第 2話 タモンの村
よろしくお願いします。
「やあ、ダース、ラッタ、調子はどう?」
「今日もホワイトラビット一匹だけで疲れたー。最近調子悪いんだー、どうしたもんだかなー」
「俺もホーンラビット二匹だし、まだまだだよ、フゥ。早くボアかベアーを獲りたいよ」
ダースもラッタも肩が落ちてしな垂れているので力を使って彼らの上を見る。
――灰と青が点滅している。
結構疲れている上に悲しい様子だ、二人共落ち込んでるんだな。
「いい日もあれば悪い日もあるさ、仕方がないよ。野菜だって作り方や天候で収穫の差がでるからね」
「それもそうだな」
「うんそうだね」
他愛のない話をして湯船につかり温まっていると、ダースが俺に話しかけて来た。
「ミツヒには話しておくよ。来年には俺とラッタ、ティーナでパーティ組んで冒険者になって旅に出る予定なんだ」
「え? ティーナも?」
ティーナもダースと同じ三歳年上の、身長は一六〇㎝くらい、赤髪が腰まであるスレンダーで整った顔立ちの少女で魔法を使い、特に回復魔法を得意としているらしい。
「うん、ティーナもさ。鍛錬しながら狩猟も三人でこなしているんだよ。そして最近やっと許可が下りて三人でタモダンに入っているんだ」
「あー、タモダンに入っているんだー、いいなぁ」
タモダンとは、タモンの村の裏手にある三階層の浅いダンジョンのことで略してタモダン。
現れる魔物も数体のゴブリン、単体のオーク、時折オーガがいるのみで他の魔物は出たことがない。
たとえ出現しても大した魔物は出ない、修行にはとてもいいダンジョン。
それに、中は真っ暗ではない。夜光石という青白く光る石が至る所に埋もれている。
砕くと効果は無くなるけど、ダンジョンの中ではずっと輝いているから目が慣れると良く見える。
入口の周囲には食用になるレッドボアやレッドベアー、レッドラージも出現する。
強くなりたいタモンの村人は、いや、俺のように将来を考えて、みんなそのダンジョンで順に鍛えているのが現状。
「ふーん、ダースたちはやっぱりS級を目指すの?」
「もちろんそうだよ、有名になるんだ。それが俺達の夢、そのための基礎、タモダン修行もあと一年だ」
「有名になったら村に帰ってくるの?」
「まだそこまで決めていないよ、強くなる為、有名になる為ならいろいろこなさないといけないし。それにどこに行くか何をするかはギルドに行ってから決めるからさ」
「そうかー、そうだよね。ダース達もいろいろ大変だね」
他にも雑談をして程よく温まったころ。俺は先に湯から出る。
「んじゃ先に上がるよ、頑張ってね、ダース、ラッタ」
「ん、またなー」
「おやすみー、ミツヒ」
二人と別れ、輝く星が今にも振りそうな帰り道でふと考える。
自分には魔法が使えないことを。
その前に魔力もあるのかどうかもわからないしさ。
でも、気にしていない。
父さん母さんも、焦る事はないからそんなに急ぐなって言ってるしね。
そして家に着き夕食だ。
決して裕福ではないけれど、食べる事には困らないし、ティマル母さんの作ったレッドボアの美味しい料理を食べる三人家族の団らんのひととき。
そんな楽しい毎日を過ごして……。
一年後
ダースたち三人は、南の門を通り元気に冒険に出て行った。
門の内側には見送る両親や門番、そして俺がたっている。
力を使って見ると、村を離れていく三人の上には、緑や黄が点滅していた。
――期待に胸を躍らせているようだった。
がんばれー! ダース、ラッタ、ティーナ。
俺も後から行くよ、いつの日かどこかで会おうね。
三人を見送った家族は泣いていたけど、うれし涙だと思いたいな。
俺はあえて力を使わなかったよ。
何だか見てはいけない気がしたから……。
それからの毎日、俺は畑仕事と鍛錬に精を出し、父さんが獲った獣の肉を母さんが料理してくれるご馳走を食べ、さらに二年が経った。
ミツヒ 一三歳
俺の身長は一四〇㎝と、少し伸びたがほかの人よりも小さい、でも後半の伸びに期待しよう。
体の筋肉は鍛錬の成果が出ているので、以前よりはついていると思う。
――うん、多分。
あれから毎朝夕の素振りはもちろん続いているよ。
そして今、畑で作っている作物は大根、そう、大根畑を耕しているところだ。
「よしよし、いい土が育っているな、この分なら大きい大根が沢山育って収穫出来るだろう」
そこにランが駆け寄って来るのが見えた。
「ミツヒー、お水持ってきたよー」
「ああ、いつもありがとう、ラン」
幼馴染のランも、後ろでまとめた茶髪を揺らし、相変わらず休憩時の水筒を元気いっぱいに持ってきてくれる。
ランから水筒を貰って一気に飲み干す俺に対し、両手を後ろで組み、足で文字を書く仕草で斜め下を見るラン。
「ねぇミツヒ、暇な時でいいから今度遊ぼうよー。最近全然遊びに来ないし父さんも顔くらい出せって言っていたよ」
「ごめんラン、いつも水を持って来てくれてありがたいけど、時間があったら鍛錬したいから無理なんだよ」
「んー残念。そうか相変わらず忙しそうね……わかった。頑張ってね」
「ありがとう、ゴメンねラン。ズーロさんによろしく言っておいてよ」
「はーい、了解―」
手を振りながら走って帰っていく元気があるラン。
ランには悪い事をしたと思うけど、思うのだけれど今は無理なんだ。
俺は相変わらず畑仕事と毎朝夕の素振りは続いているが、最近忙しくなったのは鍛錬の場所が増えたから。
――それはタモダン。
今は村の裏にあるダンジョンに入って鍛えている。
一三歳になった日に、サイルト父さんから言われたんだ。
「ミツヒもそろそろ裏のダンジョンで鍛えるんだろうからこれを持っていけ」
そう言いながら、鞘に納められた中型のアイアンソードと、腕に巻きつける小型のアイアン盾を貰った。
そして、ティマル母さんからも、布で畳まれた荷物を俺の前に出して来た。
「そうね、装備も少しはしっかりしないとね」
ティマル母さんからは、皮の胸当てのような鎧と皮のブーツ、皮のグローブを貰った。
さっそく装備してみると、俺に合わせたかのように丁度良かった。
「うん、いい感じ、しっくりくるよ、剣も振りやすい。父さん、母さん、ありがとう」
「似合ってるわよ、ミツヒ、頑張りなさいね」
「苦しい事もあるが、何事にも負けないで頑張れよ」
「うん、ありがとう」
それからは、時間ができるとすぐにタモダンに入って鍛えた。
順調に強くなっているのか、今では日ごとに戦って、今では四体くらいのゴブリンや二体のオーク、単体のオーガなら難なく倒せるようになっている。
それは例の力? スキル? 見える色が進化? 覚醒? していたから。
実はタモダンに入るころ、ピーン、と頭の中で金属音が鳴った。
以前に感じたものと同じなので、力を使って見ると、色から文字に変化しているのを理解した。
簡単な単語のみだけど、色より簡単ですごい事だった。
魔物と対峙したとき、見つめるように眼に少し力をいれると、攻撃される直前に{攻撃 左直}や{攻撃 右爪}{攻撃 下牙}などが魔物の上に文字が浮かんでいたんだ。