白紙に綴る夢より*中元 舞
どうも!またまた緋絽です!
今回は白紙に綴る夢より、ヒロインの一人、中元舞が登場!
私───中元 舞は友達の平方 咲の家の前に立ってインターホンを押す。
「はい」
「あ、舞です!着きましたー」
「はいはーい」
少しして玄関のドアが開いた。
「いらっしゃい」
「おじゃましまーす」
中に入るとピンク色のスリッパが揃えてあったので、確認してからそれを履く。
「もう皆来てるわよ」
「あ、ほんと?けっこう待たせちゃった?」
「大丈夫、大丈夫。あの子達が早過ぎなのよ」
咲が歩きながら言った。
今日は、宝岳祭前の土曜日の午後。私と吉野 初流と小森 飛鳥の3人で咲の家に泊まりに来たのだった。
「集合時間の20分前に家の前で2人見つけてビックリしたわー」
「早っ!ちょっと、それは早過ぎ!」
「でしょー?」
咲の部屋に着いたらしい、咲がある部屋のドアを押し開けた。
「やっほー」
「あ、来た来た」
「こ、んにちは…舞ちゃん」
随分リラックスして寝転がっている美人───初流ちゃんが笑って手を振ってきたので振り返す。その隣の飛鳥ちゃんも笑って小さく手を振ってきた。さすがモデルなだけあって、なんか手の振り方さえもがかっこいいというか様になっているというか。何かが私と違う。
「2人共、もう咲のご両親に挨拶したの?」
「ま…まだ…咲ちゃんのご両親は、夜に、帰ってくるって………」
「だから、夜になって帰ってこられたらみんなで行きましょ?」
初流ちゃんが体を起こしながら言った。
「そうだね」
2人に習って床に座ると、咲が妙にソワソワしているのに気が付いた。
どうしたんだろう。トイレかな?
「咲?」
「えっ!?な、何!?」
「いや、なんかソワソワしてるから」
「べ、別にソワソワしてなんか…っ、そ、それで…っ」
咲が少し押し黙る。
「ん?」
「な、何する?私、こういう時どうすればいいかわかんない」
咲のその言葉にみんな一瞬硬直した。
───後に一斉に吹き出す。
「んなっ!?何よ!?」
「な、何をそんなに構えてんのよ!!」
初流ちゃんがお腹を抱えて笑い出した。
「べっ、別に構えてなんかっ、だって泊まりなんて初めてでっ、しかも家でっ」
「いつもと一緒でいいんだって!!」
「いっいつもって?」
顔を赤くして恥ずかしがっている咲を見て思わずまた笑う。
あぁー、これは北村君がちょっかい出す気持ちがわかるかも。なんか、返ってくる反応が面白いんだよね。
咲の手を飛鳥ちゃんが握る。
「……外に、出たり、………話したり……?」
「なんで疑問系なのよ!」
飛鳥ちゃんがホヤッと笑う。
「……そんで、ただ笑うのね…」
「で、結局どうする?」
私がみんなに尋ねると、みんな何か考え込む。
「まぁ、語るのは夜にでもするとして、これから外に出ない?咲のご両親にお土産というか、迷惑かけるお詫びも買えるし」
初流ちゃんが少し上を見上げて考えてから言った。
あーなるほど!!
「いいね」
「でしょ?そうと決まったら行きましょうか」
初流ちゃんが立ち上がって皆を促す。
そして部屋を出る間際、振り返って私達に片目を瞑ってみせた。
「みんな、言っとくけど、今日は寝かせないわよ?」
最後に綺麗に笑って颯爽と出て行く。
「なんか、初流ちゃんが言うと…」
「ね…」
3人で顔を見合わせて苦笑した。
「……………変な、意味みたい、だね…」
「「やっぱり?」」
そして、時は過ぎ、夕飯も食べ終わり風呂に入り、みんな布団に入って雑談をしていた時のことだった。
「私、今この芸能人気になってるのよねー」
咲が何とはなしに見ていた雑誌のモデルを指指す。
「あ、そーなの?あれ、でもなんかこの人って…」
そこで咲以外の3人がハッとなる。雷が落ちたような感じを3人で共有する。
───どことなく、北村君に似てる…!!
くっ、なんなの咲!ノロケてるの!?
「え?何?」
いつまでも言葉が続かないことを疑問に思ったのか咲が首を傾げた。
「な、何って、ねぇ…」
2人に目をやると、少し汗をかいて2人共目を逸らしている。
う、裏切り者ぉぉおお!
「いやーその、あのね?あのー」
しどろもどろになっている私を見て初流ちゃんが助け舟を出した。
「ていうか、ずっと聞いてみたかったんだけど」
ありがとう初流ちゃん!是非そのまま話を逸らして!
けれど、初流ちゃんの聞いてみたかった質問は、話を逸らす所ではなかった。
「咲って、北村君のこと好きなの?」
「へ…っ!?えぇ!?」
ちょっと、初流ちゃん!それはあなたが聞くのにはデリケートすぎるんじゃない!?
一気に朱くなった咲を見て初流ちゃんが不敵に笑う。
「うふ、面白そう。ガッツリ掘らせてもらうわ」
……………あらーなんかそんな心配しなくても良さげー。
「まあまあその気持ち、わかるわ。かっこいいしねぇ。もともと私、北村君好きだったわけだし」
「えっ………そう、なの?」
飛鳥ちゃんが目を丸くした隣で咲も目を丸くしている。
あれ、知らないんだっけ。
「そうよ、見事に玉砕したけどね。まあそれはいいのよ別に。落ち込んだけどなんだかんだあって復活してるし。ね、やっぱり咲って北村君好きなの?」
ニヤニヤしながら咲に初流ちゃんが迫った。
「なっ、何よ!来ないでよっ」
「いいから、いいから。それで、好きなの?」
「……っ、わ、わかんないわよ、そんなの!最初の印象が悪かったっていうか、しょっちゅうぶつかってくる人だったし、ムカつくことばっかり言ってくるし!」
ふんふんと飛鳥ちゃんが頷いている。
え、何この子。可愛いんですけど。
「………でも、最近は、そうでもないっていうか。相変わらず、ムカつくことは言ってくるけど、でも、………なんか、優しくなった、……かも」
「優しくなった?」
「ていうか、その、……今でも、あたしけっこう彼にぶつかったりしちゃって、そしたら、その……………何気に、こけないように、とか、色々してくれてて。腕掴んだりとか、……私、自分が意地っ張りなの自覚してるから、そういうのされてもありがとうもごめんも言えないんだけど。………………気付かないようにしてくれてるのかなって」
若干目を逸らしながら咲が言う。
「で、好きなの?」
初流ちゃんがそういうと間髪入れずに咲が言った。
「何でそこそんなに追求してくるの!?」
「だって気になるんだもーん」
「うぅっ。……好きかって、聞かれたら、なんとも言えないけど。……でも………気になる、よ」
「…ふぅ~ん?」
ニヤニヤしている私達を見て咲が猫のように毛を逆立てた。
「何よっ、ていうか、みんなはどうなの!?」
「えぇ?私達は別に、ねぇ?」
ニヤニヤしている初流ちゃんが私達を見てきたので、同じくニヤニヤして返す。
「嘘よ、舞っ、あんただけはしらを切らせないわよっ!正直に答えなさい!あんた東山君好きでしょう!」
「えっ!?」
突然ふられて挙動不審になってしまった。
咲の言葉に初流ちゃんは楽しそうにまたまたニヤリと笑い、飛鳥ちゃんは目を煌めかせる。
私は衝撃で言葉が出ない。
いや、あの、好きっ、ていうか、ですね。
「その、あの、あのあのあの」
「勘違いとは言わせないわよ!舞と東山君が2人の世界に入っちゃってるせいで私が何度言い表せない気分を味わったと思ってるの!?」
王道を真っ直ぐ行くような恋愛しやがって!と咲が叫ぶ。
「いや、あの、咲さん落ちつこっか?」
どうどうと前に出した私の手を目をキラキラさせたまま飛鳥ちゃんが掴んだ。
「え?」
「………お似合い、だと、思う……。東山君、優しいし……、舞ちゃんにピッタリだよ…」
後半らへんに目の煌めきを強めて言う。
そんな飛鳥ちゃんの肩を掴んで私は溜息を吐いた。
「……とりあえず、あなたも落ちつこっか…」
「えー何それ、すごいつっこみたい。舞が東山君を?…………やだ、何、何これなんか面白い。何だろう、東山君をいじり倒したいこの気持ち」
何で!?
「白状しなさい!好きなんでしょう!」
指を突きつけられて、もう私はタジタジである。
「いや、その、好きっ、ていうか、……どっちかと聞かれたら、す、好きだけど」
それも結構。
ふと揺れる自分の髪からシャンプーが薫ってきた。
東山君が、好きだと言ったこの香り。
…………あのシャンプーを選んで良かった。結構、嬉しかったもん。
思い出して熱くなってきた顔を俯かせて顔を逸らす。
「けど?」
「…………なんか、東山君が掴めないんだ。優しいし、もしかしてって、思ったこともあるんだけど」
でも、彼は基本的にそんなに態度が変わらなくて。優しくて明るくて、いい人。
「脈があるかがわからない。…から、あんまり、深く踏み込めない、かなぁ」
溜息を吐きながら言うと、咲がふぅんと言って天井を見上げた。
「王道も王道で大変なのね。でも、踏み込むなら踏み込むで気をつけといた方がいいわよ?」
「何を?」
「か・れ。東山君、意外とモテるからね。社交的だし、爽やかだし、普通っぽいけどなんか身のこなしが上品だし、その上容姿も北村君と並んでやや劣るぐらいだし」
ズバズバと初流ちゃんが私に言葉の錘を載せてくる。
う、ちょっと、なんか、ヤバい。
「だから、優良株で女子の間を出回ってるわ」
初流ちゃんが肘をついてその手の甲に顎を載せた。
「こうして客観的に並べてみると、結構東山君すごいわね。ザ・モテ男って感じ」
その言葉にギクッとなる。
ほ、本当だ。完璧だ。
「───……」
何か言おうとして口を開いたが、すぐに閉じた。
そんな私を見て初流ちゃんが苦笑する。
「まぁ、だから、時期が過ぎてからじゃ遅いかもって話よ。まぁそんなことは今はどうでもいいのよ。よく考えてみたら今の所東山君と舞は心配いらないと思うし。私が知りたいのはねぇ」
ズイッと初流ちゃんが体を寄せてきた。
わぁぁああ!咲ごめん、ニヤニヤなんかして!なんかこれ、ものすごくいたたまれな──こらぁ!どうして咲もニヤニヤしてるの!
「 東山君のどこが好きなのかってことよ」
その言葉に変な汗が出てくる。体温が急上昇しているから、きっと今私の顔は赤い。
「う、え、っと、」
な、何この状況。恥ずかしい!
パニックに陥った私は全力で初流ちゃんから距離を取った。
「し、シークレット!ダメです禁域!侵略不可!」
「何よ、私の時はグイグイ来たくせに!」
咲が突っ込んでくる。
「あれはほとんど初流ちゃんが!」
「うるさい傍観者も同罪よ!」
そんな!
私の救いを求める目に飛鳥ちゃんが気付いた。
そして、私に力強く頷いてみせる。
や、やった!助けてくれるの飛鳥ちゃん!私の味方は飛鳥ちゃんだけだ!
そう心の中で叫んで飛鳥ちゃんに手を伸ばすと、優しくそれを握られた。
え?
「いつ、好きになった、の?」
ちっがぁぁあう!
別のことを聞いてほしかったんじゃなぁぁあい!答えやすい質問を期待した訳じゃなぁぁあい!
意外な勘違いに私の頭が衝撃を受け、思考が止まる。
い、いかん。このまま、では。
「っ、はっ、初流ちゃんは!?好きな人いないの!?」
苦し紛れにそう叫ぶとあっさりと返ってきた。
「いるよ?」
「へぇ、そうなんだ。───えっ!?」
あまりにもあっさりし過ぎていたから聞き逃す所だった。
「だ、…………誰?」
「ん?西川」
西川。西川って、───西川 茜君か!
「う、そぉ…」
意外、かも。
西川君といえば、頭良くてつっこみが容赦なくてっていうイメージしかなくて、───正直、恋愛のイメージはないかも。
その西川君を、初流ちゃんが?
それもまた意外過ぎる。
マドンナって呼ばれるくらい美人の初流ちゃんが、言ってしまうと悪いけど、普通の西川君に恋をしてるなんて。
逆なら、少し納得できるけど。
「……な、何で?」
咲が興味津々に聞く。
「ん?うーんとねぇ」
少し考えて、初流ちゃんが一瞬チラッと咲を見た。
そして照れたように笑う。
う、おぉう。可愛いな!
「北村君にフられた時、ちょっと塞いじゃってね。あの4人と一緒にいたから舞は知ってるかな。ほら、映画を撮った時。私、軽い引きこもりみたいになって学校休んじゃって」
あ、あの時か。
「気持ち自体は立ち直ってたんだけど、なんて言うか、学校に行きづらかったんだ。キッカケがなかなか捕まらなくて。───そんな時に、西川が、家まで来てくれたの」
初流ちゃんがまた照れ笑いをした。
「普通は部員に電話を掛けさせるか、私の携帯の電話番号聞いて私に電話すれば早いでしょう?なのに西川は……女子が苦手なのにわざわざ家まで来たのよ。学校行こうって、言ってくれたの」
クスクスと初流ちゃんが笑う。
「おかしいでしょ?普段は結構素っ気ないんだけど、強く来られると意外に振り払いきれないみたいだし」
少し困り顔な西川君が浮かんだ。
「なんだかんだで、優しいから。とりあえず今好きな理由で思い浮かぶのはこれかな」
「へぇ…」
な、なんか。
初流ちゃんを除いた3人で目配せする。
───堂々としたノロケって、なんかこっちが照れる…!
「じゃあ、最後ね。飛鳥ちゃんは…」
そこで、みんな押し黙った。
「…………南沢君が好きよね」
「……………ん…」
照れ気味に飛鳥ちゃんが小さく頷く。
ここは聞くまでもない。もうカップルでいいじゃないかと思うほど、甘々な何かが漂っている。
まぁ、それでも付き合ってないのは。
「南沢君が飛鳥ちゃんに兄妹みたいに接してるから、よね」
いや、もう。南沢君はどこぞの主人公かってぐらいに鈍感というか何というか。
「アピールとか、しないの?」
それを聞いた飛鳥ちゃんが一気に真っ赤になる。
あらやだ。可愛い。
「……無理…で、できない」
「なんで?普段、あんなに…っ」
バフッと咲が自分の口を押さえた。
わかるよ、咲。言いたかったこと、死ぬほどわかる!
『普段、あんなに甘々なんだからアピールくらい軽いでしょ?』ですよね!
「飛鳥ちゃんは、南沢君のどこが好きなの?」
飛鳥ちゃんはしばらく考え込んだ後、ほにゃっと笑った。
「………優しい、ところ。……全部、好き……」
その言葉に。
飛鳥ちゃん以外の3人が同時に立ち上がり、かなり辛いことで有名な歯磨き粉を使って歯磨きを始めた理由はわかって貰えると思う。
結局、何がしたかったのかという。
ヒロイン達の心情を書いておきたかったんです!