人生に萌えは必要よね!
「これは……これは良い! これは良いわ!」
机の上に乱雑に積み上がった全八巻セットの恋シリーズを前に、もう、ただただその感想しか出てこない。
思わぬ良作との出会いに、私は本を抱きしめて感動に震えていた。
ああ、この世界にも創作を楽しむ文化があって良かった。ありがとうトゥーマリーク様! 心から感謝するわ!
楽しかった歓迎会が終わり、疲れてるだろうから今日のところはひとまず解散って事で、特に二次会も無くそのまま火口に戻った私は、奥にある人間用の部屋でそのまま読書に突入したのよね。
だって、明日の出勤時間を心配せずに好きなだけ夜更かしして本が読めるなんて、本好きな私にとっては、冷静に考えたらパラダイスじゃなくて?
そしてその結果、私はラディウスさんから貰った恋シリーズを一晩で読み尽くしてしまった。
ただいま二周目を読破中。
さすがに一晩で八冊はちょっと我ながら呆れたわね。
でもまあ、元々活字中毒で、時間潰しに入った本屋さんで単行本の小説一冊そのまま立ち読みしてしまうくらいには早読みだったから、別に驚きはしないけどね。
この本はそもそも手書き文字で書かれているから、今まで読んでいた小説に比べたら一冊あたりの文字数は圧倒的に少ない。それにとっても綺麗な文字で書かれているから、手書きなのに読みやすい。結果として私なら一晩で八冊は余裕だったって事ね。
ありがとうラディウスさん。これを教えてくれた貴女に心から感謝するわ。
そしてこれを書いてくれたレディパープル! あなたにファンレターを出すにはどうすれば良いのかしら。あとで誰かにこっそり聞いてみよう。
それから創作意欲がバリバリに刺激されたので、ちょっと落ち着いて私の中でこの物語が消化されたら絶対に描こう。まずは具体的なキャラ設定からね。容姿に関する描写が意外に少ないので、描く時の自由度はかなり高そう。
書かれているのは、背が高い、とか、髪の色が、とかくらいで容姿に関する具体的な描写がほとんど無い。
これは悩みどころね……。
ああ、良い事思いついた!
私の愛しの推しよ! 彼ならミスティに言い寄る、この、仕事は出来るんだけどちょいワルなレオナルド役がぴったりじゃない!
ああ、それを言うなら待って待って!
あの月刊誌の異世界ものの王様! 彼氏の方に言いよる年配の男性だったらあの王様がイメージぴったりじゃない!
よし、キャラは決まったわね。衣装は話に合わせて変えれば良いもの。これで描こう。
主人公の女性は……うん、これは適当でも描けるわ。女性キャラは得意なのよね。特に彼女みたいなふんわり可愛い系は手癖で描けるわ。任せてちょうだい!
三作品プラスオリジナル要素ありのクロスオーバーになるけど、誰も知らないんだもの、問題ないわよね。
二次創作万歳!そうよ! 私の人生には萌えが必要なのよ!
ノー萌え、ノーライフよ!
そして全八巻を二回読破した私は、休むつもりだったのに気がついたらスケッチブックと鉛筆を握りしめていたわ。
白磁が照らしてくれる明るい部屋の中でスケッチブックに齧り付くようにしながら、私はもう、この滾る想いを全部まとめてスケッチブックに叩きつけるみたいにして、ひたすら描き散らかしていたのだった。
……そしてスケッチブック一冊目にはそれぞれのキャラ設定や家の様子、それから主な場面であるそれぞれの商家の様子やモブ役の人物達なんかを思いつくままに描き散らかし、それが一杯になったところで二冊目には気に入ったシーンを挿絵風に、これまた好きなだけ描き散らかしていった。
そして気が付いたら……何故かまた深夜だった。
「あれ? 描き始めた時って確か夜が明けた頃じゃなかったけ?」
部屋から出て大きく伸びをしたところで頭上の火口から見える空が真っ暗だった事に気付いて首を傾げた。
「ミサキ様、いくら大丈夫だと言っても夜は寝た方がいいと思いますよ」
呆れたような茜の声に、空を見上げていた私が誤魔化すように笑って振り返った。
「あはは、まあ確かに私もそう思うわ。でもね、良作に出会った時の感動は、萌え上がってるうちにこうやってものにするのが一番なんだからさ」
「はあ、そんなものなのですか?」
「そうよ。覚えておくといいわ」
どうやら、茜は色々と物知りみたいだけど、こういった創作方面には素人みたいね。でも、私の眷属になったからには、その辺りはしっかり覚えてもらわないとね。
「かしこまりました。覚えて起きます。でもやっぱり、夜はお休みになったほうがいいと思いますよ」
大真面目な茜の言葉に私は堪える間も無く吹き出したのだった。
「ところで、ものすごくお腹が空いてるのは気のせいじゃないわね。ううん、どうしようかなあ」
丸一日、眠りもせずに絵を描き散らかしていたのだから、当然だけど喉も乾いているしお腹も空いている。このまま休むと、明日の朝もっと悲しい事になりそうだったので、一度メンフィスの街へ戻って食事が出来そうな店を探してみる事にした。
「だけど顔も洗ってないのはちょっと悲しいわね。よし、メンフィスの家へ行ったら、一度家の中を一通り確認してみよう。それで洗面所やお風呂があれば一度スッキリして、それから食事に行ってみる、だね。よし、では行くとしよう」
起き上がった淡雪を連れて、私は扉を開いてメンフィスの家へ向かったのだった。




