権謀術数とギルドの罠
あれは去年の暮れのことでした。
私はこの話を書いたのですが、どうにも気に入らなくて消してしまいました。
その後も書いては消し、書いては消しを10回くらい繰り返し
『もういい。書けない。無理』と思って……今まで放置してましたorz
病気だったわけでもなく、仕事が忙しかったわけでもなく、子供が産まれたわけでもなく、ただただ怠惰にサボってしまってすいませんでした。
そんなダメな私ではこの程度の話しか書けませんでした。稚拙で変な展開ですが盛り込みたかった事は全て盛り込めたので個人的には満足しております。
ステーキ食った途端従兄弟が吠えた。
な……何を言っているのかわからねーと思うが、おれも何をされたのか――
とか脳内でナレーションしながら僕もステーキに齧り付く。その瞬間。
「ぉぉ……おおおおおおーッ」
僕も叫んでた。
頭がどうにかなりそうだった……催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえもっと恐ろしいものの片鱗――じゃなくて、これまで食べたこともないような極上の旨みを味わったぜ……。
そう。
僕の作ったステーキ様は超絶に美味しかった。
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-
そら叫ぶわ。叫ばずにいられますかって話だわ。
歯がなくても食べれるんじゃね?ってくらい柔らかな肉質。
ひとかみ毎に溢れ出る肉汁は深いコクと上品な甘さを含んでいて正に絶品。いやはや絶品。そうZEPPIN。そうです。大事なことなので3度も繰り返した訳です。
グラム数千円もする最高級霜降り和牛を食べた時もあまりの美味しさに感動したもんだけど、あんなもんこのステーキに比べたら――いや比べる事すらおこがましいよ!
不肖。中川涼太16歳。こんな美味しいものを食べたのは始めてでごわすッ!
感動せずにはいられないッ!
まさに奇跡!これは食のアポカリプスやーッ!
とかアホな事考えてたら再び従兄弟が吠えた。
「よし俊平ッ!お前も食えッ!もちろん涼太に感謝しながら食うんだぞッ!!俺の従兄弟だぞッッ!!」
「は、はいッス!!そんじゃいただくッス!!」
「あ、もういいんですか?じゃあ私もいただきますね」
大興奮の従兄弟がオアズケを食らわせていた俊平君にステーキを勧めている。ちゃっかり便乗するジャンキーさん。僕にもその図太さを半分でいいから分けて欲しいものだと思う。
とはいえ今はただ純粋に二人を歓迎しようと思うんだ。
どこへって?そりゃこの魅惑のデリシャスワールドへだよッ!
さぁ食え!今食え!すぐに食えッ!!
こんな極上ステーキを前にさぞかし辛かったろう。思う存分貪るがいいよ!何たって一口齧ればそこはパラダイスだからなッ!
「"俺と涼太から食う!"とか言ってたから、さぞかし待たされだろなと覚悟してたんですけど、案外アッサリOKするんですね」
いそいそと自分の紙皿にステーキを取り分けながらジャンキーさんがつぶやく。従兄弟は欠片も聞いちゃいねぇので代わりに答える。
「多分ですけど、僕が始めて作ったご飯だったから一番に食べたかったんだと思います。他人に先を越されるのが我慢できなかったんだと」
「あぁ、なるほど。そういうことだったら、せいぜい今のうちに堪能させときましょうかね。……いずれ涼太さんの一番は全て私のものになっちゃいますからね」
不穏極まりない事を宣言して、上機嫌でステーキを頬張るジャンキーさん。
「いや、未来永劫そんな――
"予定はない"と続けようとした僕の言葉をかき消すように、ジャンキーさんの絶叫が木霊した。
「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
思わず叫んだその気持ちは分かる。だけどそのセリフは女の子としてどうかと思う。
彼女は大慌てでステーキを飲み込むと、鬼気迫る表情で僕に方へ振り向いた。超怖い。
「何ですかコレ!?クソ美味いじゃないですか!!」
だから君女の子。もっと言葉を選ぶべきだと思うんだ。
そんな僕の思いとは裏腹に彼女はウットリとした表情で微笑むと、元気よく言った。
「素晴らしい性能ですね【料理】ギフト!!
Lv0でこのクオリティを叩き出すなんて、あぁもう素敵すぎます!!
これレベル上がったらもっと美味しいものが作れるようになっちゃうんですかね?
それとも何かとんでもないものを作り出せるようになっちゃうんですかね!?」
「それはレベルを上げてみないことには何とも言えない……かな?」
「確かにその通りですね!という事は、まずやらなければならない事は、一刻も早く涼太さんが安心して【料理】ギフトを奮える環境を整備することか……」
だんだん尻すぼみにブツブツと呟くジャンキーさん。それからしばらく聞き取れない程の小声でブツブツ呟いた後、力強く一度頷くと
「涼太さん。一つ提案があります」
目をキラキラさせて詰め寄ってくる。
断言しよう。コイツロクなこと考えてない。
「な、何かな?」
詰め寄られた分だけ、こちらもジリジリと後退して一定の距離を保ったまま続きを促すと、彼女は割かし真剣な表情で言った。
「先ほど明日からご飯の販売を始めたいとおっしゃってましたけど、一日だけずらすことは出来ませんか?」
「えっと、つまり明日じゃなくて明後日から開始して欲しいってこと?」
まさか今日から始めろって意味じゃないよね?
確認のために尋ねると、彼女はアッサリと頷いた。
「えぇ、その通りです。明日から売り始めたいと意気込んでらっしゃった涼太さんの出鼻を挫くようで心苦しいんですが……どうでしょうか?」
あー……意気込んでたのは否定しないけど、それは戦場に駆り出されたくない一心で主張してたことであって本心じゃないんだよね。
だから戦場にドナドナされることが決定してしまった今となってはブッチャケどっちでもいいというか……。
あもちろん、美味しいものに飢えてる人を助けたいとは思ってるよ。
流石に従兄弟が言うみたいに『俺が救ってやるんだぜ!!』レベルの使命感は持ち合わせてないだけでヤル気はあります。
「それにこれは涼太さんの身の安全のためでもあるんです」
なん……だと?
「つ、つまりどういうことなの?」
「考えても見てください。この世界でまともなご飯作れるのは今の所涼太さんだけなんですよ?
そんな中、突然ご飯の販売なんてしたらどうなると思いますか?」
ごめん。何が問題かサッパリ分からない。飛ぶように売れるだけじゃないの?
どうしても悪い展開が予想できず眉根を寄せて首をかしげると
そんな僕の様子を見て、彼女はフーッと息を吐いて首を振った。
「間違いなく、涼太さんの作ったご飯をめぐって血で血を洗う大乱闘が始まりますね」
何それチョー怖い。どこの世紀末だよ!
「"衣食住足りて礼節を知る"
古来から人というのは、着るもの・食べるもの・住む場所の3つが満たされて始めて他人に優しくできる生き物なのです。
つまり食べるものが満たされない現状に置いて、理知的な行動などとれるわけがないのですッ!!」
「だからって流血騒ぎが起きるっていうのはブッ飛びすぎじゃないですか?」
「甘いッ!その考えは身を滅ぼしますよッ!もし涼太さんが作ったご飯がコンビニ弁当レベルのクオリティであったなら、そう楽観することもできたでしょう。
しかぁし!今回みたいな極上のご飯を売ろうものなら間違いなく暴動が起きるに決まってます!」
い、言い切りおったでこの娘……。
「食べた瞬間、美少女が"なんじゃこりゃぁぁぁぁ"と叫んじゃう程の美味さなんですよ?
涼太さんの作るご飯は人を虜にする魔性を孕んでいるんですッ!ころしてでもうばいとりたくなる強烈な魅力を持っているんです!!」
あまりに力強く言い切られてしまい、思わず想像してしまう。
ギコちない笑顔で売り子をする僕。
その横で腕を組み満足そうに突っ立てる従兄弟。
そして恐らく付いてくるであろう、ジャンキーさんと俊平君。
そんな僕らの元に大量のお客さんが詰め掛けてくる。
言わずもがな彼らの大半はプレイヤー達――つまり訓練されたクソヤロー共だ。
そんな幾多の戦場を渡り歩いてきた本物のクソヤロー共が、僕の前で血で血を洗う抗争を始めたとしたら――
従兄弟は勢いよく飛び出すだろう。もちろん武力を持って制圧するつもりなのは言うまでもない。
恐らく従兄弟に続いて俊平君も飛び出すんだろう。ジャンキーさんは様子見に回りそうな気がする。
その結果。
恐らくテレビの中ですら見たことないような圧倒的な火力がぶつかり合うわけだ。もちろん僕の目の前で。
あ、これは死ぬな僕。
直接狙われはしないだろうけど、流れ矢の1本でも、受け流された剣でも、狙いを外した火炎魔法でも、容赦なく死ぬってことだけは分かる。
自分の惨たらしい最期を想像して、生唾を飲み込んだ僕を見てジャンキーさんが満足そうに言った。
「死にたくないのならば、それ相応の対策が必要になると思うのです」
「ぐ、具体的には……?」
どうせロクでもない方法だろうけど、聞かずにはいられないッ!
作戦『いのちをだいじに』!もっと詳しく言っちゃうと『ぼくのいのちをだいじに』!
だって怖いんだもん。
ホントに暴動が起きたら真っ先に死ねる自信があるもん。
ドキドキしながら返事を待ってると、彼女は満足そうな表情でピッと人差し指を立てて言った。
「ご安心くださいッ!別に難しいことは何一つありませんからッ!!
要は涼太さんが矢面に立つのが問題なわけですから、そのスケープゴー……じゃなかった中間に入ってくれる人を見つければいいって話なんですよ」
今絶対スケープゴートって言いかけたッ!やっぱりロクでも無い事考えてるっぽいぞこの娘ッ!?
でもここでツッコんで話の腰を折るのはマズい。まずは聞こう。死にたくはないからなッ!
「なので今回はギルドを巻き込んでみるのが上策かと思います」
個人で対処できないんだから大きな組織におもねるって事か。意外と普通な提案だった。
「そこでギルドの皆様の心象を良くするために、涼太さんには是非【料理】の腕を奮ってもらいたいわけなんです。
出来れば今日中にギルドへの挨拶を終わらせて、明日一日をかけてギルドでのサポート体制を確立してもらうよう要請を出すんです」
なるほど、だからご飯の販売を明後日に延期して欲しいって言ってたのか。
ジャンキーさんらしくない穏便な手だ。要するに手土産もってご機嫌伺いに行くってことだもんね?
「僕の作ったご飯を持ってギルドの心象をよくするってことだよね?」
「はい。幸い材料は山盛りありますしね!」
そう言って、いまだにテーブルの上を占拠してる食材をペシペシ叩くジャンキーさん。
でも彼女の提案がこんな平和的に終わるわけないと思い知ったのは、この次の瞬間だった。
「さて本人の了承を取り付けたので、後はあの厄介な身内を退治しますかね」
え?それは初耳なんですけど……。えっ?どういうこと?
め、目が笑ってないですよ……?ジャンキーさん……?
「はい注目!食べながらでもいいので注目してください!今から涼太さんから大事なお話があります!だから注目ーッ!」
ギャース!何言い出すんだよジャンキーさん!ぼ、僕の名前なんて出したら……!そ、そんな事言ったらヤツが、ヤツが釣れてしま――
「どうした涼太?」
つ、釣れたーッ!!すぐ釣れたーーッ!!
嬉しそうにモッキュモッキュステーキを食べてた従兄弟が高速の速さでこちらへ振り向く。
「いや、その、話っていうかッ!」
おいぃぃぃぃぃ!ジャンキー!どうするんだよこの状況ぉぉぉぉぉ!
恨みのこもった目でジャンキーさんを睨むと、彼女はフフッと不敵に笑った。
「先程、涼太さんがこの世界の人々を救うための素晴らしいプランを考えついたそうなんです!」
は、は、は、話が違うッ!おのれ謀ったな情報ジャンキーめッ!!
ホントはもっと徹底的に罵倒したいところだけど、物事には優先順位というものがある。
悔しいことに今現在。優先すべきはジャンキーさんではなくどう考えても従兄弟の方なのだ。
「涼太が……パーフェクトプランを、打ち立てた……だと?」
見ろッ!このバカジャンキーめッ!お前の不容易な発言が招いた結果がアレだぞッ!
ゆらりと従兄弟の目が昏く光りだす。ど、ど、ど、ど、どうすんだよ。アレは間違いなく戦闘色だぞッ!暴れ出す前兆なんだからなぁぁぁぁ!!
言い知れない恐怖でカタカタと小刻みに震え出すが、そんな事はどうでもいい。
今はまずあの従兄弟をなだめるのが最優先事項だ。
「さぁ!スバッと語っちゃってください涼太さんッ!」
もーお前は黙れ!いいから黙ってろ!黙っててくださいお願いしますからぁぁぁぁ!
明らかに背中から撃つきマンマンのジャンキーさんを心の中で罵倒しながら、大分様子のおかしい従兄弟と対峙する。
「どんなプランなんだ涼太?」
「えっとね……何ていうか……そのぉ、ほらさっきはさ明日からご飯の販売をやるって話をしてたじゃない?」
そこまで言って言葉につまる。
だって、どう説明すればいいってんだよ。
『命が危ないから一日ずらすことにしたんだ!きゃは☆』なんてバカ正直に言おうものなら『大丈夫だ!俺がいるから問題ない!』とか言われて、僕は明日死んじゃうぞ?
よ、よし。ここは取り敢えず『理由』の部分は伏せて、プランだけ先に伝えてみよう。
もしかしたら従兄弟が勝手に勘違いして、いい方向に向かうかもしれないしさ。
「それでね、こういうのを個人でやるのはやっぱり大変だと思ったんだ。
だからキチンとギルドに話を通して、手伝ってもらえるように交渉しようかなーと思ってるんだけど、どう思う?」
僕の話を聞いて、案の定従兄弟は勘違いしたらしかった。
「つまり、人手が足りないって言いたい訳だな?
個人で販売するよりも、もっと大規模に売り出した方がより多くのヤツらを救えると……そう考えた訳だな?」
なるほど。従兄弟のフィルターを通すと、僕の話はそんな物語に生まれ変わるのか。
「涼太……!お前ってヤツは……」
感極まったような声で、そんな事を言い出す従兄弟に一抹の不安を感じる。良くない兆候だ。
ぼ、暴走か?やっぱり暴走しちゃうんのか?
しかし幸いな事に、従兄弟が暴走する前に、今回ムチャブリしたくせに何のクソ役にも立たなかった女が再びしゃしゃり出てきた。
『後は私にお任せ下さい』とでも言いたげなアイコンタクトを飛ばされてもただただ殺意しか沸かない。僕は、貴様を、許さんからな?
「そこで問題がいくつか出てきた訳なんですよ」
得意顔でそんな事を宣う君を絞め殺してやりたい。
そんな僕の殺意を華麗に無視して、従兄弟とジャンキーさんの会話が始まった。
「問題?」
「はい。ほらギルドって仕事の斡旋を取り扱ってはいますけど、こちらから持ち込んだ仕事の手伝いはしてくれなさそうでしょ?」
確か取得してるギフトに応じた仕事しか紹介してくれないんだったよね。
もしそれが本当ならかなり望みの薄い話になるのは間違いない。
「確かにな……」
「そこで、涼太さんと相談して考えたんですけど、ギルドの皆さんに涼太さんが作ったご飯を差し入れしてみてはいかがでしょうか?」
「ギルド職員を涼太の飯で懐柔するってことか?」
惜しい!惜しいよお兄ちゃん!
懐柔なんて腹黒そうなこと考えてないって、僕らがやるのはあくまでも心のこもったご挨拶なんだから。
「いえ、脅迫です」
おいぃぃぃ!ジャンキー話が違うぞぉぉぉぉ!
貴様……一度ならず二度までも僕を謀るつもりかッ!
「脅迫だと……?バカも休み休み言えッ!涼太がそんな卑劣な事するわけねぇだろ!」
「いえいえ、誰も真っ正面から脅迫するなんて言ってません。ただ結果的に脅迫に近しいことになるってだけの話ですッ!
だって、私たちがやるのは正真正銘、ギルド職員へご飯を差し入れするだけなんですから!」
ど、どいうことだってばよ……。何言ってんだよこの女……。
『ご飯差し入れすれば職員を脅迫できる』なんて『風が吹けば桶屋が儲かる』よりも脈略なくないかな?
「流れとしてはこうです」
フゥと溜め息を吐いて調子を整えると、ジャンキーさんはピッと人差し指を立てて説明を始めた。
「いいですか?この世界の人たちにとって美味しいご飯なんてものは想像上の産物なんですよ?
そんな人達に涼太さんが【料理】ギフトで作った極上のご飯を差し入れたらどうなると思いますか?」
「喜んで受け取るだろうな」
「その通り!何たって絶対にありえないと言われた美味なるご飯が目の前にあるんです!
しかも、どうぞお召し上がりくださいと差し出されてるわけですから、断ることなどできるわけがないのです!」
「それがどうした」
話の終着点が想像できずに、憮然とした態度で従兄弟が先を促すと、ジャンキーさんはさらに興奮して続けた。
「差し出されれば断ることなどできない。そして貰ってしまったが最後、食べずにはいられないはずなんです。
そうなるとどうなります?そうですね。彼らも我々同様涼太さんのご飯に魅入られてしまうというわけなんです!
彼らは思うでしょうね。ああ何て幸福なんだろう。美味というのはこんなにも心を満たしてくれるものなのかと。
そして同時に絶望するでしょう。ああしかし食べきってしまえば再び味気ない食生活に戻らねばならないのかと。
涼太さんのご飯を食べてしまったあの人達が、今更あのクッソマズイ食事に耐えれると思いますか?
いいえ、耐えれません!耐えれるわけありません!なぜなら彼らは美味というものを知ってしまったからです!もうクッッソマズイご飯を食べていたあの頃の自分に戻れるわけがないのです!」
「……それで結局何が言いたいんだよオメェは」
やや疲れた様子で呻く従兄弟とは対照的に、ジャンキーさんはますますパワフルに声を荒げた。
「だからそんな彼らに言ってやるんですよ!!」
どうせロクなことじゃないはずだ。直感的にそう思った僕の予想は、次の瞬間に鮮やかに証明された。
「今後も我らのご飯を食べたいと思うのならば、今すぐこれを販売する権利を寄越せ。特別にギルド前で販売してやるから人員・人件費については全てそちらで負担しろってね!!!」
「そういうのを脅迫するって言うんだろうがッ!このボケナスがッ!!」
ダンッとテーブルを叩いて従兄弟が立ち上がる。
お前の判断は99%が間違ってるけど、今の判断は正かったぞ!もっと言ってやれ!
「ハァ!?ただご飯を差し入れしただけでしょ!?これのどこが脅迫だって言うんですか!?」
「その後きっちり脅しただろうがッ!」
「ハァァァ!?ひょっとして最後の要求の事を言ってるんですか!?あれのどこが脅しなんですかッ!どっからどうみてもご飯の差し入れに対する正当な対価じゃないですか!
それにいいですか?ギルドに対して優位な立場を確保しておかないとアナタも困るんじゃないですか?」
「お前と一緒にすんじゃねぇよ!別に俺はそんなもん必要としちゃいねぇ!!」
従兄弟の場合『必要としない』って言うよりも『気にしない』って言った方が正確だと思う。
なぜならヤツは立場も気にしなければ、場の空気も無視する。いつでもどこでもゴーイングマイウェイな男だからだ。
「いーや!そんなハズありませんよ?ギフトの説明に来た職員も言っていたように【料理】ギフトは明らかに命題背反してるギフトです。
こちらに隠し通す意志がないこと。適切な時期が来たら公開することを約束したからこそ、即時の公開を見送ってもらえましたが、本来ならすぐに公開されるべきギフトなのです。
つまり!現状我々がプレイヤーということも手伝ってギルドも『温情』をかけて公開を差し止めてくれてますが、こちらの立場が弱くなるといつ勝手に公開されるか分かったもんじゃありませんよ?」
別にそんなのどーでもいいじゃん。何が問題だっていうのさ。
ご飯を販売する時点で少なからず『僕が作ってる』って事はバレるだろうし、大きな問題じゃないよね?
そんな思いで従兄弟の様子を伺うと、何とヤツは目に見えて動揺していた。
そこへジャンキーさんの追撃が入る。
「私も最初はどうしてアナタが【料理】ギフトの事を隠そうとするのか理由がわかりませんでした。
しかし、先ほど涼太さんにお話を聞いて分かったのです」
そんな話をした記憶は一切ないんだ。だから従兄弟よ。その『裏切ったのか……?』って視線は止めてください。お願いします。
「イメージさえできればどんな料理だって作りだせるという情報が広まっちゃうと大変な事になりそうですねー。
きっと、コッソリ涼太さんにコンタクトを取る人とかも出てくるでしょう。それは皆にカレーを振舞っている時かもしれないし、ハンバーグを振舞っている時かもしれない。彼らは人ごみに紛れて虎視眈々と涼太さんを狙っているのです」
クックックと喉の奥で笑いながら従兄弟を追い詰めていくジャンキーさん。実に楽しそうだ。
「そして涼太さんを連れ出した彼らは両手をあわせて涼太さんに頼むのです。
『どうしても俺はグリーンカレーが食べたいんだ。頼む!作ってくれないだろうか?』と
『ハンバーグじゃなくて焼きつくねが食いたいんだが、なんとか作ってくれないか?』と
随分と厚かましいお願いだとは思いますが、恐らく人格者の涼太さんの事です。二つ返事でそのお願いを叶えてしまうんでしょうね。
そしてその結果……二人は念願のグリーンカレーと焼きつくねに舌鼓を打つのでしょう!
そう!アナタがまだ食べたこともないグリーンカレーと焼きつくねにね!!」
あー……。ここまでくれば僕にもジャンキーさんの言わんとしている事が読めたぞ。
「そんのダメだッ!!涼太が始めて作ったご飯を一番に食うのは俺だッ!!」
僕にとっては実にくだらない理由に激高して従兄弟が叫ぶ。
「フフッ。どうせ『まだギフトのレベルが低いから、あんまり種類は作れないんだー』みたいな防波堤を作って、そういう不埒な輩を牽制するつもりだったんでしょうが、そうはイカの金隠しですよッ!
さぁどうします!【料理】ギフトの情報が広まれば、ハイエナの如く涼太さんを付け狙うバカ共が無限に湧き出てきますよ?」
実に実ーに楽しそうなジャンキーさんに向かって、従兄弟は堂々と言い放った。
「ギルドを脅迫することにするッ!!」
それはとても堂々としたゲス発言だった。
うん……そうなるだろうなとは思ってたよ?
良くも悪くも欲望に忠実なヤツだしさ。予想はついてた。
それに僕にとっても悪い話じゃない。命が助かるんだったら脅迫でも何でもやってやろうじゃないか。ヘヘッ……。
しかしだな。
"上手くいきましたね涼太さん"
ヒソヒソ声で嬉しそうに話しかけてくる貴様だけは絶対に許さんぞ。
"何が上手くいきましただよ!何の相談もなく人を巻き込むの止めてくんない!?"
"涼太さんなら乗り切ってくれると信じてました。これも愛の力です"
"どやかましいわいッ!"
ああ言えばこう言う。恐らく最初からこんな展開に持っていくつもりで僕に提案をしてきたんだろう。
美少女の皮を被った悪魔め……。美少女に擬態するんだったらもう少し本性を隠しやがれってんだコノヤローめ!
"次同じことやったら、許しませんからね……"
何を言っても無駄そうだったので、とりあえず今回は釘を刺すだけにとどめておく。
"へへっ大丈夫ですよ!次も愛の力で乗り切りましょうねッ!"
どうやら僕の未来は全然明るくないらしい。
考えれば考えるほどドン底に沈みそうな悲しみに打ちひしがれていると、予想もしないところから声をかけられた。
「あのー……」
声のする方向へ視線を向けると、存在自体をすっかり忘れていたパツキン少年が申し訳なさそうな顔をしている。
よくよく見ると口の周りがテッカテカである。
もしかして俊平君……あの騒ぎの中、一人もくもくと肉を食んでた訳じゃないんだよね……?
僕がそんな事を考えてるとは毛ほども感じていないのか、彼はそれはそれはデレッとした笑顔で恥ずかしそうに言った。
「おかわりが欲しいいんで、もう一丁ドーン!とお願いしていいッスか?」
見るとあれだけ山盛りだったステーキがすっかりなくなっていた。四人で食べても余るだろうなーって思ってたあの大量のステーキがだ。
「……」
お願いされては断れまい。
僕は食材の山から手頃なドンバルゴのお肉を取り出すと、再びステーキを作るために集中した。
【ステーキ】
先ほどと同じく唱えれば、やはり先ほどと同じようにキラッと光ってステーキが現れる。
――ただし俊平君の頭上にな。
「!?……アッチィィィィィィッス!!!!」
涙目になりながら必死に頭の上からステーキを取り除こうともがく俊平君の姿を見てると、何故か心が満たされた。
フハハハハ!スマンなパツキン少年。位置の指定が悪かったみたいだわ!!
そう。これは単なる事故なのだ。
ジャンキーさんと従兄弟の対応で僕がアタフタしてた最中に、呑気に肉食ってたヤローへの制裁という訳ではないのだ。
繰り返す。これは八つ当たりではない。八つ当たりなどではないのだ。
PS.
「この材料全部使って作るんですか?」
「ええ。全部使って作ってください」
というジャンキーさんの助言に従って、全部の材料をキラキラさせながら全て調理し終えた。
ひとしな料理を仕上げる毎に従兄弟が味見をするのが激しくウザかったけど我慢した。
ササッと作り終えたいのに、事あるごとにジャンキーさんが『今のはどうやったんですか!?』とか尋ねてくるのがウザかったけど何とか乗り切った。
そうやって神経をすり減らしながらも何とか完成させギルドに差し入れすると
ジャンキーさんの予想通り――いやある意味予想以上の食付きをみせた職員によって、ジャンキーさんの筋書き通りに事が進んだ。
「美味しいッ!!これが美味しいって感情なのねッッ!!」
「あばばばばばばばばばばばばばばばぁ!」
「アタシ泣いてるの……?これが涙……?」
まさに阿鼻叫喚。
奥の会議室みたいな所で食べてたみたいだけど、声ダダ漏れですからね?
そんな状況だからジャンキーさんが伝授した脅迫もどきの要求がすんなり通ったのは言うまでもなかった。
流石に職員側から『光栄です!ありがとうございます!』とお礼を言われた時は、どうしようかと思っちゃったよ。
だけど、この話には裏がある。
今の所誰にも知られたくない圧倒的な裏の話があるんだよ……。
ご飯の詰め合わせを受け付けで渡す際、規則だということでメニューの提示を求められた。
ギルドでは求人以外の用事で尋ねた際も、必ず入った時と出て行く時の2回チェックをする決まりがあるらしい。
やり方は簡単。
まずメニューを手のひらに出して、それをギルドの受け付けカウンターにある読み取り機にかざすだけ。
それだけの動作で僕の情報がギルドでチェックされ、晴れて要件を聞いてもらえるって訳なんだ。
具体的に言うと、読み取り機に併設されてるモニターに僕の情報が書き出されるからそれを職員さんがチェックする感じね。
その時僕は見てしまったんだよ。
モニターに映しだされた僕の情報――【選択可能職種】の項目を。
差し入れを渡す前。つまり入った時の表示はこんなだった。
------------------------------------------------------------
【選択可能職種】
・討伐(受注可能依頼数:122,349/3,009,823)
・採取(受注可能依頼数:92,349/1,965,655)
・食品販売業
・食品加工業
・神職
【現在受注件数】
------------------------------------------------------------
鼻水出るかと思った。
確かプレイヤーって『討伐』と『採取』以外は受注できないって話だったから。
んで、差し入れした帰り。つまりギルドから出る時の表示はこんなだった。
------------------------------------------------------------
【選択可能職種】
・討伐(受注可能依頼数:122,349/3,009,823)
・採取(受注可能依頼数:92,349/1,965,655)
・食品販売業
・食品加工業
・神職
【現在受注件数】
・食品加工業 …… 1件
------------------------------------------------------------
鼻水出た。
何か勝手に『食品販売業』なる仕事を受注してる事を知って、両鼻から吹き出した。
僕はギルドから出ると誰にも動揺を悟られることなく、コッソリとメニューを開いて【受注一覧】のタブを確認した。
そしてようやく理解したんだ。何故ギルド職員は何の文句も言わず、僕のご飯販売を手伝ってくれる事になったのかを。
------------------------------------------------------------
【食品販売業】
○依頼内容
ギルドにて販売するお弁当の加工および製造
製造したお弁当の納品
○業務内容
販売はギルドが請負います。涼太さんには何一つご迷惑はお掛けいたしません。
ですから、ですから、何卒幾久しくこの依頼をお受けください!!
何でもしますから!この依頼を継続してもらえるんだったら私なんでもしますから!!
○報酬
お弁当販売に置いて得た利益の全て。
足りないのならばギルド内の有志から募りますので辞めないでください。
○依頼主
クレア・ロートマン
○ギルド担当者
クレア・ロートマン
------------------------------------------------------------
ギ、ギルド職員が職権乱用しとる……。
恐らく奥の部屋で差し入れを貪り食った時に勝手に求人したものと思われる。
こんな求人を用意するってことはだよ、ギルドは僕たちが『脅迫』してくる事を知ってたってことだよね?
そんな僕達の脅しに屈した振りして、ちゃっかりと自分たちが出した依頼を受理させたってことだよね?
何やら底知れぬ寒気を感じ全身に鳥肌がたった。
ねぇジャンキーさんや……。
どうやらギルドってのは、そう易々と操れるような存在でもなさそうですよ?
今は誰にも相談できない悩み毎が増えて、僕は一人陰鬱に溜め息を吐いた。
次回はいよいよ戦闘回です。
きっと頑張れるはず。




