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私達の最良の時/私達は幸いなる少数  作者: MV E.Satow maru
第1章 私達の最良の時
16/79

2020年4月(1)

古城こじょうミフユ


 神戸に帰るとまた新手の嵐がやってきた。


 夜、部屋でヘッドフォンを付けてマイクに向かって練習していたら唐突に中谷ちゅうやちゃんと北見きたみ先輩がやって来てドアをノックしてきた。

私はヘッドフォンを外しながら言った。


「どうぞ。開いてます」


 言い終わる前にはもうガバッとドアが開かれて中谷ちゅうやちゃんと北見きたみ先輩が部屋に入ってきた。


 最初に中谷ちゅうやちゃんが爆弾を落としてくれた。


「お早いお帰り、折角の帰省なのにごめんね」

「ううん。私も練習離れていると不安だしさ」

「だよね。分かるよ」


そういうと彼女は満面の笑みでとんでもないことを言い出した。


「こんど三ノ宮のライブハウスで演奏するから土曜日夕方開けておいて。セットリスト候補はこれ。出来のいいやつで3曲ほど行こう」

「え、え、えええええっ。人前?」


この時の中谷ちゅうやちゃんの笑顔、もう悪魔の微笑みかと思ってしまった。


「うん。やるよ。学祭の体育館ライブ考えたらどうってことないって……人前に立つのは大丈夫そうだけど歌うのはまた話が違うと思うし。武者修行だよ。知り合いのバンドの前座。その店ではいままでもやらせてもらっているから」


心の中で「ひええええ、ひええええ」という絶叫がこだました。


 北見先輩からは衣装のラフ案を持って来てくれた。ああ、中谷ちゅうやちゃんと一緒な訳だ。


「古城さん、衣装はこれ。2種類組み合わせて着られるようにしていた。パンツだけじゃなくてスカートも用意したけどこの長さならいいでしょ?」


北見きたみデザインの衣装は黒のジャケット、チョッキにスラックスとスカートだった。細身のデザインでスレンダーな子のスタイルにマッチしていた。


「高校のブレザーみたいなリボンかネクタイどっちでもいいようにしたし。ネクタイなら細身の方がいいかな」


堀が埋められてるなあと実感した。それにかっこいい。私が似合うか心配なぐらい。


「スカートはレギンスと合わせたらありかな。こんなカッコいい服だったら受けて立つ」


北見きたみ先輩と中谷ちゅうやちゃんは顔を見合わせて苦笑していた。「この子、たまに言葉が古いわ」ぐらい思われていそう。


 中谷ちゅうやちゃんが何か思い出した。


「そうそう、舞台での名前どうすんの?」


そういえばそういう懸案事項もあったっけ。パッと思いついた名前を口にした。


「……ってダメ?」


ふーんと中谷ちゅうやちゃん。


「もち、いいよ。かわいいし。でも何から取ったの?」

「それは秘密。その人には断り入れてないし。あ、バレても小言言われるとかそんな程度の話だから」

「ふーん。わかった」


 もう一つ気になる事があった。


「念のため私だとバレないようにしたいんだけど。友達とか家族に知られたくないんだ」


化粧と衣装ぐらいじゃねえ。


「それならウィッグ付けたらいいよ。今、ショートだからロングにすればぱっと見分からないんじゃない?」


中谷ちゅうやちゃんにしてはいい事を言う。それしかなさそう。


「あ、そうする」

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