしら?」
苦笑いしながら辺りを見回す。
「すごいすごい! 期待以上ね。だけどさすがにこんなに大きな魔晶石ばかりを出されてもねえ」
拍手しながら近寄って来た不親切チュートリアルちゃんが、そう言いながら同じく苦笑いしている。
「大きいと困るの?」
疑問に思ってそう尋ねると、不親切チュートリアルちゃんは近くにあった大きな魔晶石に座った。
「人の子がこれを使う時の事を考えてよ。それこそ、術者が何十人も集まって、とんでもなく大掛かりな術を発動させるのでも無い限り、こんなに大きな魔晶石は必要無いわ。どれだけ大きくても、これくらいもあれば充分よ」
そう言って両手を広げて見せる。多分20センチぐらいね。
「了解、じゃあ作り直せば良いのかしら?」
何となくだが、分解も出来そうだったのでそう言ってみると、不親切チュートリアルちゃんは慌てたように羽ばたいて私の目の前まで飛んできた。
「何言ってるのよ。これほどの魔晶石を分解するなんてとんでもないわ!」
その声が合図だったかのように、またサラマンダー達が一斉に現れた。
「おお、これは素晴らしい。なれどさすがにこの大きさは気安く配るわけにはまいりませぬなあ。万一に備えて備蓄しておくと致しましょう」
あの一際大きなサラマンダーがそう言うと、周りにいた子達がまた次々と巨大な魔晶石を飲み込み始めた。
よし、この妙に時代劇かかった喋り方をする大きなサラマンダーは、長老と勝手に呼ぶことにする。
「ミサキ様、私も念のため持っておきますね」
何処からともなく現れた、私の杖の石の中に入っていたはずの茜がそう言って足元の大きな魔晶石をいくつも飲み込み始めた。
へえ、今は私が収納している杖の中からでも勝手に外に出入り出来るんだ。
せっせと魔晶石を飲み込む茜を見ていたが、ふと思いついて不親切チュートリアルちゃんに質問する。
「ねえ、備蓄しておくってどう言う事? 何処かに保管場所があったりする訳?」
「サラマンダー達が収納して持っておくって事よ。あの子達は火の魔晶石なら無限に持てるから気にしなくて良いわ」
「ふうん、容量は無限なんだ。良いわね」
その説明に感心して見ているうちに魔晶石は食い尽くされてしまい、元の岩だらけに戻ってしまった。
だけど、サラマンダー達は、今回はすぐ消えずに私の様子を伺っている。
「じゃあ、もっと小さいのが良いのね。もう解った気がするからもう一度やってみるわね」
目を閉じて、火口いっぱいに小さな魔晶石がぎっしりと埋まった光景を思い浮かべる。
私の中にある、あふれんばかりの魔力が一気に噴き出すのを感じた。
「よし、完璧!」
目を開いて思わずそう呟く。
魔晶石作り三度目にして、私は完璧な仕事をやってのけたわ。
人の姿に戻って見てみたが、出来上がった魔晶石は大きなものでも私の掌くらい。小さいものはピンポン玉くらいのサイズになっていて、数のバランスも良さそう。
「どう?」
「完璧です、ご主人様。ではこれらも配ってまいります」
側にいたあの大きなサラマンダーの長老がそう言うと、その言葉を合図にまた次々と飲み込み始めた。
「へえ、我ながら綺麗に出来たわね」
せっせと魔晶石を飲み込むサラマンダー達を見ながら、しゃがんで足元にある小さめの魔晶石に触ってみる。
「あ、取れた」
ポロッと剥がれるみたいに小さな魔晶石が転がる。
慌てて拾って見てみると、真ん中部分に直径5ミリくらいの穴が開いているのに気がついた。
「へえ、ビーズみたいに穴が開いてるわね。この大きさなら、とんぼ玉って言うのかしら?」
ガラスで作った大きなビーズをとんぼ玉と呼ぶのだけれど、これはまさにそんな感じだ。
「良いわね、これ。革紐があればアクセサリーとか作れそう」
嬉しくなってよく見ると、もっと小さな魔晶石もたくさんあるのに気づいた。ドラゴンだった時には、小さすぎて気がつかなかったわ。
しかも、そのどれにも小さな穴が開いているのだ。
「ねえ、小さいのは穴が開いてるけど、これはどうしてなの?」
持っているとんぼ玉サイズを不親切チュートリアルちゃんに見せると、彼女もごく小さな魔晶石を手に取って穴を見せてくれた。
「ここに紐を通して持ち歩くためよ。ある程度以上の大きな魔晶石は袋に入れるんだけど、冒険者達なんかは、何かあったときにすぐに使えるように紐に通して身につけているわね」
「へえ、じゃあ本当にアクセサリーに出来そう」
それを聞いてちょっと嬉しくなった。
実はビーズ細工が好きで、最近では推しのイメージカラーでアクセサリーを作ってイベントで販売をしたりしてる。
ペンダントやネックレス、ブレスレットやチャーム。眼鏡チェーンやキーホルダー。
あ、最近ではマスクホルダーなんかも人気だったわね。
「ううん、赤系だけだと何か作るにしてもちょっと無理があるかな。他の色って作れないのかな?」
手にした魔晶石を見ながら真剣に考えていたら、足元に、何か光るものを見つけてもう一度しゃがんだ。
「何これ?」
拾ってみると、それはガラスの破片みたいな綺麗な透明の薄い板状の何かだった。
形はやや菱形、大きさも様々でよく見るとあちこちに落ちている。
「あ、これってもしかして私の鱗?」
何だか見覚えのある形に気がついてそう呟くと、不親切チュートリアルちゃんがパタパタと私の目の前に飛んできた。
「そうよ、それはとても貴重な薬の材料になるからね。サラマンダー達に命じて集めさせると良いわよ。定期的に剥がれるから、忘れずにあの子達に集めさせてね」
「へえ、薬の材料ねえ」
どう見てもガラスの破片のそれは、キラキラと虹色の光を放っていてとても綺麗だ。
「これに穴を開けられたら、アクセのパーツとして使えそうね」
どうすればアクセサリーのパーツとして使えるかをぶつぶつと呟きながら考えていると、いきなり風が吹き抜けるのを感じて顔を上げた。
火口の底にいるはずなのに、風が吹き抜けるなんてどう考えても不自然だ。
慌てて周りを見回した私は、思わず飛び上がって悲鳴を上げた。
「だ、誰よあなた達!」
誰もいなかったはずの火口に、五人の男女が立っていたのだ。しかも全員が私を見つめている。
驚きのあまりそれっきり声も出せずに固まっていると、真ん中の大柄な男性が一歩踏み出して笑顔で口を開いた。
「はじめまして、新たなる火のお方。我々はあなたを歓迎しますよ」と。




