私の役割って?
「それじゃあ、もう一つ大切な話をするから、よく聞いてね」
妖精さんの真剣なその言葉に、ドラゴンの姿になっている私は何事かと座り直した。
「世界の柱たる火の竜である貴女には、大切な役割があります」
「大切な役割?」
「そう、その膨大な魔力を使って火の魔晶石をこの世界に作り出す事。これは火の竜である貴女にしか出来ない事だから頑張ってね」
「魔晶石? 何それ?」
不思議に思ってそう尋ねる。
スマホのアプリで一時期ハマっていた、某ゲームの毎日ログインすれば貰える大事なアイテム……あれじゃないよね?
「大きさは色々だけど、火の魔晶石ならこんな感じよ」
そう言って妖精さんが差し出してくれたのは、ドラゴンになっている私の手で持ってもかなりの大きさの、綺麗な赤っぽい虹色に光る巨大な水晶だった。
「へえ、綺麗ね。これがその魔晶石なのね」
受け取ったその石を覗き込むようにして見てみる。
キラキラ光るその魔晶石はとても綺麗。良いわね、こういうの好きよ。
「だけど、これを作るってどういう事?」
石を返そうとしたら、妖精さんは笑って首を振った。
「それはナディアが最後に作った石よ。その大きさの石に、これだけの魔力を込めるのは容易い事じゃないわ。貴女も頑張ってそれくらい作れるようになってね」
妖精さんの言葉に、手にした石を改めて見つめる。
ナディア。
私の前の火の竜だった人。名前から察するに恐らく女性。
どんな人だったんだろう。
何だかその人が最後に作ったのだと言うこの魔晶石が、堪らなく愛しいものに思えてそっとその石に頬擦りする。
すると、何かを感じてまた無意識のうちに背中の翼が大きく広がった。尻尾もプルプルと震えている。
それは、持っている石から何かが流れ込んでくるみたいな、何とも言えない不思議な感覚だった。
だけど、それがちっとも嫌じゃない。
「受け取って。魔晶石の作り方を」
いつの間にか、妖精さんが魔晶石に手を触れてそう言っていた。
次の瞬間、雷が落ちた……ような気がした。
それくらいのものすごい衝撃を感じて、大きく翼を羽ばたかせた。
無意識のうちに尻尾も大暴れしていて、そこら中にまたしても砂埃が舞い上がって大変な事になっている。
落ち着いてから、改めて思いっきりゆっくりと羽ばたいて、周りの砂埃を吹き飛ばした。
それから手にした魔晶石を見たが、それは手の中に変わらずにある。
「ええと、今のは何?」
戸惑いつつ、目の前にいる妖精さんに質問する。
「もう理解したと思うんだけど、どう?」
「待って、何を理解したって」
困ったようにそう言うと、妖精さんはまた魔晶石にそっと触れた。
「じゃあこれは、ひとまずここに置いておくね」
軽々と大きな魔晶石を私の手から取り上げ、少し離れた岩の上に置いた。
「ねえ、お願いだから私の質問に答えてよ。今何をしたの?」
「今って?」
「雷が落ちたみたいだったわ」
「ああ、魔晶石の作り方を伝えた時ね。へえ、そんな風に感じるんだ」
感心したようにそう言うと、私の前に戻って来る。
「じゃあ、一度やってみてくれるかしら? もう、出来るはずだから」
平然とそう言って、何故か足元から転がっていた石ころを拾って私に持たせた。
ごく小さな小石。これで魔晶石を作れとでも?
出来るはずだと言われても、何がなんだかさっぱり分からない。絶対に今の私の頭の上には、はてなマークが乱立してるわよ。
「ねえ、何をどうするのか、私にはさっぱり分からないんですけど?」
すると妖精さんは驚いたように私を見て、首を傾げている。
「大丈夫よ。魔力は充分よ?」
あ、これはまた、私の言いたい事が伝わってないっぽい。
諦めのため息を履いてそこらの埃を吹き飛ばした私は、手にした小さな石を見つめた。
どこからどう見てもただの石。
「火山で出来る石って何だっけ。確か学校で習ったわ」
そう呟いて、手の中の石を見る。
ええと……玄武岩とか、安山岩とか?
確かそんな名前だったような気がする。ううん、どれも可愛く無い。
同じ出来るんだったら、宝石とか、綺麗な鉱石とかが良かったな。
こんな面白味もない、茶色と黒の石ばっかりの薄暗い景色は嫌だよう。
もう、なんだか嫌になってきた。
説明すると言う割に、肝心の所は教えてくれない不親切なチュートリアルちゃん。
ええ、この妖精さんの事をこう呼んでやるわ。不親切チュートリアルちゃん。
私がご新規さんだったら、もうこの時点でログアウトしてアプリごと削除確定ね。
「もっとキラキラして明るい場所が良かったなあ。原石とかがいっぱい埋まってるみたいな……」
そこまで呟いた瞬間いきなり全身に震えが走り、世界が閃光で埋まった。
驚きのあまり、固まる私。
今の何、もしかしてこの火山が爆発でもした?
光は一瞬で収まり、辺りを見回した私は絶句した。
さっきまで、ゴツゴツした面白味の無い岩だらけだった火口は、大小様々な魔晶石で埋め尽くされていた。
手にしていた小石も、いつの間にか小さな魔晶石に変化している。
呆気に取られて言葉も無く立ち尽くしていると、目を輝かせた不親切チュートリアルちゃんが、目の前に飛んできて私の鼻先をぺしぺしと叩いた。
「すごいすごい! やっぱりあなたは優秀ね。まさか初めてでここまで完璧な魔晶石を、しかも一気にこれ程の量を生成出来るなんてね。新しい火の竜のお方が素晴らしく優秀で、私は本当に嬉しいわ」
手放しに褒められても、今回は素直には喜べない。
「ちょっと待って。今、私は何をしたって言うの? 詳しい説明を求めるわ」
「何って、魔晶石を作ったのよ。しかも大量に。あ、使った魔力はかなりだけど、体の方は大丈夫?……素晴らしいわ。まったく問題無いわね」
一人で納得して、感心して拍手なんかされても全然嬉しくない。
「だから、詳しい説明を求むってば!」
思わず尻尾が暴れかけ、なんとか深呼吸をして踏みとどまった。
「詳しい説明? ええと、だから貴女が自分の魔力を使って魔晶石を作ったのよ? それ以上でもそれ以下でも無いわ?」
逆に不思議そうに覗き込みながらそう言われて、困ってしまう。
今の私の大量の疑問の山を、この不親切チュートリアルちゃんにどうやったら理解してもらえるんだろう。
「もう良い、じゃあもう一回やってみる」
そう呟き、足元に落ちている石を拾おうとして驚いた。
いつの間にか、赤い、大きなトカゲが何匹も足元を走り回っていたのだ。
「何この子達! 赤いトカゲだわ!」
叫んだ瞬間、私は人間に戻った。
実は大型の爬虫類って、ちょっと飼ってみたかったのよ。何だか恐竜ぽくって格好良いじゃない?
だけどさすがに一人暮らしの女性の部屋に、巨大な爬虫類はどうかと思って我慢したのよ。
それにヒーターとか照明とか、色々飼育するのに必要で大変だって聞いたしね。
ブラックゆえ、深夜まで残業なんて日常茶飯事だったから、定期的なお世話が必要なペットは、ちょっと飼うのは無理だったのよ。
うう、これは触ってみたい!
目の前にいる赤い大きなトカゲは、鼻の先から尻尾の先まで入れると2メートル近くある。かなり大きな子だ。
「可愛い。赤いトカゲなんて初めて見たわ。へえ、おいで」
しゃがんでそっと手を差し出してみる。噛まれたらどうしようかともちょっと思ったが、何故だか不思議と怖くなかった。
すると、驚いたことに目の前の大きな赤いトカゲは、私を見て嬉しそうに目を細めて笑ったのだ。
初めまして、我らのご主人、と。




