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クワガタ、室町末期に放たれる?  作者: 双鶴


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13/23

第13話 六角征伐と、深まる断絶

 義材が将軍に就任してから、まだ日が浅い。

 だが、その胸中には焦りが渦巻いていた。


 将軍としての権威は脆く、

 幕府の実権は畠山政長が握り、

 政元は距離を置き始めている。


 義材は、自らの立場を固めるため、

 近臣たちと日夜相談を重ねた。


「将軍家の威信を示すには、

 大名を討伐し、武威を示すしかない」


 その結論が、

 近江の六角高頼討伐――

 延徳三年四月の六角征伐であった。




 義材は大名たちに参陣を呼びかけた。

 細川一門、畠山、赤松、京極、山名――

 畿内の有力者が次々と動いた。


 政元もまた、

 将軍の命に従い出陣した。


 だが、政元の胸中は冷えていた。


(六角を討つことに意味はない。

 丹波の一揆も収まらぬ今、

 京兆家が兵を割く余裕はないのだ)


 政元は義材を諌めたが、

 義材は耳を貸さなかった。

 あの言葉が頭に蘇る。


「細川、

 これは幕府の威信である。

 そなたの都合ではない」


 出陣前に下されていたその言葉は、

 再び政元の胸に深い溝を刻んだ。




 六角征伐は、

 表向きは華々しい成功を収めた。


 政元を含む諸大名の圧倒的な武力により、

 六角高頼は甲賀へ、

 さらに伊勢へと追われた。


 戦場には勝鬨が響き、

 義材の威信は一時的に高まった。


 だが――

 その裏で、

 政元の心は冷え切っていた。




 征伐の最中、

 政元の家臣・安富元家が六角軍に大敗した。


 その報せは、

 義材の心に火をつけた。


「細川殿の軍は脆い。

 これでは幕府は任せられぬ」


 義材は、

 政元への依存を減らすため、

 他の大名を頼るようになった。


 畠山政長、赤松政則、京極政経――

 義材は彼らを重用し、

 政元を遠ざけ始めた。


 政元は、

 その変化を静かに受け止めた。


(義材は……私を切り捨てるつもりか)


 だが、政元の目は冷静だった。


(ならば……こちらも、動くしかあるまい)




 六角征伐が終わった夜。

 政元は元司を呼んだ。


「元司。

 義材は……私を不要と見たようだ」


「殿……」


「よい。

 義材が私を遠ざけるなら、

 私もまた義材から離れるだけよ」


 政元の声は静かだった。

 だが、その奥には鋼のような決意があった。


「元司。

 そちは……この先、

 よく見極め、最後まで見届けよ」


 元司は深く頭を下げた。


(殿……

 ついに“その時”が近づいている)




 義材の六角征伐は成功した。

 だが、その成功は、

 政元との断絶を決定的にした。


 幕府の中で、

 義材と畠山政長の権勢は増し、

 政元は孤立しつつあった。


 だが――

 政元は孤立を恐れなかった。


 むしろ、

 孤立こそが“動く時”であると知っていた。


 そして、

 政元の影として動く元司もまた、

 その時を静かに待っていた。



 政元と義材の断絶は、

 もはや修復不能なところまで進んでいた。


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