新たなる発見!?
「ふああ、どれも美味しい」
時折、食べる合間に吟醸酒も楽しみつつ、私は見た目も味も創作中華料理っぽいそれを心ゆくまで楽しませてもらった。
「気に入ってもらえてよかったわ。はいどうぞ。まだ飲めるでしょう?」
隣に座ったラディウスさんに笑顔で吟醸酒の瓶を見せられ、慌てて食べるのをやめてグラスを差し出した。
「ううん、異世界で米を食べられる店があるなんて有難いわあ」
そう言いながらもう一口摘んだのは一口サイズに握られた小さなおにぎり。だけどいわゆる塩むすびではなく全体に味がついていて、刻んだ青菜と鶏肉、それをごま油と醤油で和えたみたいな感じに仕上がってた。
それでもお米や醤油っぽい味付けが食べられる喜びに、私は密かに感動していた。
外の屋台では、ホットドッグっぽいのを売っているのも見たし、マーカスが買ってくれた大学芋みたいなのもとても美味しかった。
「やっぱり食事が口に合うって大事よね」
小さく笑った私の言葉に、皆笑顔で頷いてくれた。
そうよ。私の推しのあの人が言っていた事じゃない。
目の前の食べ物が美味しいと思えるうちは大丈夫だって、ね。
ここでの色々な事を教えてもらったりしながら、次々に運ばれてくる料理を少々持て余し始めた頃、ラディウスさんとデボラさんが話している内容に私の耳はちょっとダンボみたいになったわ。
だって、新作読んだ? とか、すごく面白かった! とか、今後の展開が……とか、ちょっとオタク的には聞き逃せないワードが数多く聞こえてきたんだもの。
「ねえねえ、それって何の話?」
一口残っていた肉団子を口に入れたばかりだった私は、きちんと飲み込んでからラディウスさんの袖を引っ張った。
「何って、レディパープルの新作の話よ……ってああそっか、ごめんなさい。ミサキは知らなかったわね」
一瞬話しかけたところでその事実に気が付いたらしく、口を閉じて少し考えた後、何故かにんまりと笑って私の腕を掴んだ。
「さっき、デザイン画を描いてる時に言ってたわよね。いろんな創作物が好きだって」
その通りなので、大きく頷く。
「小説は? 文字は読めるでしょう?」
その言葉を聞いた瞬間、私は目を見開いてラディウスさんの腕を掴んでいた。
「あるの? この世界にも、創作を楽しむ文化が?」
「そりゃあるわよ。少し前までは、吟遊詩人が流れてきて物語を音楽に乗せて語ってくれるのが主流だったんだっけどね。ローズリィって人が、レディパープルが書いた物語をこんな冊子にして一定期間貸し出す店を数年前から始めたのよね」
そう言って、一冊の閉じ紐で括ったB5サイズくらいのかなり分厚い冊子を取り出して見せてくれた。
「最初は、貸し本専門だったんだけど、ものすごい人気になってね。今では貸し本と並行して、実売もやってくれているの。この街だけじゃなく、今は湖に面した他の街でも支店が出来て貸し本と実売の両方やってるわ」
差し出されたそれを開いてみると、とても綺麗な手書きの文字を印刷した手作り感満載の、だけど間違いなく私の求める、本、だったわ。
「これが今定期的に発売されている人気シリーズで、こことは違う世界に住む男女、ロードとミスティの恋物語よ。通称、恋シリーズ」
「へえ、異世界恋愛ものなんだ」
私にすれば、異世界に来て異世界ものを読むわけよね。なにそれ、めっちゃ面白そう。
今すぐ読みたいのを我慢して、表紙を撫でながらそう呟く。
「あのね、その二人の実家はどちらも大きな商会同士で、だけど商売敵なものだからすっごく仲が悪いのよ」
「それなのに、ある懇親会で互いに身分を隠して参加して、それと知らずに二人は出会ってしまうの」
興味を示した私を見て、ラディウスさんとデボラさんにモルティさんまで加わって嬉々として内容を説明し始める。
「互いの家がどこなのかを知った時には、二人の間の恋心はもう消せないほどになってたわ」
「しかもそんな時に恋のライバル登場!」
「ミスティに近づくレオナルドって男性が、これがまた仕事の出来るいい男なのよね」
「彼女は、最初は嫌がっていたのに、気が付いたらレオナルドの事もちょっと気になる人になっててね。二人の間で揺れ動くことになるわけ」
「その上、ロードの方にも彼を目当てに近づく人物がいるんだけど、これが何と年上の男性なのよ」
顔を寄せて小さな声で言われた最後の言葉を聞いたもうその瞬間、叫ばなかった私を誰か褒めて。
まさか、異世界に来てBLが読める日が来るなんて!
「それで、そういったいろんな事が周りの友人や実家に知られてしまって、周り中の人達を巻き込んで大騒ぎ。一度は仲違いして二人の仲は終わったかに見えたんだけど、これまた偶然の再会を機に恋の炎が再び大炎上!」
「友人達や取引先の思惑まで絡まって、大騒ぎが再び始まった所なのよ」
「最新刊が出た途端に、もう続きを読みたくて仕方がないのよね」
「私は我慢出来なくて、また一巻から読み返してるわよ」
真顔のラディウスさんに、モルティさんも笑って頷いてる。
「へえ、それは面白そう。ちょっと読んでみたいわね」
出来るだけ平静を装いつつ私がそう呟いた瞬間、三人が同時に同じ行動を取った。
「ああ、貴方達も持ってたのね」
「皆、同じ事考えてたねえ」
「あはは、それで誰が渡すんだい?」
ラディウスさんの笑う声に、デボラさんとモルティさんも揃って笑っている。
だって三人の目の前には、今言っていたその話題の恋シリーズの最新刊まで八巻セットが全部で3セット並んでいたんだもの。
「じゃあ、代表して私が渡すわね」
にっこり笑って、ラディウスさんが目の前の山を私の前に押しやる。
「はいどうぞ。好きなだけ読んでちょうだい。そして出来るなら、あなたに挿絵を描いて欲しいわ」
もうこれ以上ない笑みでそう言われた瞬間、周りにいたスタッフさん達までが揃って身を乗り出すみたいにして、私達を振り返った。
「ええ? これって挿絵は入ってないの? こういう小説は、挿絵も楽しみのうちなのに」
そう呟いてパラパラと捲るが、残念ながら確かに挿絵はどこにも見当たらなかった。
「分かった。じゃあこれはしばらくお借りするわね。描けるかどうかは分からないけど、せっかくだからチャレンジしてみても良いかもね」
そう言って目の前に差し出された本の山を撫でる。
「あら、それはもう進呈するから、あなたが持っててくれて構わなくてよ」
「ええ、良いの?」
「もちろん。気に入ってもらえるように心から願うわ。あなたが挿絵を描いてくれたら、きっと素敵な絵が見られると思うのよね」
満面の笑みのラディウスさんの言葉に誤魔化すように笑いつつ、めっちゃこっちの話を聞いてるスタッフさんに今更ながらに気付いた私は、もう笑いそうになるのを必死で我慢していた。
ああ、創作物を楽しむ習慣のある世界で良かった。
頂いた全部で八冊の萌の素を収納しながら、心の底から安堵のため息を吐いた私だったわ。




