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第92話 スレギナの町

 隠れながら観戦できる丁度いい岩陰があったので、そこから顔を半分出して覗き込んだ。

 いや、覗き込もうとしたら、ユキナ、ファイガは他の戦いになど全く興味を持たないようで、待っています、と伏せて欠伸をしていたので、気配遮断は勿論の事、威圧も掛けずにしてくれよ、と釘を刺した。

 これだけ言っておけば安心なので、心置きなく観戦し始めようか。


 戦い始めている冒険者たちは、まだ元気いっぱいのようで、キングミノタウロスを岩壁に追いやってからの攻防は一進一退と言ったところだった。

 前衛の騎士、戦士四人が剣の物理攻撃を仕掛け、中衛で構えている魔法士二人が詠唱して魔法攻撃で援護する。

 そして後衛の魔法士は、疲労し始めた冒険者から、各一人一人に回復魔法を掛けていた。

 距離を取っている後衛は、あれだと回復専門なのかな。


 応戦しているキングミノタウロスも、盾で受け振り払い、剣を振り回し振り切る。

 魔物とはいえ動作も機敏で素早く、一人の剣士の攻撃を受け流し、切り返しも速く切りかかった。

 避けきれずに手傷を負った剣士は、致命傷では無いにしても、瞬時に近くの剣士が割って入り、魔物をけん制し、もう一人の騎士が助けて後方に移動する。

 その間にも中衛の魔法攻撃でけん制し、手傷を負った剣士は後衛からの回復魔法を受けていた。

 しかし、一人が欠け一人が後退した事で、一進一退の攻防だった均衡が徐々に崩れ始める。

 ここを見逃さないキングミノタウロスは、転じて反撃し始めれば、ジリ貧で一人の剣士が押され、もう一人の騎士も押されるのは必然か。

 さすれば中衛からの魔法攻撃も迂闊には放てない状況に陥ることも当然。

 既に限界なのか騎士の一人がつまずきよろめいた瞬間を見逃さないキングミノタウロスは盾を振り切り、よろめいた騎士を吹き飛ばし、宙に舞った騎士は岩壁に激しく激突して動かなくなった。

 無傷の剣士が、すぐに助けに行くがこれは悪手。

 最後の騎士も一人では、太刀打ちできず、どうしようもなくなったのは自然の摂理に叶っている。

 岩壁で負傷している騎士に回復魔法を掛けているが立ち上がる気配は無い。

 魔法攻撃を放ってはいるけど、見切られているように盾で弾かれている中、一人の騎士が構えながら後退する

 こうなれば全員に、敗北、と言う動揺が走るのは断然思う事である。

 ――あ、不味いな。


【ミツヒ様、あの冒険者はこのままでは魔物に勝てません】

【ああ、キングミノタウロスが強いのは十分わかったよ。なあ、ハネカ。あのパーティが逆転できる、何か一発だけ撃ち込めるか? そしてすぐにここを離れるよ】

【畏まりました、ミツヒ様。雷撃ライトニング!】


 ハネカから放たれた、劈くような、かな切音と同時に、キングミノタウロスの右足に、雷撃が突き刺さり爆ぜ、その右足が吹き飛んで重心を崩し転がる。

 何が起こったか理解していない騎士でも、逆転する絶好の機会を見逃さず、飛び込むように切りかかれば、もう一人の剣士も切りかかる。


 眼の前で冒険者が負けるのは、さすがに見るのも嫌なので助けてしまったよ。

 見届けてから走り出した。


【しかしあのパーティの攻撃はとても遅く感じたよ。もう二呼吸速く攻撃できればもう少し楽に勝てるのにな。

【そう見えるのは、ミツヒ様だけです】

【いい配置のパーティだったけど、顕著に表れたのが前衛の攻撃に対する遅さかな。眼の前のミノタウロスの攻撃に眼が追いついていないよ。それに伴って魔法の連携もさ……他の人も一点歩遅れるっていうか……】

【それが普通ですよ、ミツヒ様】

【そうなのかな。ま、他は他だから俺は鍛錬に集中しよう】


 九階層

 体長三mほどで、青黒い肌をしたギガンテスが盾と太い棍棒を持って現れた。

 前に出ているファイガが、余裕で無防備にギガンテスに歩み寄れば、棍棒を振りかぶって来た攻撃を、身軽に体を捻り、無駄の無い動作で優雅に避ける。

 ギガンテスは、怒号のような咆哮を上げながら棍棒を振りかぶっていたけれど、当たれば必殺の攻撃は、虚しく空を切るだけだった。

 ファイガは一旦後方に飛んだら、前足を振りかぶって爪風を放ち、気が付いたギガンテスは盾を前に構えた。

 だけど悲しいかな、何の意味もなさず盾ごと切り飛ばされ、断末魔の咆哮と共に後ろに倒れ灰になった。

 振り返り俺に歩み寄ったら、頭を擦り付けて来た。


【やっぱり、あっさりと倒せるね、強いんだな、ファイガ】

【ありがとうございます、主様。ですが我の力はまだまだです】


 でも嬉しそうに尻尾を大きく激しく揺らしているドヤ顔のファイガ。

 それをすぐ後方から見ているユキナは、気に食わない顔をして、チッ、とか言っていたけど、聞こえない振りをした事は言うまでも無い。


 一〇階層

 体長六mほどで、茶色い羽を持つグリフォンが現れた。

 やはり、と言うか、対抗心むき出しで、すかさずユキナが前に立つ。

 やる気満々なのは知っているけれど、ここは知らない素振りをしたほうが賢明かな。

 振り返り上眼使いで俺を見る。


【あの、ミツヒ様。私にやらせてはもらえませんか?】

【え? ユキナが? あ、う、うん、いいよ】

【ありがとうございます、ミツヒ様】


 ユキナが軽やかに嬉しそうにグリフォンに突進し、グリフォンの爪攻撃や魔法攻撃を、ヒラリヒラリ、と体を捻り優雅に芸術のように避ける。

 華麗に舞いあがるように飛んだら反転し、大きく前足を振り切り自身よりも大きい風爪を発動させ、六mもあるグリフォンを上部から簡単に切り刻んで倒し、灰になって魔石を拾う。

 ――なんだか八つ当たりのようにも見えたのは俺だけだろうか……。

 何か言われたい感一杯のユキナが戻って来た。


【ユキナさんも強いよ、うん、本当に強い】

【ありがとうございます、ミツヒ様。ウフフ】


 喜んで頭をグイグイ摺り寄せてくるユキナ。

 なので、これでもか、と大雑把に撫でてあげれば、尻尾を大きく激しく振って喜んでいた。


 一一階層

 体長三mほどで、ゴーレムのようなロックベアーキングが現れた。

 今度は俺の番なので、ガントレットで挑んでみようか。

 歩み寄れば、威圧するような咆哮を上げ、先に間合いに入ったロックベアーキングは両手を大きく広げ鋭く長い爪で振りかぶって来た。

 けれど軌道を見て、ガントレットの甲で受けたら、俺には反動も無く魔物だけが後方に吹き飛んだ。

 俺はガントレット同士を小突いて確かめる。


【お、調子いいよこのガントレット。これなら反撃のタイミングを掴めるし楽になるよ。さすがだね、ガンドさん】


 何が起こって吹き飛ばされたか理解できていないように起き上がる。

 俺は、起き上がって威圧を掛けた咆哮を上げているロックベアーキングに踏み込み、爪の攻撃を直前ですり抜けるように避けて踏み込み、ガントレットで強めに撃ち込んだら胴体が弾けて倒れた。

 ――魔石を拾う。


 一二階層

 体長四mほどで、銀色の硬そうな肌を持つメタルサイクロプスが、まだ距離がある中ゆっくりと闊歩しながら現れた。


【ミツヒ様。この一つ眼は雷が聞きません】

【へぇ、どうなるの? ハネカ。一発撃ってみてよ】

【畏まりました、ミツヒ様。雷撃ライトニング!】


 雷の槍がメタルサイクロプスの頭部に直撃したけれど、表面を舐めるように、抵抗も無く後方に飛んで行った。


【なる程ね。俺たちは簡単に見ているけど。――ハネカ、あいつを相手にしたら他の冒険者は勝てるのかな】

【先ほどの八階層の者であれば、三〇人ほどいれば何とかなるかもしれません】

【さ、三〇人ですか、そうですか】


 俺の感覚がおかしくなり始めているのか、理解するのに追い付いていけないような気がした。

 ……うん、気にするのはよそう。

 魔物を前に考え込んでいた俺に、ファイガが擦り寄って来た。


【主様、我が行って宜しいですか?】

【ああ、どうぞ、ファイガ。でも雷攻撃がだめだってさ。ファイガ?】


 ……あ、あー、行っちゃったし。

 ファイガがゆっくりと、威厳のあるように歩み寄り、仕掛けてきたメタルサイクロプスの攻撃を、優雅に捻り反転して避けたと思ったら、爪斬で左腕を綺麗に切断し、かばうように持ち上げた右腕を牙攻撃で容易く切断した。

 両腕から血しぶきが舞う中、牙を鳴らしたと思ったら、赤い魔方陣が展開され、炎槍ファイアランスが放たれた。

 瞬間、メタルサイクロプスの頭部が吹き飛んだ。

 何も出来ずに数歩歩いて、前のめりに倒れ灰になった。

 魔石を拾いながらファイガを見れば、自分からやりたがっていたのに、余裕が有り余ってつまらなそうにしていたし。

 ファイガに、爪と牙の攻撃を褒めようとしたけど、負けず嫌いなのかユキナが後ろから、探るように、食い入るように、眼を凝らすように見ていたので止めておいた。

 そんなに対抗心を燃やさなくてもいいのにな。

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