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見えない傷痕




「傷を見えなくしてほしいの」




 魔法とは万能ではない。


 魔力を持たぬ人間にとっては、その言葉の意味は分からないかもしれない。

 風を操る魔法使いは風の力を感じる事ができて初めて、それを操る事が出来る様になる。


 ダーファン国の人間はその狭い地の中で細々と子孫を残し、紡いでいく血の中で風の魔力を与えられた子が生まれ、その子らが風の力を知る努力をしてきたからこそ、この地を代々守り続ける事ができたのだ。

 血によって魔力は継がれ、その地に住む者は風の魔法を操るが故にダーファンは風の国と呼ばれる様になった。


 だから、ルカに発現した魔力は彼らからするとあまりに異質だった。


 風の力のみならず、大地、水、光、闇、火などといったあらゆる力の源を感じる事ができた。

 魔力が発現するまでは、家族の中でルカ一人だけ魔法が使えず、自暴自棄になった事もあった。


 王家の者みな、風を操り生命を芽吹かせ、風の便りに耳を傾け国を治めているというのに。


 自分だけが風を感じる事が出来ない。



 だから人質に向かわされたのだ。

 役立たずな人間だから。



 国から送り出される時。

 両親から何の言葉も与えられぬまま出立したルカはずっとそう思い続けていた。

 その劣等感は、魔力が発現してからもなお、燻り続けている。


 ラフトゥ国で、なんの前触れもなく魔力が宿ったと感じてからは、独学で自らの力について学び、少しずつそれをコントロールする術を身に付けた。

 周りを支配する程の魔力は必要ない。

 生きていく中でささやかな手助けになる程の魔法が使えさせすればいい。

 他国ではそういう力を使う為に能力をコントロールする施設があったり、逆に排斥する為に制圧する規則を設けている国もあったりするという。

 だが、ダーファンにはそれがなかった。

 向上心がないお国柄故。

 国民誰もが仲良く手を取り合う性質故。

 如何様にも理由は想像つくが、ルカの魔力について追求しようとする者は誰も居なかった。


 一族の中で唯一魔法が使えない人間。

 他国へ行って我が国の役に立つことくらいして来いという事か、とルカは自分が人質に出された理由をそう結論付けた。

 

 だから、人質期間が終わってからもルカは故郷へ帰る事を頑なに拒み続けた。

 あそこにはもう自分の居場所はない。と。

 

 最終的には大人の言う事が絶対であった、まだ子どもの自分は帰らざるを得なくなってしまったが。

 ルカは周りの意見を説き伏せ、メリッサの元へ戻ってきた。



 初恋の少女の側にいたいというただ一つの望みの為に。



 だから、君が望むなら僕はなんでも叶えてあげるよ。



「わかった」



 君が綺麗な身体でルチア王太子の前に立ちたいと言うのなら、僕はそれに従ってあげる。



「本当?」


 自分を真っ直ぐ見つめるその目は大きく見開かれ、「まさかお願いをきいてくれるなんて思っていなかった」と言わんばかりに瞼を瞬かせている。


「本当よ」


 ルカは柔らかく、メリッサを誰よりも宝物の様に思っているからこそ、微笑んだ。

 自らのドロドロとした感情を押し隠して。


「じゃあ」


「え?あっ?何何。やめて。しまって」

「え?どうして?」


 重くて長いドレスの裾を何の恥じらいも無くたくし上げ、自身の白い肌を惜しげもなく露出させる。

 その普段は隠された部分が膝上の、更に上まで露になり、もっと先の、傷痕まで見えそうになってしまう所で、ルカは友人の行動を制止した。


「見れないと治せないでしょ?」

「……」


 勿論、その通りではあるが、警戒心の欠片もなく言われてしまうと、もう少し意識して欲しいかも、と悔しく思ってしまう。

 それも、ルカのしている格好が格好なだけに仕方のない事ではある。


「少し捲ってくれるだけで大丈夫だから」


 ここは外。

 しかも、少しの時間でやっつけに治していいものではない。

 メリッサがひたすらに抱え込んできた傷だからこそ、丁寧に触れてあげたい。


「次のお休みの日」


 ルカはポツリと呟く。


「一緒に遊びに行きましょう」




 そうしたら僕もあなたのこと諦めるから。




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