エピローグ
なんだかんだで部員が全員そろった翌日。
顔を突き合わせた5人が行ったのは多数決だ。
もちろん5人が同じゲームタイトルを上げたため、夕凪が危惧していたことになることはなかった。
それぞれ部内の席も固定したところで早速練習を開始しようと思ったのだが、
「えっと、五鈴さん?今なんと?」
「え?だから体力づくりにランニングっていったの。空見さん」
無知とガチの意見がぶつかるのは予想出来ていた。
「走るより、ゲームがしたいんですっ!」
「したいだろうけど、勝つためには仕方のないことよ。私だって好きなわけじゃないもの。夕凪さんはどう思う?」
話に入らないように、自販機で買ったであろうパックに書かれたいちごみるくをストローで吸っていたにも拘わらず意見を求められてビクつく夕凪。
「私は、勝ちたいので走ります」
「はい、決まり。大丈夫、色んな情報はあるけど試しながらやって一番良い練習になるようにするから」
その言葉に渋々承諾する空見。以前空見が行ってたバスケのような機敏な動きは出来ないだろうが、軽く運動する分には問題ないとのこと。
「そういえば私、皆さんのこと全然知らないんです。なので教えてください。それと五鈴さん!」
「は、はいっ!って何?」
「さん付けはやめて千羽と呼んでください。皆さんにもです。私も五鈴さんって呼びます」
「貴方は変わってないじゃない。わかった、一応チームになったわけだしね」
空見の言うようにとんとん拍子でここまで来たが、戦友のように見えてお互いのことを何も知らないのだ。当然、
「ちなみに空見は一カ月前来た転校生だ」
「えっ知らなかった...」
「全く知りませんでした。」
二人が驚きの顔をするのは分かっていたが少しだけ空見が可哀相になってくる。
「まー、しょうがないよね。クラスも違うし。」
それはこれから解決していけば良いだろう。ほぼ間違いなく毎日ここで顔を突き合わせることになるのだから。
「私、五鈴さんの家行ってみたいです!プロを目指す五鈴さんのお部屋が気になります」
「そう?大したことないわよ。」
「あたしも気になる。というよりあの五鈴レアと知り合えるとは思わないから普通。あ、ようやくここであたしのことをフルネームで呼んだ成瀬君の気持ちがわかった。少し複雑だけど」
「なんでフルネームなの?咲宮さん。全然わからないんだけど」
今まで秘匿とされてきたような扱いを受ける五鈴。屋上なり、噂を聞けば理解できなくもないが。
「五鈴のいうようにそんな期待するほどでも...あー、ゲームはたくさんある。山のようにあるから一度行くことをお勧めする」
「風呂場も意外と広いし、泊まってもいいんじゃないか?俺は行かない...ん?」
「...成瀬君の記憶消しておけばよかったわ。」
「成瀬君もしかして..」
「いや、たまたまだ。忘れてくれ」
「無理があります」
おかしな方向に話が行くことを避けた五鈴は、そばにある空いた机にの上を差す。
「えっと、あれは?」
「部活設立記念日でお祝いしようかと思いまして。」
その一言で思い出したように周りにはお菓子やら飲み物やらが並ぶ。
確かに記念すべき日なのだろう。みんなにとっても。
乾杯の挨拶とともに始めての部活動が始まった。
「何?成瀬君」
「なんで俺の過去知ってたか話してもらってないんだけど」
あー、と思い出すようにして何でもないことのように、
「見ちゃったのよ。職員室で成瀬君の顔と、以前の学校と部活が記載された紙を。山城先生の机にあったから」
「おい、なんて軽いんだ俺の個人情報は...。ってことはそこから察したわけか」
「そういうこと。あんな強豪校から転入してくるんだもん。忘れないわよ流石にね。」
「それはそうと随分山城先生と仲が良いみたいだけど、なんで?」
「ああ、それは。同じ学校に居たからだ。」
「え、それって...」
「そのままの意味だろ。別に珍しくもなんともない。」
始まりから既に2時間が経過し、結局今日はただ食って飲んで、それだけで終わってしまった。
まぁでもこういう日もあって良いと思う。
「成瀬君も分かっていると思うけど、ここからよ。まだ何も始まってない。優勝を目指すなら今この時点で既に周りから遅れてる」
「そうだな。でもいいんじゃないか。今はこれで。」
楽し気に話す3人を遠目に見つつ椅子に腰かける五鈴に肩を並べる明人。
「言っとくけど、成瀬君あんまりうまくないから」
「善処するから二度と言わないでくれ。俺は褒めて伸びるタイプなんだ」
「そう。相性が悪いみたい」
「解散も近いな」
「出て行ってもいいわよ」
「悪かった」
その答えに納得すると五鈴は3人の方を向く。
「ありがとう」
顔も合わせず離れていく後ろ姿に苦笑する明人。
目の前を見れば転校生と友達の妹の友達と喫茶店の姫、それから学園の有名人。
冷静に振り返ってみて、この一カ月で明人の学園生活は大分一変したらしい。
Beforeには誰一人いなかった人物がAfterで揃う。
もうこれで物語は終わるんじゃないかと錯覚するのだが、五鈴の言う通りまだ何も始まっていない。
明日以降も続くであろう目の前のやり取りを見ながら明人は止まった人生が動き始めたのを感じたのだった。
一章終わりました!ありがとうございます。




