とりあえず、自己紹介でもしますかより*カウジェ
どうも、緋絽です!
今回は、『とりあえず、自己紹介でもしますか』よりカウジェ村長が登場!
フォータムの花祭り。
アルギュロス王国の伝統行事である。
男女どちらからでもよく、フォータムという縁が白く、内側になるにつれて桃色になる花を好きな人に渡すという、なんとも気恥ずかしい行事のことだ。
「おはようございます、カウジェ」
俺の朝は俺の妻───ロネリーに起こされることから始まる。
「…おはよう」
欠伸をしながら体を起こす。
ロネリーが布団をたたんだ後に窓を押し開けた。
「あら」
風に乗って甘い花の薫りが部屋に吹き込んできた。
春になると咲く、幸せを運ぶとされる花の薫り。
「…春になりましたね」
そっと溜め息を吐くようにロネリーが呟いた。
「そうだな」
村の端々にはもう緑が溢れ始めている。空気も切り裂くような冷たさから解けるように温かくなった。
「そうだわ」
ロネリーがこちらを振り返って花が咲くように笑った。
結婚してからも、その美しさは損なわれることはなく。いつまでも笑顔の明るさは変わらない。
「あなたが私にフォータムをくれたのも、この季節だったわね」
うっと詰まる。顔が熱くなったのがわかった。
「…………そうだな」
ふふふ、とロネリーが笑う。
昔の話を蒸し返さないでほしい。
口元を押さえて立ち上がる。
「そろそろフォータムの花祭りね…」
部屋を出る間際、ロネリーが言ったのが聞こえた。
───昔から美しい女だった。
大輪の花のような華やかな美しさがあるわけではない。
だが、小さくて十分綺麗な花がたくさん集まった時の、穏やかで確かな美しさがある女だった。
おまけに性格も明るく、気立てがいいときたら村の男が放っておくわけがない。
村の男が次々と縁談を申し込み、玉砕していくのを俺は横目に見ていた。
笑顔に惹かれていたし、自然と気づけば目が勝手にロネリーを追っていたが、それでも縁談を申し込もうとは思わなかった。
フられると信じて疑っていなかった。
だから、彼女の中でフられていった男達と同じように扱われるのが嫌だった。そんなのは癪だ。それぐらいなら、愛を捧げなかった奇特な男、と強烈な記憶として残りたい。そう思っていた。
何度も目が合った。多分、俺が見ていたから。その度に笑い返してくれるだけで十分だった。
一度しつこい奴に絡まれて困っていたロネリーを助けてから、言葉も交わして、よく話もするようになって数年。
俺が23歳で、ロネリーは20歳の頃。
ロネリーが今年、結婚するという噂が流れた。
それを聞いて、酷く胸が痛んだのを覚えている。
結婚適齢期が過ぎてしまう前に結婚しなさいと彼女の両親とロネリーが激闘した末、ロネリーの勝ち取った少しの猶予期間だった。
「ロネリー」
「はい?」
ロネリーが笑って振り返る。
「それで、いいのか」
ロネリーがクスリと笑う。
「私、待ってるの」
その目は真剣そのものだった。
そうか。ロネリーには、待っている奴がいるのだ。
「優しくて、いい人なの。あの人は全然私を見てくれないけれど。フォータムの花祭りまで、待ってみるわ」
俺の目を真っ直ぐ見て言いきった。
目を逸らしたくなる。
ロネリーには、好きな人がいる。
「───待ってる」
フォータムの花祭りの当日。
村中がフォータムで咲溢れていた。
ロネリーが今日を終えたら結婚してしまうことが思っていたよりこたえていて、家にこもっているつもりだったのに、母に蹴り出された。
「もう立派な男でしょーがっ!さっさと女の子ひっかけて、結婚相手見つけてらっしゃい!」
「おいっ…」
「異論は言わせないわよ、カウジェ。1人も女性連れてきたことないじゃない。母はあなたの行く末が心配でなりませんよ」
泣き真似までするものだから、タジタジである。
「わ、わかった」
背中を向けて歩いていたから、俺は母がほくそ笑んでいたのを知らなかった。
わかったと返事をしたが、誰にも───ロネリー以外には誰にもフォータムを渡す気はないので、ブラブラしていた。
周りにはフォータムを渡し終えた男女がイチャイチャしている。
「お兄さん」
籠を持った恰幅のいい女性が俺を呼び止めた。
「なんだ?」
「なんだってなんだい。あたしゃ年配者だよ!」
「すま…、すみません」
「おや。自分の非を認められるなんて、お兄さんいい男だねぇ。あれっ、なのにいい女が隣にいないじゃないのさ」
「あ、の」
女性がニヤリと笑う。
「さてはお兄さん、奥手だね?」
「いや、あの」
「そんな人の為の花祭りだよ。ほら」
小ぶりながらも綺麗にまとめられたフォータムのブーケを渡された。
それを反射的に受け取ってから、考える。
このなかのどこかで、ロネリーはまた誰かに結婚を申し込まれているのだろう。もしかしたら、すでに、ロネリーが待っている奴は来たかもしれない。
それを思うなら、きっと、何もしないのが彼女にとっていいことだ。
───でも。
ロネリーを思い浮かべる。
俺は、きっと忘れられない。待ってる奴がいると聞いてもまだ、諦められないのがその証拠。
ならば。やることやって、潔くフられたほうが、後悔しないだろう。自分の性格はよく知っている。ケジメはつけられる方だ。
「…ありがとう、おば…お姉さん」
「あらやだっ、本当にいい男だわ」
カラカラと笑うおばさんに背を向けて急ぎ足でロネリーを探しに歩き出した。
日が暮れ始めて、空は赤くなっていた。
ジャリ、と土が音を立てる。
「……いた」
俺の声にロネリーが振り向いた。
ロネリーは1人で村の外れの丘の上に座っていた。
「カウジェ…」
ロネリーが微笑む。どことなく頬が赤らんで見えたが、夕日のせいだろうか。それとも───もう、すでに。
思わず、何を言おうか口ごもった。
ロネリーが立ち上がる。
「………待ってる奴が、いるのは、わかってる」
「え?」
ロネリーが俺の言葉に目を瞬かせる。
「…あっ!ち、違うの、カウジェ」
「でも!」
後悔はしたくないと、思ったから。
フォータムのブーケを握り直す。
「……これ」
そっと差し出した。
ロネリーが目を見開く。
「……受け取って、くれるか」
「…カウジェ…」
ロネリーがフォータムのブーケを受け取った。
これで、この思いは、最後。
ならば、全て伝えてしまえ。
結婚を申し込む所作───つまり、地面に片膝をついてロネリーの手をそっと取る。
ロネリーの目を見つめる。
ロネリーが珍しく慌てたように瞳を揺らした。
「……俺は、昔から、お前が好きだった」
「……え…」
「お前が向けてくれる笑顔が好きだ。優しい声も、些細な癖も、…全て可愛く見える」
ロネリーの指が熱を持った。
ロネリーに笑いかけてから、手の甲にキスを落とす。
「好きだ、ロネリー。言葉じゃ言い表せないぐらい」
あまりにも恥ずかしくて顔が上げられない。
ふと、息を吐いた。
「……結婚してほしい。俺と」
これで、言いたいことは言いきった。
ロネリーの手を離して立ち上がる。
「あっ…」
「でも、お前には、待ってる奴がいるから」
笑って、背を向けた。
ちょっとは引きずるかもしれないが、きっと後悔はしない。
───と、バアンと背中に何かが当たった。
ギョッとして振り返ると、ロネリーが振り下ろした手を戻して怒った顔で俺を見ていた。
落ちた物を見ると、俺の渡したフォータムのブーケだった。
「ロ…」
「カウジェのバカ!何1人で言い切ってかっこよく去ろうとしてるの!?」
「お、い」
ズンズン近づいて俺をキッと睨む。
「どうして私の返事は聞いてくれないの!?普通聞くじゃない!」
「だって、待ってる奴が」
「だから!それが誰なのか聞いて欲しかったのよ!」
思わずうっと詰まる。
名前を聞いたら、喧嘩を売ってしまいそうだから。聞きたくなかったというのが本音だ。
「す、すまん…」
怒ったようにつり上がっていた目が、下がった。
ロネリーの目に涙が浮かぶ。
「ロッ、ロネリー!?」
次の瞬間、胸に衝撃がきた。
ロネリーが胸にしがみつくように抱きついていた。
「あなたよ、カウジェ。あなたなの。…待ってた」
一瞬で、思考が爆ぜた。
「え…」
「しょうがないでしょう?こんなに優しい人、他にいないんだもの。溺れるような優しさに、恋するなっていうほうが無理です」
「ロネ…」
ロネリーが顔を上げて、笑った。
花が咲いたような気分になる。
「…喜んで、お受けします、カウジェ」
ロネリーが落ちていたフォータムのブーケをしゃがんで拾った。
「私の旦那様」
その言葉に。
地面に崩れ落ちたのは言うまでもない。
花壇に咲いているフォータムを見る。
幸せを運ぶ花。
「……あのときは落とされたからな」
花がくたびれてしまった。
だから、とりあえず。
またあの花を手渡そう。
なんか奥さんのイメージが…。
カウジェさん意外と恋愛してましたな!




