投げ倒せ!ゴブリンズ!
お盆前なのに大分過ごしやすい暑さになった気がする。
――とか言ってる同僚の頭をグーで殴ってやりたい。
まだまだ十二分に暑いわッ!
だから空調の温度上げるのだけは勘弁してぇぇぇぇぇぇ(;´Д`)ヒィィ!
Q.ゴブリン狩りってどんなもんだと思いますか?
A.正直こんな感じだろうなと思ってました。
『ムッ!人間の気配がするゴブッ!!』
『また馬鹿な人間がやって来たゴブ?』
『そうゴブッ!皆武器を持つゴブッ!』
『オーッ!やってやるゴブッ!』
『ゴブゴブーッ!』
『ゴブゴブーッ!!』
で正解はというと。
「グォブリュアァァァァァァァァッッ!!」
「死ねよりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!」
もう何匹目かも分からない。目を血走らせて、口の端から泡をこぼしながら突撃してくるゴブリンに向けて空きビンを投げつける。
僕が投げつけたビンがアゴにクリーンヒットしたゴブリンは一瞬だけ上体を仰け反らせると、次の瞬間俊平君の放った投げナイフに貫かれて絶命した。
ゴブリンこわい。ゴブリンこわい。ゴブリンこわい。ゴブリンこわい。ゴブリンこわい。ゴブリンこわい。ゴブリンこわい。ゴブリンこわい。ゴブリンこわい。ゴブリンこわい。ゴブリンこわい。ゴブリンこわい。ゴブリンこわい。ゴブリンこわい。ゴブリンこわい。ゴブリンこわい。ゴブリンこわい。ゴブリンこわい。ゴブリンこわい。ゴブリンこわい。ゴブリンこわい。ゴブリンこわい。ゴブリンこわい。ゴブリンこわい。ゴブリンこわい。ゴブリンこわい。ゴブリンこわい。ゴブリンこわい。ゴブリンこわい。ゴブリンこわい。ゴブリンこわい。ゴブリンこわい。ゴブリンこわい。ゴブリンこわい。ゴブリンこわい。ゴブリンこわい。ゴブリンこわい。ゴブリンこわい。こんなの聞いてない。こんなの聞いてない。こんなの聞いてない。こんなの聞いてない。こんなの聞いてない。こんなの聞いてない。こんなの聞いてない。こんなの聞いてない。こんなの聞いてない。こんなの聞いてない。こんなの聞いてない。こんなの聞いてない。こんなの聞いてない。こんなの聞いてない。こんなの聞いてない。こんなの聞いてない。こんなの聞いてない。こんなの聞いてない。こんなの聞いてない。こんなの聞いてない。こんなの聞いてない。こんなの聞いてない。こんなの聞いてない。こんなの聞いてない。こんなの聞いてない。こんなの聞いてない。こんなの聞いてない。こんなの聞いてない。こんなの聞いてない。こんなの聞いてない。こんなの聞いてない。
何だこの状況。息をつく暇もないじゃないか。
何が『んー身体能力的には小三くらいじゃねぇか?』だ。どこの世界に棍棒片手にマッハで襲いかかってくる小三がいるってんだ。こんなの絶対おかしいよ!
どういうことだこの理不尽。潰しても潰しても無限に沸くとでもいうつもりか。
何が『そこそこ数も多いから気ぃ抜くなよ?』だ。抜けるかボケッ!!言われるまでもねぇよッ!!例え縁側で茶すすってろって指示受けてたとしても全力尽くすわボケッ!!このボケーーーーーーーッッ!!
今の状況を一枚の絵画に収めたならば恐らく題名は『地獄』以外にはないと思う。
そんな詮無き事を考えながら、辺りを警戒していたらジャンキーさんの声が聞こえた。
「涼太さん。二時の方向から残党来ます」
「死ねよりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!」
大きく振りかぶって新たに生成した空き瓶を投げつける。
気合い。タイミング。狙い。全てがパーフェクトだったらしく、僕が放った空きビンはややナックル気味にゴブリンのアゴを捉えると、その衝撃でゴブリンが後ろに転倒した。
「よし!涼太今の感じよかったぞ!」
サッシュサッシュとゴブリンを斬り捨てながら従兄弟が言う。
「涼太君って中距離戦闘のセンスに光るものを持ってると思うッス!」
ビョンビョン投げナイフでゴブリンを滅多刺しにしながら俊平君が言う。
「確かに涼太さんの成長速度には目を見張るものがありますね」
ゴブリンの大群を落とし穴に落としたり、土壁を一瞬で作ったりしながらジャンキーさんが言う。
「当たり前だろ。オレの従兄弟だぞッ!涼太は超スゲェんだからなッ!」
「言われてみればそうですね。あの戦闘センスの良さは、流石あなたの血縁と思わせるものがあります」
「ボヤボヤしてるとオレなんてスグ追い抜かれちゃいそうッスねー」
つーかお前ら真面目にやれってばよッ!?
何だよお前ら。どういうことだよ。ここは地獄だぞ。何ノンキに駄弁ってんだよッ!?
それともアレか、一流の戦士にとっちゃこのくらいの戦場なんて鼻歌交じりって事ですか。僕はこんなにも必死なのに?『必ず死ぬ』と書いて必死だっていうのにかよッ!
そもそもお前たちときたら揃いも揃って――
「涼太さん四時の方向から2匹です」
「死ねよりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!」
僕投げる。ビン当たる。ゴブリンが後ろにブッ倒れる。
さらに僕投げる。ビン当たる。ゴブリンが後ろにブッ倒れ――ない!?
むしろビンをぶつけた僕に対して激おこしたのか、スピードを上げて襲いかかってきた。ヒィィ!
ギャー!涼太隊員突破されたでありますッ!
お前ら誰でもいいからスグに助けに来いでありますーッ!!
「流石に連投はキツイッスよね」
心の中で泣いて、泣いて、泣きまくってると、ボソッと一言つぶやきながら俊平君が颯爽と現れ、瞬く間に激おこゴブリンをサクッと仕留める。
今まで使えねぇヘタレパシリとか思っててゴメンよ俊平君。
君ってばこんなにも頼りになる男の子だったんだね!
何のもてなしもできないけど、まぁゆっくりしてってくれよな!
ってか僕を一人にしないでおくれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
しかしそんな僕の心の叫びは当然俊平君に届くわけもなく。
「そんじゃ引き続き牽制よろしくお願いするッス」
アッサリ持ち場へと駆け出す俊平君。去りゆく背中が恨めしい。
あぁ……また討ち漏らしに怯えながらビンを投げるだけの簡単な作業がはじまるお……。
大体お前らスパルタ過ぎるぞ!『じゃあ涼太はこの辺で適当に牽制しててくれ』って何だよ!僕はビギナーだぞ。もっと手取り足取り教えろよッ!
そもそも、初陣にラリった生物の大群を選択した時点で間違ってる。もっと数が少なくて、大人しめのモンスターから始めるべきだと思うんだ。
騙された。RPGじゃザコの代名詞だから甘く見てた。
ゴブリン怖い。超怖い。ゴブリン危険。超危険。
おうちかえりたい……そんで速攻ベッドへダイブして夢オチとして全て片付けた――
「涼太さん。十時の方向。1匹です」
「死ねよりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!」
現実っていうのはいつでも厳しい。特に僕の場合は。
アゴを撃ち抜かれ、バタンと後ろ向きに倒れるゴブリンを見つめながら僕は泣いた。割とガチで泣いた。
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ご飯の販売――というか依頼内容からしてお弁当の販売についてはつつがなく終了した。
取り敢えず材料確保の問題もあるし、最初は三万食分用意する事で話がまとまったみたいだ。
そう。三万食だよ。三万食。
『そんな材料確保できんの!?』『そんなに売れるの!?』『そんなに作れるの!?』そう思ったあなたは正しい。
けど何とかなるみたいなんだよ。恐ろしい事にさ。
まず材料についてなんだけど、これはギルドで確保してもらえることになった。
『死ぬ気で、いえ死んでも集めてみせます』と言った担当さんの顔はマジだった。彼女は確実に死ぬ気だった。
販売方法については、ギルドの隣にある倉庫に臨時窓口を200口設ける事で対応するらしい。
そうです。僕が作ったお弁当はその倉庫に搬入されるわけです。そして東西南北にある搬入搬出口のうち3つを窓口に改装しギルド職員総出で売りさばくらしい。
で、そもそも3万食なんて非常識な数のお弁当を僕一人で作れるのかって問題についてなんだけど、これについては『頑張れば普通にいけんじゃね?』ってのが計算により判明してしまったんだ。
というのも一般的にスキル――【料理】ギフトでいえば【Make!ウマいもの】みたいなヤツ――は通常クールタイムってものが設定されてるらしい。クールタイムっていうのはスキル再使用までの待ち時間の事ね。
例えば【剣】ギフトに【遠当て】っていうソニックブーム!なスキルがあるんだけど、この【遠当て】のクールタイムは15秒らしい。つまり1回【遠当て】を発動するとその後15秒は使えなくなるってわけだ。
だけど【料理】ギフトのスキルってば、このクールタイムが設定されていない。つまり連発できちゃうわけなんだ。
それにギフトへの差し入れを作った際に分かったんだけど、1回で作れるご飯の量もそこそこあるんだよね。
そんな諸々の事情を鑑みてジャンキーさんが弾き出した答えっていうのが
1回でそこそこの量が作れる + 連発できる = 三万食くらい1~2時間あれば作れる。だったんだ。
それを聞いた時のギルド職員の狂喜乱舞っぷりと言ったらなかったね。
彼らが口にする賞賛の嵐は全て僕宛だったはずだけど、何故かここでジャンキーさんが調子に乗った。
フッフッフって自慢気に笑って
『ゆくゆくは三十万……いえ、三百万食のお弁当を用意する準備があります!』とかジョーク飛ばしてんの。そのジョーク笑えないよジャンキーさん。
まぁそんなこんなでつつがなく終了したって訳なんだ。
『何で僕だけ受けれる依頼の種類が多いの?』とか、『何で勝手に食品加工の依頼が受注されてるの?』とか疑問は多々あれど問題はない。
だって対面販売して死ぬ危険性が回避できただけで、僕的には大満足だからね。
それにある程度予想はつくしね。例えば今のところまともなご飯作れるの僕だけじゃない?
つまり『僕にしかできない仕事』なわけだから、『より適性の少ない職業を優先する』ってこの世界の就業規則に則って考えると、特に不思議じゃないよね。
もう1個の『神職』って依頼は恐らく【祈る】ギフト辺りが関係してるんだと思う。つまり【祈る】ギフトもそこそこレアなギフトなんだと思う。
だって、ありふれてて適正持ちがいっぱいいるんだったら、僕に『神職』って依頼が提示されるわけないだろうしさ。
という訳でギルド関係についてはキレイに型がついたんだ。
まさかギルドから出るときに50名近い職員さんから『これからよろしくお願いします』ってお見送りされたのはビビったけどね。
そこまで美味しいものに飢えてたんだろうか。うん……。飢えてたんだろうな。
ピシッと直角にお辞儀する50人の職員に見送られながら、僕はギルドを後にしてこの日は無事に終了したんだ。
そして来る決戦の日。ドナドナの日と言ってもいい。命日ではない。
1泊2,000円の宿屋で惰眠を貪ってた僕の部屋のドアが爆発した。
いや、正確には『爆発したようなスゲェ音がした』だけだけど。
そうです。従兄弟の襲来です。この爆音はヤツのノックする音なんです。そりゃ惰眠も吹っ飛ぶわ。
「おはよう涼太ッ!そろそろバトルの準備するからオレの部屋に集合なッ!」
そう言われちゃうと逆らえない。そもそも従兄弟に逆らって成功した試しなんてほとんどないんだけどね。
渋々従兄弟の部屋に出向くと、既に集合していたらしい俊平君とジャンキーさんがお出迎えしてくれた。
「おはようございます涼太さん。まさに絶好のゴブリン狩り日和ですね。今日はガッチリサポートさせていただきますので大船に乗ったつもりでいてくださいね!」
僕は後に知る。彼女はスパルタ教官だという事実を。
「おはようッス涼太君ッ!今日はクリスタルシューターとして参加ッスよね?だったらオレと同じ中距離ポジなんで分かんない事とかあったら気軽に聞いてくださいッス」
僕は後に知る。彼もまたスパルタ教官だという事実を。
「よし、とりあえず飯食いながら打ち合わせするかッ!涼太飯頼むな」
僕は後に知る。いやゴメン。従兄弟については既に知ってた。こいつと外出して危ない目に遭わなかった事なんてこれまで一度もないからなッ!
恐らく俊平君をパシらせたんだろう。やはり肉ばかりが目立つ食材が、備え付けの小さなテーブルに置かれていたのでササッとご飯の用意を済ませる。
また肉ばっかりかよ。学習しろよテメェら。とか思ったけど、食材の量が昨日よりも圧倒的に少ないところを見ると、少しは学習してるのかもしれない。
朝だからなるべく胃に優しそうなメニューがいいかなー。とも思ったけど、材料はほぼ肉しかないので諦めた。とりあえず肉から片付けよう。
テーブルの上にデデーンと鎮座する、一番巨大な肉の塊と塩の小瓶を手に取り僕は唱えた。
【ハムエッグ卵抜き】
キラッ。
テーブルの上に並べられた紙皿の上に、丸くカットされジュージューと美味しそうな音を立てる焼きたてのハムが現れる。
実に美味しそうなんだけど流石に二食連続で肉三昧は勘弁だったので、テーブルに備え付けられていた水差しと残りの食材を手に取り、もう一度唱える。
【朝食スープ的な何か】
キラッ。
極めて適当な詠唱だったにも関わらず、水差し中にほかほかと湯気を立てる野菜スープが出来上がっていた。
ホント【料理】ギフト様々やでぇー。こんな気合の入ってない寝ぼけた詠唱でもご飯を作ってくれる【料理】ギフトさんの優しさは天井知らずやでぇー。
「相変わらず鮮やかなもんですねー。あ、スープ皿はないんで、コップで我慢してくださいね」
言いながら全員にコップを手渡すジャンキーさん。
「まずはオレと涼太からだぞッ!それまでお前たちは食っちゃだめだからなッ!」
従兄弟はブレない。ガルルルルッと2人を威嚇しながら、僕と自分のコップにだけスープを注いでいる。ホンットーにブレない……。
そんな中。昨日の『ステーキバカ食い事件』のせいで僕の中ですっかり食いしん坊キャラが定着した俊平くんはというと、キラキラした表情でそわそわしていた。だけど従兄弟に逆らう気はないらしく大人しくしている。
「いただきますッ!」
「いただきます」
ハイテンションな従兄弟に続いて、いただきますすると、まずはハムに齧り付いた。
「んーーーーーーー……!」
相変わらず美味しい!唸らずにはいられない美味とはこのことか……!
昨晩のステーキとは違いこのハムは、ほどよく抜けた脂の代わりに肉本来の旨みがギュッと濃縮されているような感じだ。そしてその旨みを薄く味付けされた塩味が包み込み、正直『えーい!ご飯を持ってまいれ!山盛りでな!ガッハッハッハッ!』って叫び出したい気分だ。
一口目を飲み込みハフゥと溜め息を吐くと、僕はコップに注がれたスープをすすった。
「おーーーーーーーー……!」
これまた絶品。お肉から出た旨みと、野菜の甘さが混ざり合い心も胃も温まるホッコリスープに仕上がっている。幸せってこういうことを言うんだろうなぁ……と目を細めたくなるくらい美味しい。
我慢できなくて再びコップに口を付けたところで、こちらをガン見してる二人の視線に気がついた。
あー……そうだった。二人のオアズケを解除してあげないとな。
一応従兄弟の様子を伺うと、一口どころか何口目かも分からないハムをガツガツ食んでいる最中だった。うん。問題なさそうだ。
「あ、二人ともどうぞー」
今にもヨダレを垂らしそうな表情の二人に声をかけると、二人とも慌てて手を合わせ食べ始める。
ジャンキーさんはスープから口にした。一口すすってホゥと溜め息を吐くその気持ち。痛いほどわかる。身も心もホッコリさせる素晴らしいスープだよねこれ。
逆に俊平君はハムから攻めるようだ。一枚。二枚。三枚。と次々に口に放り込みまくって……二、二十六枚。一気に二十六枚ものハムを口に放り込んでパンパンになった頬袋でモッキュモッキュ咀嚼する君の気持ちは、ちょっと僕には分からないです……。
ま、まぁ嬉しそうに食べてくれてるみたいだし、これはこれでいいのかな?
食事の楽しみ方は人それぞれだろうし……ね?
そんなことより今大事なのは、これから強制連行されるゴブリン狩りの打ち合わせの方だ。
既に腹はくくったけれど、怖いもんは怖い。作戦なんてものがあるんだったら是非とも拝聴しておきたい。
「今日のゴブリン狩りの事なんだけどさ。僕はクリスタルシューター?ってヤツをやるんだよね。それって具体的にどういう立ち回りをすればいいの?」
ガツガツと高速でハムを食べ続ける従兄弟が、ゴクリと嚥下した瞬間を見計らって尋ねてみた。
「とりあえず最初はデモンストレーションとして、落とし穴に二、三匹ゴブリン確保してやるからちゃんと空きビンぶつけられるようになるまで訓練だな」
「空きビンをぶつける訓練?」
オウム返しに聞き返すと、従兄弟は満足気に頷いた。
「おう!いくらモンスターだっていっても人型の生き物だからな。そんなヤツらにモノを思いっきりぶつけた経験なんてねぇだろ?涼太?
敵を傷つける。もっといえば敵をブッ殺すっていうのは、平和な日本で過ごしてたヤツにとっては、思ってる以上にハードルが高いもんなんだよ」
えっと……つい先日とある少年に石のようなパンをぶつけたことがあるんだけど、あれは殺意が乗ってなかったからノーカンってことでしょうか?
「オレも最初は苦労したッス。そもそも剣で敵を叩き斬った時の"グニュ"っとした感触が嫌で中距離戦闘員を目指したヘタレッスからねオレ。
まぁそんなヘタレなオレでも、今じゃ相手がどんなヤツだろうとナイフの的にしてやる事ができるようになったッスよ!」
「躊躇って死ぬのはこっちだしな」
「そうッスね。感情に振り回されてるうちはダメッスよね。機械的に必要な行動を取れるようになれてはじめて一人前ッスから」
訓練されすぎだろコイツら。
嫌な予感しかしないんだけど、ホントに僕大丈夫なんだよね!?
そんな当たり前のように話されても、1ミリたりとも同意できないんだけどッ!?
「つー訳でまずは訓練だ。で躊躇せずに空きビンぶつけられるようになったてからが本番だな。
ゴブリンは常に群れで行動してる。だからまずオレが前衛でその大半をブッタ斬るから、涼太はオレが通したゴブリンに向かって攻撃してくれ。そこそこ数も多いから気ぃ抜くなよ?」
「ビンぶつけたくらいでどうこうなるとは思えないんだけど、ゴブリンってそんなにひ弱なの?」
「んー身体能力的には小三くらいじゃねぇか?流石にビンだけじゃ殺せねぇだろうから、トドメは俊平の担当だな。ゴブリンを牽制して一瞬でも怯ませるのが涼太の役目だ」
簡単そうに話してるけどそれで大丈夫なんだろうか……。
挟み撃ちされる心配とかはないの?もしくは遊撃隊が横手から攻めてくるとか、奇襲をかけられるとか。
「私の事もお忘れなくーッ!ガッチリしっかりサポートしますよッ!!」
あまりにアッサリと語る従兄弟に、一人モンモンと悩んでいたら、景気のいいジャンキーさんの声が聞こえた。
「あー……涼太。非常に甚だ不本意だろうが、あの女を涼太のサポートに付ける予定だ。
非常に忌々しいがサポートの腕は確かだ。涼太が慣れればスグにでも追い出してやるから、今は我慢してくれ」
「精一杯頑張りますッ!今後ともよろしくお願いしますね!涼太さん!」
従兄弟のイヤミにピクリとも反応しない。流石はジャンキーさんだ。その鉄のメンタル少しでいいから分けて欲しい。
「フッフッフ。敵の足止め。拠点の作成。不意打ち回避に戦況のコントロールまで!
火力を捨ててサポートに特化した私のギフトが伊達ではないということを今日のゴブリン狩りで証明してみせます!」
副音声で『絶対一生離さない』って聞こえてくるけど多分幻聴だ。きっと幻聴だ。うん。幻聴に決まってる。
一生付きまとわれるとかないわー。だってそんな人生嫌すぎるじゃないか!
目を瞑って頭を左右に振る。この怨念とも邪念とも言える悪い想像を頭から弾き出さねば。
そんな必死な様子の僕を見て、俊平君が話しかけてきた。
「そんな緊張しなくても大丈夫ッスよ。前衛・中衛・後衛がフルで揃ってるんスから新兵抱えててもゴブリンくらい余裕ッスから!
直ぐにクリスタルシューターなんて卒業して、戦力の一人として活躍できるッスよ!」
うん。励ましてくれてるところ悪いんだけど、僕ね、実は戦闘用のギフト1つも持ってないんだ。
だからクリスタルシューターを卒業するのは無理なんだ。一生クリスタルシューターのままなんだ。
しかし、僕の残念なギフト事情なんて想像もしてないだろう。
俊平君はたった今思い出したかのテンションで聞いてきた。
「ところで涼太君って将来はどこのポジションを担当する予定なんスか?」
「もちろん将来は前衛に決まってるだろ!オレと涼太のツートップだぞッ!」
ん……?うちの従兄弟は何を言ってるんだろうか?
アレ?アイツって僕のギフト知ってるよね?アイツの記憶力を以てすれば全てのギフトを憶えておくくらい造作もないことだよね?
なのに前衛推し?どのギフトで戦わせるつもりだ?頭バグってんのか?アァン?
「おーそうなんすね。じゃあ中衛としての立ち回りはそこまで熱心に教えなくても大丈夫そうッスね」
「そうだな。むしろポジションはオレの後ろに付けて、オレの立ち回りがよく見えるよう配慮してやってくれ」
「おー!男は背中で語るってヤツッスね。カッコイイッス!」
なるほどそういう事かッ!?
騙されるなパツキン!そいつは今嘘を吐いてるぞッ!
前衛の立ち回りを教えるためなんかじゃねぇ!自分の活躍する姿を僕に見せたいだけだぞきっとッ!!
もしやさっきの意味不発言はこれの伏線だったんだろうか。
んーどうだろう……。実に判断に苦しむ内容だな。
テーブルの上を見渡すとハムもスープも全て皆のお腹に消えてしまったようだ。
窓から差し込む日差しは強い。階下からはガヤガヤとした人の声も聞こえてくる。
「おし!腹ごしらえも済んだし早速出発するか!」
いよいよだ。僕は緊張でドキドキと高まる鼓動を落ち着けるように深く深呼吸した。
でも今思えば、今ときの僕は何一つわかっちゃいなかったんだ。
だってこの世界のゴブリンが『怒ったゴブよーッ!』『ゴブゴブーッ!』みたいなノンキな存在じゃないかと思ってたんだからさ。大甘もいいところだ。
広く壮大な草原にて僕の絶叫が響き渡るのは、もうちょっと後の話。
半ば放心した状態で街に帰ってきて不思議な掲示を見つけるのは、そのさらに後の話。
そして
今まで感じた衝撃や恐怖をヘソで笑っちゃうようなスーパーウルトラハイパーどうしようもない事態に陥って号泣しちゃうのは――さらにずっとずっと後の話なんだ。
あぁもう。
おうどんたべたい。
PS.
従兄弟が連れてきたゴブリン3匹をー
ジャンキーさんが作った落とし穴におとしたらー
あとはビンを投げつけるだけの簡単な作業です。
ゴブリンは遠距離武器を持っていません。なので穴に落とすことで簡単に無力化できます。
さぁあなたもレッツチャレンジ。日頃のうっぷんを込めて思いっきりビンをゴブリンにぶつけてあげましょう。
――って話だったのに、どういうことだこれ。
「おぉ!最初から全力投擲が出来るとは、将来有望ですね!」
ジャンキー他に言うことはないのか!それどころじゃねーだろ!
「流石は涼太だ!まさに戦う為に産まれてきた一族。中川家の血を受けし男だな!」
初耳だーッ!そんな殺伐とした歴史聞いたことねぇよ!ってかそれどころじゃねぇぇぇぇ!!
「良い肩してるッス。コントロールが良いし球威も悪くない。磨けば一流の中衛戦闘員になれる素質を持ってると思うッス!」
嬉しくねーッ!そんな評価などいらねーッ!ってかそれどころじゃないんだってばぁぁぁぁぁ!!!
故意かッ!?みんな気がついてないフリしてるだけなのッ!?
出てきちゃうよッ!?そんなにノンキに眺めてたら、ゴブリンさんが穴から出てきちゃうよッ!?
「うおりゃぁぁぁぁぁぁ!!!でりゃぁぁぁぁぁぁ!!」
ズビシッ!ズバシッ!
僕は今にも落とし穴から這い出してきそうなゴブリンに向かって、一心不乱にビンを投げつけまくる。
そう。
落とし穴が浅かったのか、ゴブリンの必死の頑張りが実を結んだ結果か、理由は定かじゃないんだけど――なんか今にもゴブリンさんたちが穴から出てきちゃいそうな状況だった。
広告に偽りありなのである。
全然安全じゃないのである。
ゆえに『えー生き物に向かってビンを投げるなんて無理ぃ』なんてカマトトぶってる暇は1ミリたりともないのである!
という訳で、一生懸命ビンを投げつけて這い出しを防いでいるわけなんだ。
僕一人でな!そう僕一人でなッ!!チクショォォメェェェェェェ!!!
「くぉりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!ぬぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ドゲシッ!!ダバシッ!!
いい加減手伝やテメェらぁぁぁぁぁぁ!!
もう限界。出ちゃう。ゴブリンさん穴から這い出しちゃうでおまっ!
しかしどんなに心の中で叫んでも、誰一人として手伝ってはくれない。それが現実。
彼らはただひたすら、掴まり立ちする赤子でも見るような微笑ましい視線で僕を見つめるばかりだ。
結局、フォーク気味に飛ばした会心の一撃を繰り返すこと三回。
全てのゴブリンを脳震盪に追い込み穴の底に沈めるまで、誰一人として手伝ってくれる人はいなかった。
ひと段落してゼェハァと肩で息をする。
そんな僕の元に従兄弟が駆け寄って来てトドメの一撃を繰り出してきた。
「そんだけ投げれれば十分だな。よし!早速実践行くぞッ!」
う、嘘だと言ってよぉ……バーニィ……。
当然連行された。
ちょっとだけ今さらな補足。
涼太がクリスタルシューターでバトルデビューすることについて従兄弟以外は
・いきなり前線に出るのは危険なので中衛スタート
・中、長距離武器や魔法で戦うとフレンドリーファイアが怖いので、まずは味方に当たっても問題ない空きビン投げから開始
くらいの感覚で捉えてます。当然戦い方に慣れてきたら涼太も武器や魔法でガンガン戦うことになるだろうと勘違いしてます。
間違っても『あー、武器ギフトも魔法ギフトもないからクリスタルシューターやるんだ』とは思ってません。
もしバレてたらジャンキーさんが涼太のギフトを放っておくわけないですしね。
それにしても従兄弟とジャンキーさんの名前出すタイミング完全に逃してますね……。
ここまで引っ張ったんだから何か劇的な方法で発表したいなぁ。むしろ最後まで出さないって選択肢もありですかね。




