お家探検とお風呂場の発見!
「ううん、さすがにこの時間は真っ暗だわ。白磁、明かりをお願い出来るかしら」
到着したメンフィスの家の部屋の中は、当然電気など無く真っ暗。
呼びかけに応えて出て来てくれた白磁が、一気に光を放ち部屋を明るく照らしてくれた。
「ここが出入りするための部屋なわけね。ううん、だけどいくらなんでもちょっと寂しすぎない?」
家具が何も置かれていないがらんとした部屋を見回して小さなため息を吐く。
「ミサキ様、ここは他の柱の竜の方々も使われます。いわば廊下と同じですので、どうぞこのままに」
不意に出て来た茜の呼びかけに、思わず目を見開く。
「ああ、そうか。他の人達が扉を通ってメンフィスに来たら、この部屋に来るわけね?」
うんうんと頷く茜を見て思わず考える。
「確かに、ここからその扉を出れば廊下に出てすぐに玄関だったわね。でも、玄関には鍵が掛けてあるわよ?」
「柱の竜のお方々のみ、定められた扉からは出入りが可能です。ですが、例えばミサキ様の許可無く他の部屋に出入りしようとしても扉は開きません。出入り出来るのは、火口の扉から繋がっている決められた扉のみです」
何もない部屋を出たところで納得して頷く。
「へえ、成る程ね。じゃあ逆もまた然りなわけね。私が他の街へ行くのに火口の扉を使えば、誰かの家に到着してそこから出入りするわけね」
「そうです。そして同じくミサキ様が開く事が出来るのも、その家にある定められた部屋の扉と玄関の扉のみです」
「成る程ね。了解。でも私は今から他の部屋を見て回るわ」
「もちろん。ここはミサキ様のお住まいですからご自由にどうぞ」
大真面目な茜の答えに、私は笑ってそっと突っついてやった。
「へえ、ここはお店の休憩スペースとして使えそうね。なかなかに座り心地の良さそうなソファーが置いてあるわ」
見て回ったメンフィスの家はかなり大きくて、聞いていた通りに店舗兼住宅になっている。
一階部分の大通りに面した側に店があり、玄関は店の横に別に作られていてそこから出入りが出来る様になっていた。
それ以外の一階の部屋は、明らかに倉庫に使われていたらしき戸棚が沢山ある部屋が複数と、それから作業部屋のような大きな机が置かれた部屋もあった。多分ここで薬を作ったり調合したりしていたのだろう。店のすぐ隣には、座り心地の良い大きなソファーが置かれた部屋もあったので、多分ここが休憩室っぽい。
倉庫にあった棚は全て空っぽで、大小様々な大きさの空の瓶だけが寂しそうにまとめて置かれていた。
「まあ、店に関してはちょっと落ち着いてからかな。一度郊外に出て、ナディアさんがやっていたみたいに、薬の材料を私が本当に採集出来るかどうかも試してみないとね」
小さくそう呟いて、二階へ行ってみる。
一階が店と倉庫と作業場があるのなら、おそらく生活する場所は二階だろうと予想が出来たから。
「ううん、こっちもなかなかに豪勢じゃない」
階段を上がって広い廊下に出る。廊下に面した扉は全部で七箇所。
まずは一番近い扉を開けてみる。
「おお、ここは間違いなくお風呂場ね。ここが脱衣所でその奥が……ほら、タイル張りの湯船! 良かった〜お風呂に入る習慣のある世界で」
小さく笑ってそう呟き、他の部屋を見ようとしたところで大きくお腹が鳴った。
「そうよね。探検に夢中になってたけど私はお腹が空いてるのよ。じゃあまずはここで軽く湯を使って着替えてから、夕食を食べに行きましょう。探検の続きはまた明日ね」
一緒に来てくれている淡雪をそっと撫でてから私はさっきのお風呂場へ戻った。
「ええと、だけどこれはどうやってお湯を出すのかしら?」
嬉々としてお風呂場に戻ったのだけれど、改めて見てみるとどこにも湯沸かしらしきものも、水道らしき物も無い。
「ミサキ様、これをお使いください」
困っていると、茜と一緒に水晶魚の瑠璃が出て来て、それぞれかなり大きめの火の魔晶石と水の魔晶石を取り出して渡してくれる。
「火と水、これでお湯を沸かすわけね。だけどどうやるの? 私は魔晶石なんて使った事が無いんだけど」
受け取ったは良いけれども、これをどうやって使うのかがさっぱり分からない。
「ここに、それを二つまとめて入れてください」
茜が風呂場の入り口横にあった小さな扉の側へ行き、その扉を鼻先で突いた。
「ここに……入れればいいの?」
小さな扉を開けると、そこには魔晶石をいれるらしき穴と、円形のバルブがあったのよね。
「ううん、察するにここに魔晶石を入れてこれを回すと、どこかからお湯が出てくる仕組み? まあ良いわ、試してみましょう」
言われた通りに穴の中に魔晶石を突っ込み、ゆっくりと硬めのバルブを回す。
ドドド! って感じの豪快な水音と共に、湯船の奥の壁の上部にあった小窓みたいな部分からお湯が一気に吹き出し始めた。なんと、全面タイル張りの湯船の上部から吹き出してそのまま滝状になったお湯が、湯船に向かって勢いよく流れ落ちていたのよね。
「ううん、水量が多いのは嬉しいけど、これはちょっと水流が強すぎじゃなくて?」
苦笑いしてそう呟き、滝を見ながらバルブをゆっくりと締めていく。
「ああ、これくらいで良いわね。よし、入ろう!」
吹き出していた滝がタイルに沿って流れ落ちるくらいになったところでバルブを止め、私は脱衣所へ戻った。
「淡雪はお風呂は使う?」
開けたままの扉からモクモクと湯気が出ているのを見た淡雪は、困ったように小さく鳴いて首を振った。
「謹んで遠慮させていただきます。私はここで待っていますので、どうぞごゆっくり」
そう言って、脱衣所の隅へ行って廊下へと続く扉の前の床に転がってしまった。
ううん、寒い地方の狼だからか淡雪にはお風呂は不評みたい。まあ、もし将来汚れるようなら拭いてあげれば良いわよね。
小さく笑って淡雪を撫でた私は、とにかくさっさと服を脱いでお風呂場へ駆け込んで行ったわ。
さて、異世界初のお風呂はどんな風なのかしらね!




