第90話 スレギナの町
これでスマルクの町の鍛錬で獲った魔石の処分は終わったよ。
何となく一つの荷が下りた気がして嬉しく感じた。
気分良くギルドを出ようとしたら、何やら外が騒がしくなっている。
出入り口まで行くと、外では数組のウルフ系、ドッグ系の従魔を引き連れた冒険者たちがギルドに入れずに困っているようだった。
ユキナとファイガを見れば、俺の指示通り少し離れた場所で、仲良く並んで伏せ、前足の上に顎を乗せて暇そうにしているだけだった。
その上、気配遮断を掛け目を瞑って他の従魔を無視しているので、威圧も何も無い事は見て取れた。
だがしかし、確かに気配遮断は掛けていたけれど、入口近くに来た従魔からしてみれば、見える位置で伏せているファイガ、ユキナを見かけた途端に近寄りがたくなっていたようだ。
入口に入りたがらない従魔に、主人の冒険者たちが互いに首をひねって考え込み、悩んでいる。
結局各自は、首輪や手綱を付けて、無理やり引っ張り込んで一件落着? したみだいだ。
それでも入口に入った従魔は、安心しないで今度は離れたいのか力強く主人を引っ張って奥に入って行った。
今後はもう少し離すか、影に入れるしか何のかな。
ま、今の段階では、他の見ていた冒険者たちには、まさかフレイムウルフとフロストタイガーなんて、これっぽっちも知られていないようだから、良しとしておこう。
ファイガたちに歩み寄れば、向こうからも嬉しそうに擦り寄って来た。
【みつひさまー、わたし、なにもしてませーん】
【われも、ねてるだけです、みつひさま】
【そうだね、ファイガもユキナも何もしていないね。行こうか】
俺達が出て行ったその後、ギルドは平常に戻ったことは言うまでもない。
そして買い出しに、商店街に出向き、商店や露店で肉料理を買い込んだ。
既に日も沈み夕方も過ぎているので、今はファイガ、ユキナと戯れるように仲良く歩き、宿屋街で宿泊先を探しに歩いている。
【ハネカ、どうかな】
【はい、ミツヒ様。あちらのドランの宿がよろしいのでは】
【ドランの宿か――あ、あった。ここか】
軒を連ねた宿屋街の丁度中心辺りに看板を掲げ建っていた。
中に入ると、察知したように身長一七〇㎝ほどの銀髪で、紳士風の男の人が、赤いエプロンをして出て来た。
「いらっしゃい、泊まりか? 食事か?」
「宿泊をお願いします。従魔も一緒ですがいいですか」
「ああ、構わないよ。一泊食事付で金貨一枚だ。俺はビクテマ、よろしくな」
「俺はミツヒです。一泊お願いします」
初対面なのに随分と馴れ馴れしい店主だな。でも悪い人ではなさそうだ。
ダンジョンの町だから屈強な冒険者に舐められないようにしているのかもね。
金貨一枚を支払い部屋に案内される。
部屋で大きくなったファイガとユキナを、クリーン、で綺麗にして皿を出す。
まずやる事は一つ、焼肉タレ焼きを盛ると、待っていました、とばかりに食べ始める。
次はドードー鳥の姿焼きを盛ると新しい料理なので、うみゃいうみゃい、と喜んで食べる。
最後にブラックボアのステーキを二〇枚ずつ盛って終了。
しかし、毎回毎回よく入る腹だ、と感心するよ。
生肉も同じ量を食べているのかな。
聞いてみてもいいけれど……止めておこう。
現実的に話されたら、引いてしまうかもしれないからさ。
食べ終え満足したようなファイガ、ユキナは、背中を低くして一つ伸びをしてから小さくなって、すぐにベッドに飛び乗り横になる。
――そんなすぐに寝たら、牛になるよ君たち、と思ったら、俺の思いに気づいたのか、察したのか、急に俺から眼を逸らしたよ。
――ま、いいけどさ。
そして俺はお楽しみの風呂へ行く。
さて、ドランの宿の風呂はどんな造りだろうか。
ドランの宿の風呂の回りは木の塀で囲ってあり、余裕で広かった。
風呂も大きく組んだ木造で出来ている。
さらに深さが三〇㎝ほどの浅い造りになっていて、縁が丸くしてあり、寝ながら浸かると丸いヘリに頭が乗り、体が浮く形で心地いい。
【フゥ、これは気持ちが良いな。気持ち低めだけれどいい湯だし。このまま寝てしまいそうだ。さすがハネカ】
【ウフフ、ありがとうございます、ミツヒ様】
俺は、大の字になって、浮きながら気持ち良く浸かっていると、他の人も入って来るが、一緒に従魔も入ってきて風呂に浸かる。
【へぇ、ユキナたちとは違って風呂が好きな魔獣もいるんだね。気持ちよさそうに浸かっているし】
【あれはハウンドドッグです、ミツヒ様。犬は風呂が好きなのでしょう】
【ふーん、そうなのか。このドランの宿は、従魔も風呂に入れるように浅く造っているんだな】
ファイガたちにも、また誘ってみよう、と思ったけれど止めておく。
勝手な考えで無理強いしてはいけないから、入りたい、と言ってきたらそうしよう。
風呂で癒され楽しんだ後は、食堂に行きテーブル席に座る。
丁度他のテーブルに、料理を載せたビクテマさんと眼が合って、少しして料理を運んできてくれた。
出て来た料理は一口サイズに切った肉と人参、ジャガイモをピリッと辛い黄色い香辛料で煮込んであるドロッとしたシチュー風だ。
横のパンも厚さ二㎝ほどで平べったく焼いてあり、外はパリパリ中はモチモチしている。
パンを千切って黄色いシチューにつけて食べると、香辛料が効いた強いピリ辛だが、味がしっかりついていて美味い。
パンとの相性も良く旨味も十分出ている。うん、美味い、フーフー、と汗ばみながら美味しく食べて満足した。
あ、只、失敗もあった。
美味しかったけど、辛さもあって結構汗をかいてしまった。
知っていたら、食べてから入ればそれは気持ちよかったろうな。
もう一度入れば良かったのだけれど、この宿の常連なのか、今晩の料理を知っていたのか、食べ終えた順に多くの人が風呂に向かっているので、これから混むのだろう。
なので、止めておいた。
どうしても必要なら、ハネカにクリーンを掛けてもらえばいいしね。
部屋に戻りいつものように、ユキナ、ファイガとモフモフじゃれ合ってから就寝する。
やはり寝つきが鋭くよく、瞬殺で寝息を立てているユキナたち。
【おやすみ、ハネカ。ありがとう】
【何よりです。ごゆっくりお休みください、ミツヒ様】




