表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私達の最良の時/私達は幸いなる少数  作者: MV E.Satow maru
第2章 千切れる糸
36/79

2020年6月

古城こじょうミフユ


 私は結局ティエンフェイの活動を続ける事にした。私が歌で聞いてもらい喜ばれるなんて思いもしなかった。そういう体験をしたら止められなくなった。みんなの言う通りだったな。


 私は楽器ができないのでヴォーカルのみ。摩耶まーやもヴォーカル兼務に無事戻ったので、ダブル・ヴォーカルでお互いにメインとコーラスを受け持ち、時にデュエットもやった。

 時折ライブハウスにも出て、そんな日は大井マミちゃんも駆けつけて来てくれて私達の音楽を楽しんでくれた。


 Finest hour、最良の時。本当にそういう楽しいだけの時期が過ぎて行った。琴乃さんの事はあまりみんな口にしなくなった。


「来て聞いてくれて褒めてくれただけで丸儲け」


と言ったのは中谷ちゅうやちゃん。そうだよねえとみんな頷いたのだった。


 そんな6月終わり。校舎間を歩く人は普段傘を差さないんだけど今日ばかりはそうは行かず傘の大輪が開いていた。

 講義終了後、新曲打ち合わせで私達は学生食堂に集合した。朱里しゅり先輩や摩耶まーや中谷ちゅうやちゃんが来ているところに私も加わった。


「あれ、ふーちゃんはまだ?」


傘が他の人に当たらないようにそっと机にもたせかけながら聞いた。同じ学科、学年である摩耶まーやが首を横に振った。


「最後の講義、あの子と私、取ってる科目が違うから。学校には来てたしサボるような真似する子じゃないから受けてると思うんだけど」


そんな話をしながら待っていたら、ふーちゃんが転けそうになりながら駆けて来た。


「ふーちゃん。学校の廊下で走るなって高校でいわれなかった?」


朱里しゅり先輩がたしなめる。

ふーちゃんは荒い息のまま椅子に座って机に突っ伏した。そして、くぐもった声で言った。


「見、見て」


彼女はスマフォを握った左手を私達に突き出した。彼女のスマフォの画面に写っていたのは1通のメールだった。朱里しゅり先輩はふーちゃんの手からもぎ取ってスマフォを借りるとじっと見た。


「これってまさか?」


朱里しゅり先輩がふーちゃんに問い質した。

ふーしゃんは顔をあげると満面の笑みだった。


「これはレコード会社からのオーディションのオファー。琴乃さんからよろしくお伝え下さいって言付かっているって最後に書いてある。とりあえず琴乃さんのオーディションのオファーをティエンフェイとしてもらえたって事だよ」

「うっそ?」

「マジで?」

「でもうれしい!」

「やったあ!」


 みんなの想いが爆発した。周りは何の事だと驚いていたけど構やしない。まずは大好きなミュージシャンに一定の評価を貰えたのが嬉しい。今はただその嬉しさを噛み締めていたい。そんな瞬間だった。


 少しして落ち着いた所でみんなで内容の検討に入った。朱里しゅり先輩がふーちゃんに言った。


「ふーちゃん。まずはそのメール、メッセで共有して」

「了解。……今、みんなに送ったから」


 五人は改めてそれぞれのスマフォで内容を読んだ。「バードさんの日本旅行記」の製作会社による第二弾長編アニメーション映画で現代が舞台となる事。琴乃さんが前作に引き続き音楽作曲を担当。劇中音楽の一部の演奏を担当するバンドのオーディションを東京と大阪の2ヶ所で行うというものだった。オーディションではバンドのオリジナル曲を歌ってもらう事になるとも書かれている。

 またオーディションにパスしたバンドは8月いっぱい東京スタジオでの録音・ビデオ撮影への参加と場合によっては追加録音・撮影への協力要請がある事が触れられていた。なお往復旅費・滞在中の宿泊費、収録日の食事、日当、交通費が支給される。


摩耶まーやが目を凝らしながらメールを見て言った。


「当たり前だけど全容は書かれていない。映画製作の話自体は発表されてたっけ。ただその時点で琴乃さんの話は出てなかったと思うからそこだけかな。まだ発表されてない情報って」


朱里しゅり先輩は肩をすくめながら言った。


「大学祭の時にも言われてたけど、守秘義務契約書結んだ後じゃないと全貌は見えないと思うし、その全貌にした所で教える必要のある部分だけにはなるでしょうね。ふーちゃんもそう思うでしょ」


ふーちゃんが応じた。


「そのあたりは朱里しゅり先輩の言う通りだと思うし、気にしても仕方ないですよね」


頷きあう二人。


 中谷ちゅうやちゃんが手をパンパンとたたいた。


「取り敢えず、オーディションどうするの?基本的にはここにいるみんな出たいよね?スケジュール大丈夫かな?」


慌てて自分のスケジュールをチェックした。幸いな事に全員大阪で受ける分には問題はなさそうだった。万が一通った場合も8月なら全員スケジュールは取れそうだ。

ふーちゃんがこれを受けて言った。


「じゃ、うちから申し込みの連絡しておくから。でいいよね?」


みんな、ふーちゃんの最終確認に対して首を縦に振って頷いた。


 摩耶まーやが私の方に寄ってきた。


「そうとなったら新曲より、ダブル・ボーカルと冬ちゃんだけのボーカルの曲の練習と調整もっとしないといけないよね」


また練習の日々かなと思いつつ私は頷いた。


「こうなったらとことんやるし」

「いよっ、さすがは冬ちゃんことチーちゃん。期待してるからさ」


この人たちの要求水準高いから必死でやらなきゃ。私は覚悟を決めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ