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投げ倒せ!ホブゴブリンズ!(本番)


旅人――じゃなかった旅人さんのコスチュームは

なかなかシャレオツなイカしたコスチュームだった。


一言で表すならスタイリッシュ・スナフキ○?


身体をすっぽりと覆うモスグリーンの外套なんだけど、たくさんの飾りベルトが至るところに付けられててシャレオツ。精緻な細工が施されたシルバーのボタンもいいアクセントになっててシャレオツ。


焦げ茶色の指ぬきグローブやブーツとの相性も良好で、素体が僕という事を差し引いてもなかなかクールな仕上がりになってるんじゃないかな。ヘヘッ!


たださー。この装備、一個だけ欠点があるんだよねー。


ん?シャレオツ装備一式用意してもらっといて文句言うなって?

それはならん。むしろ声を大にして言わせていただきたい。そう――



この装備、防御力低くね?



致命的だよッ!防具として一番大事な部分が足りてないよ旅人さんッ!!

グローブとブーツは革 (と思われる) 素材だし、外套に至っては布素材だよ!?


これじゃ命を守れないよ旅人さんッ!!

こんなペッラペラ装甲じゃバトルどころか旅にすら発てないよッ!!マジ勘弁ッスわーッ!!!!


ううう……。僕も従兄弟みたいなのがよかったよぉ……。

似合わなくてもいい。亀みたいになってもいい。だからまともな防具プリーズなんだよぉ……。


あ、ちなみにどっからどう見ても勇者様にしか見えなかかった従兄弟だけど、実は『騎士』のコスチュームだったことが判明。

つまり『イケメン+騎士=勇者様』という世界の理が発動したわけだ。ただしイケメンに限るは異世界でも何ら問題なく発揮されるものらしい。爆発しろ。


ついでに言っとくと俊平くんは『バトル忍者』で、ジャンキーさんは『トリックスター』ってコスチュームね。


バトル忍者て……忍者がバトっちゃダメだろ常識的に考えて……。

忍者なんだから忍べよ。戦闘は極力回避するのがお前の使命だろうが。


あとジャンキーさんの『トリックスター』ってのがお似合いすぎてもう何も言えねぇ。……何も言えねぇよ。


「おし、全員準備はできたか?そろそろ出るぞ」

改めて【装身】し直した勇者様が珍しくキリッとした表情でそんな事を告げてくる。


それに対して僕は無言だった。

抵抗しないのかって?君は実にバカだなぁ。


したに決まってんじゃん。

そして僕の訴えが聞き届けられるなんて奇跡が起きるわけないじゃん。


掻い摘んで説明すると

『こんな装備じゃ戦えない。全然大丈夫じゃない』

って主張した僕に対して


『まぁ涼太なら何とかなんだろ。大丈夫だ!』

という根拠無ぇぇぇぇぇ!回答で一蹴されたって話なんだ。そろそろ僕は泣いていいと思う。


ん?あ、うん。

その後の展開はお察しの通りです。



当然連行された。



+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-



ホブゴブリンとの戦いで、僕は完全なお荷物だった。


だってしょうがないじゃん。アイツらビンぶち当ててもピンピンしてんだもん。

ビンが効かないんだったらもうお手上げですわ。万策尽きたってんだよコンチクショー。


でも、悪い事ばっかりじゃなかった。

むしろ僕的にはゴブリン戦なんてスッ飛ばして、いきなりホブゴブリンと戦いたかったくらいだ。



だって見てよこの状況ッ!



どうやらホブゴブリンってのは僕の想像よりも遥かにヤバ目の魔物だったらしく――


その結果。

「今回はオレたちの傍から離れない事を第一に考えて行動して欲しいッス」

「拠点の作成が済むまではなるべくジッとしててくださいね」


との心温まるお言葉をいただき、不覚にも泣いてしまいそうだった。

この点だけを見ても、一人恐怖と戦いながら投擲しまくったゴブリン戦より100倍マシだと思わない?


そんな危険生物相手に『行くぞぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!』って叫びながら単身特攻した従兄弟についてはこの際考えないことにした。何故ならヤツは規格外だからだ。


俊平くんが『ホントが突っ込んで行った……!』って感じで衝撃を受けていたのには驚いた。

従兄弟の生態を知る僕としては『ハッ!何を今更』って感じなんだけどな。ひょっとしたら彼と従兄弟との付き合いは僕が思っている程長くはないのかもしれない。


一方ジャンキーさんは『ハイハイ。知ってた』と言わんばかりの冷静な態度だった。欠片も心配する様子がねぇ。見習いたいものだ。


というわけで、今の僕はそこそこ心に余裕があったりするのだった。

あ、ちゃんとビンは投擲してるよ?役に立たないなりに頑張ってるんだよ僕も。


しっかし……ものスゲェなぁ……。


肩の負担にならない程度にビンをぶつけながら戦況を観察してると

訓練されたクロヤロー共の"凄さ"がしみじみと実感できた。



まず俊平君。

言ってしまえばナイフ投げてるだけなんだけど、その投擲技術がハンパなかった。


何がスゴいって、そもそも使ってるナイフの見た目からして普通じゃない。

通常のナイフってさ持ち手のくぼみに刃を差し込んで作られてるよね?つまり持ち手と刃は別々のパーツなわけだ。


ところが彼のナイフの場合、全体を一枚の金属板から切り出したような形をしている。

つまり持ち手から刃先まで一切の継ぎ目がないんだよ。作りとしては手術用のメスに近い感じ?


薄くて細長い形状をしてるから、大型のナイフと比べると威力は低いだろうけど、その辺は手数で補える。


俊平君は指の股に挟んでナイフを扱うんだ。

流石に親指と人差し指で挟むのは無理みたいだけど、その他の指――つまり左右の人差し指から小指までをフルに使って、実に彼は六枚ものナイフを一度に構えてみせた。


つまり最大で六枚ものナイフを一斉投射できるってことだ。

しかもギフトでいくらでも新しいナイフが手に入るんだから残弾は実質無制限。実にこの世界にマッチした物量作戦だと思うよ。


まさにナイフの弾幕って感じ。


腕を振り下ろして三枚投射。さらにその腕を振り上げる動作で追加で三枚。

彼の腕が動く度に新しいナイフがビョンビョン投射される様は見ていて清々しくすらある。


しかも命中精度がこれまた素晴らしいんだ。

とにかく当たる。ホーミング機能が付いてるのか?ってくらい命中しまくるんだよ。


気味悪いくらいのスゴ腕を見せられて、思わず


『スゴい命中率だけど、弓道とかやってたの?』

って質問すると、彼はナイフを投げる手を止めることなく笑って返事してくれた。


『いや、特に何もやってないッスよ。

それに弓道とは求められるスキルが違うっていうか……。なんつーんスかねぇ?


弓道とかって、的の中心を撃ち抜く為に、慎重に狙って、一射一射にスゴい時間をかけるじゃないッスか?

だけどオレ達みたいな中距離アタッカーは、的の中心なんて狙ってらんないし、時間をかけるわけにもいかないんス。


どこでもいいから的に当てることだけを考えるッス。

中心だろうが端っこだろうが、的に当たりさえすればダメージは通るんスから。


そして外す事を怖がらずに、とにかく矢継ぎ早にドンドン投げる事が大事ッス。

外れたらまた投げればいいんス。よーく狙って100%の命中率を保つより、バンバン投げて80%の命中率をキープする方が火力は高くなるッスからね』


意外とイイこと言うじゃねぇか。と素直に感心した。

けど何よりも、この長セリフを話しながらもテンポを崩さずナイフを投げまくるその技術力に感心した。


と、ちょうどその時だった。


『二人ともー!ちょっと拠点の補強するんで10メートルくらい後ろに下がってくださーいッ!』

振り返えると、さっきまで傍にいたジャンキーさんがいつの間か10メートル程後方まで下がっている。

僕は彼女の指示に従って、大人しく後退した。



ジャンキーさん。

俊平君とは違うものの、この人もやっぱり"凄い"人だった。


『そんじゃいきますよーッ!』

ジャンキーさんの元まで走りよると、彼女は嬉しそうにそう宣言しギフトを発動させた。


【そこ掘れバウワウ!】

ドッゴーン!


【そこ掘れバウワウ!】

ドッゴーン!


【そこ掘れバウワウ!】

ドッゴーン!


【そこ掘れバウワウ!】

ドッゴーン!


計四回のギフト発動と、その結果の重い爆発音。

かすかな地響きを引き起こしたこのド派手なギフト。その名も【穴掘り】。


効果は書いて名の如く、地面に穴を掘るギフトらしい。

らしいっていうか実際目の前に大きな穴が開いたんだから疑いようもない事実なんだけどさ。


ゴブリン狩りの時もそこらじゅうにボコボコ穴開けまくってゴブリンを落としまくってたから、ジャンキーさんがこういうギフトを持ってるって事は知ってたんだけど、よもやそのギフトを使って簡易な拠点を作っちゃうとは予想もできなかった。


なに言ってるか分かんないって?

うん。最初は僕も分からなかった。


『今から拠点を作成しますのでちょっと下がっててくださいね!』

って言われてジッとしてたら、いきなりドッゴーン!だもん。


え?穴?山?何?どういう事?拠点作るんじゃなかったの?

予想外にも程がある結果にプチパニックを起こしたけど、ドッゴーン!ドッゴーン!と連続して穴掘り音が響くに連れ全貌が明らかになった。


まず地面に穴が開く。

かなり深い。目算だけど2メートルくらいありそうだ。


で、地面に穴が開くって事は、それまで穴を埋めていた土が外に掻き出されるってことだ。

2メートルもある穴だからね。そりゃ掻き出される土の量も相当な量になる。


現に穴の傍に積まれて山みたいになっちゃってるからね。リアル土山。チョーデカい。


で、こっからが大事なところなんだけど、四ヶ所全てで土山ができてるんだ。

もしたった一つだけだったらそれは単なる巨大な穴と高い土山で終わってたんだろうけど、今回はそれが計四つ。


よくよく見てみると

規則正しく横一列に掘り開けられた穴と土山は、簡易ではあるものの確かに拠点と呼べる施設になっていた。


こちらから見ればホブゴブリンの進行を妨げる横一列に並んだ高い土壁。

翻ってホブゴブリン側から見れば進行の妨げとなる深い穴と、その先にそびえる邪魔な土山。


もちろんホブゴブリンに迂回されちゃうだろうけどね。けど正面からの突撃を防げるってだけでも十分にありがたい。

しかも【穴掘り】のクールタイムが過ぎる度にドッゴーン!ドッゴーン!と連発するもんだから、時間経過と共に拠点は防衛力を増していった。


それに彼女の作る拠点はとても綺麗なんだ。


綺麗って言っても『わぁ!可愛いお花が咲いてるぅ』って意味じゃないよ?

何て言うか……機能美とでも言うのかな?傍から見てるとポンポン無計画に【穴掘り】を連発しているようにしか見えないっていうのに、実際にそうやって出来上がる拠点はメチャクチャまとまりのいい感じに仕上がっている。


最初のうちは小規模ながら隙の少ない堅実な造りに。

そうして最低限の安全が確保できたら内側から外側に向かって徐々に拡張していき

十分に拡張し終わると、分岐路となるような配置を作ったり、幅の狭い通路を作ったりと敵の進軍自体を邪魔するイヤラシイ構成を盛り込んでいく。


結果。ホブゴブリンたちは途中で仲間と分断され、運良く仲間と一緒に進軍できたとしても細い通路で縦一列になる事を強いられる。

彼女はそんなホブゴブリンにしたらたまったもんじゃない状況を見事に作り上げた。


ホブゴブリンの中には、穴や土山が進軍の邪魔になっていると気づく個体もいて、スゴい形相で土山を崩して穴を埋めようとするヤツもいるんだけど……。


いかんせん行動に移すのが遅すぎた。

ただでさえ巨大な穴なんだ。埋め戻しに手間取ってる間に【穴掘り】のクールタイムが満ちちゃうもんだから、その苦労が報われることは未来永劫ないだろう。何故ならジャンキーさんは必死に頑張るホブゴブリンさんたちを嘲笑いながら穴を埋めもどすタイプの人間だからだ。


そんなジャンキーさん曰く。

『戦闘でもっとも大事なことは、こちらに有利なフィールドで戦いを展開することなんです』

うっすらと笑顔を浮かべながら彼女は楽しそうに続けた。


その彼女の話を一言でまとめると――

彼女のギフト構成はエゲツなかった。


『まずこちらの数より敵の数が多い場合ですが、今回みたいに敵の部隊を千切る事が最優先となります』

そのための【穴掘り】。そのための拠点。常に数的優位を発揮できるフィールドを作るのが"戦術"の出発点だと彼女は語った。


『次に大切なのは敵の位置情報を正確に把握する事です。

できれば敵に悟られずに、一方的にこちらのみが敵を察知できる状況がベストと言えます』

とはいえ周りを見渡すとたくさんの土壁に囲まれて、お世辞にも見通しがいいとは言えない。


『でもご安心を!私には【警戒】ギフトという強い味方がいますからねッ!』

何でもそのギフトがあれば、敵の位置が分かるようになるらしい。


『残念ながら今は【警戒】ギフトのレベルが低いので"なんとなーくこの辺?"ってくらいしか分からないんですけどね』

え?でもそれって、レベルアップすれば敵の位置を"ズバリココッ!"って特定できるって事だよね?

フト思った疑問を尋ねようとジャンキーさんの方へ振り向くと、彼女は非常によろしくない感じの笑顔を浮かべていた。怖かった。


『まぁ、ホブゴブリンくらいでしたら今のレベルでも問題ないんですけど……ねっ!と』

『問題ないんですけど~』のところでジャンキーさんが指を鳴らすと、どこか遠くから『グゲェェェェェー……』とか『ホブゴブゥゥゥゥゥゥ……』という何者かの断末魔?が聞こえた気がした。


何が起こったかはわからない。

でもこれだけは言える。


この人なんかやったんだ。

"なんとな~く"で察知したホブゴブリンに対して何か仕掛けたんだと。


『フフッ。クリティカルヒットってとこですかねッ!』

楽しげにそう語るジャンキーさんの顔は

笑顔だったけど、やっぱりとても怖かった。



で、最後になっちゃったけど、我がチートなる従兄弟殿についてなんだけど……。

正直に言って、こっからじゃ姿も形も見えやしねぇので、何も言えねぇです。ハイ。


ただ俊平君とジャンキーさんの反応を見る限り、ヤツが一番非常識で一番強いって事は確信できる。むしろ彼らの反応とか関係なく確信できる。何故ならヤツだからだ。


触らぬ従兄弟に祟りなし。

但し極稀にヤツの方から近寄ってくる事があるから、そん時は死ぬ気で逃げろッ!


ヤツには是非とも最前線で暴れまくって、こっちに流れてくるホブゴブリンの数を一匹でも多く減らしてくれよと祈るばかりです。



とこんな風に、開戦前の心配とは裏腹にホブゴブリン狩りの時間は非常に穏やかに過ぎ去って行った。

口が裂けても『参加してよかった!』なんて言わないけど、それでも実りある時間が過ごせたと思う。


「んー……そろそろ終了ですかねー」

【警戒】持ちのジャンキーさんがポツリと呟く。

恐らく周囲のホブゴブリンの数が少なくなったんだろう。


「あ、そうなんスか?じゃ先輩が戻ってきたら終了って事でよさそうッスね」

「はい。それでいいと思います」

俊平君も特に反論はないらしくアッサリと同意する。

そこでフイに声をかけられた。


「どうだったッスか?ホブゴブリン狩り」

「あんまりお役に立てなかったので、次からは辞退させていただきたいと思いました」

「えー。そんな事ないッスよ!涼太君だったらスグに強くなると思うッス。むしろ今はジャンジャン死線を越えまくる時期ッスよッ!!」

ウルセー。何サラッと物騒な事言ってんだ。誰が超えるかそんなもん。


「とにかく疲れました……」

溜め息混じりにそう呟くと、熱をもってジンジン痛む肩にドカンと強い衝撃が走った。

正直に言おう。この時僕は『ふえぇぇぇ。肩が爆発しちゃったよぉぉぉ』とマジでビビった。あと少しで漏らすところだった。


恐る恐る爆心地を見やると、予想に反して肩は無事だった。

けどその代わりに、ゴツくてデッカい手が僕の肩を鷲掴みにしている光景が見える。それは嫌という程見覚えのある骨ばった手だった。


「涼太ッ!大活躍だったか?」

「そんなわけないじゃん……」

僕の武器ただの空きビンだぞ。あんなマッチョゴブリン相手にどう活躍すりゃいいってんだよ……。

肩に置かれた手――我がチートなる従兄弟殿の手を何とか引き剥がすと、僕はヤツの方へ振り向いた。


「お疲れ様。……怪我とかしてないよね?」

放っておいてくれ。関わらないでくれ。消えてくれ。そんな事を何億回思ったか分からない相手であっても、従兄弟は従兄弟。


相変わらずどっからどうみても勇者様にしか見えないその全身を見回し、どこにも怪我がないことを確認して、僕は心の中でホッと安堵の息を吐いた。


「そんじゃ今日のバトルはこれにて終了とするッッッ!!」

興奮冷めやらぬハイテンションな声で従兄弟が吠える。


その声を聞いて、何か心のなかにストンと落ちてくるものがあった。

それが何か上手く説明できないんだけど、従兄弟が宣言した瞬間――何というか場の空気が変わったような気がしたんだ。


これまでのピンと張り詰めていた気配が緩み、騒がしいだけの日常が戻ってきた感じっていうのかな?


あぁ……これでホントに終われるんだー。

そう自覚した瞬間、フツリと糸が切れたように身体の安定がなくなって、ベチャリと地面へ座り込んでしまった。


そんな僕を見て


「ナイスガッツだったぞ涼太ッ!!」

従兄弟が嬉しそうに笑う。全ての元凶のクセに晴れ晴れと笑う。

ああ――殴りたいなぁその笑顔。ベコベコになるまでブン殴れたらさぞかし気持ちがいいんだろうなぁ。


「全力で頑張ったッスもんねー」

俊平君が労うように優しく微笑む。


「あーッ!男だったらオッパイ目掛けて倒れて来てくださいよッ!!

ラッキースケベですよ!?受け入れ準備は万端だったんですからねッッ!?」

この娘はダメだ。改めて思った。この娘だけはダメダメだ。


ギラギラした瞳でにじり寄ってくるジャンキーさんから逃れようと足掻くけど、足に力が入らないから全然逃げられないでゴザル。

そんな僕の腕をムンズッと掴んで、従兄弟が引き上げてくれた。


それを見て、ジャンキーさんの眉間にシワが寄る。

彼女は鋭い目付きで従兄弟を睨むと


「チィッッ!!」

この娘はダメだ。改めて改めて思った。この娘はダメダメだ。

あんな忌々しそうな舌打ち初めて聞いたよ僕……。


ガルルルルゥ!と言わんばかりに睨み合う二人。

そんな二人の様子に、僕は心中で深い深ぁぁぁぁぁぁい溜め息を吐いた。


往きの道中も騒がしかったけど、こりゃ帰りの道中も騒がしくなりそうだなぁ……。

何か大事な事を忘れている気はしてたけど、まだこの時の僕は気がついていなかった。


思い出すのは三分後。

思い出した瞬間僕は泣いた。


ホンキで泣いた。

そらもーガチで泣きまくった。




PS.


「そんじゃ帰るかッ!!」

ジャンキーさんとキャットファイトを繰り広げていた従兄弟がそう宣言する。


そんな二人の様子を眺めつつ『あーやっと終わったのかぁ。人がクタクタに疲れてる時にノンキにジャレ合いやがって何考えてんだよクソヤロー共が。あーもう。一人は前屈し過ぎて腰骨折れて泣け。もう一人は後屈して背骨折れて泣け』とか思ってた僕の目の前で従兄弟が消えた。


……えっ?







帰還(リターン)

とか唱えながら消えた。


…………えっ?







アレ。そう言えば昨日そんな話を聞いたような?気が?する?ような?

確かー……何だっけ?セーブポイントだっけ?あの前衛的な白銀のオブジェにワープする魔法?とか?そういうの?だっけ?


あー……。ってことはアレか。

僕ってばいつでも街に戻れる状況だったって事か。





アレ。ということはどういうことだ?

ひょっとしてホブゴブリン狩りを強要された時もさ、実は


『ウッセーッバーカッ!!そんなん付き合ってらんねぇよッ!!』

とか捨てセリフ吐いて帰還するって選択肢もあったって訳かな?


もっと言えば、ゴブリン狩りが終わった瞬間。

『これで終わりだッ!!先に帰るッ!!』

って離脱するって選択肢もあったって訳かな?





アレ。じゃあ何で僕律儀にホブゴブリン狩りにまで参加しちゃったんだろう……。

ウウウ……。理由を考えると頭が痛む。でもとてもとても悲しく切ない理由だった気がするんだ。


あー……何も考えられない。

でも最後に言わせていただきたい。これだけは、これだけは伝えねばならないんだ。





わ、わ、わ、忘れてたわけじゃないんだからねッッッッ!!!!!!!!!!

ただちょっと思い出せなかっただけで、忘れてたわけじゃないんだからァーッ!!!!


あとボケナス共も三人もいるんだから、一人くらい気を利かせて耳元で囁けよッッ!!!!

『そんなに嫌なら、You【帰還(リターン)】しちゃいなYo】って囁けよッッ!!!!


ウワァァァァァァンッ!!!!!!

こんなのってヒドいよぉぉぉぉぉ!!こんなのあんまりだよぉぉぉぉぉ!!


いつだってこの世界は僕にだけ厳しい…………………………。


責任転嫁?

今回はお前のせいじゃないかって?



そんなの分かってるよバーーーーーーーーーーーーーカッ!!!!!!!!





次話から物語が本格的に進行すると思います。

たしか前話の後書きにも同じこと書いた気がしますが今回こそ本当です。


人というのはこう言う言動を繰り返しながら信用という掛け替えのないものを失っていくんでしょうね。

それでもお願い。今回だけでいいから信じてプリーズ……orz

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