06 初デート
翌日の朝。私は昨日言っていた通り、水色のワンピースを身にまとった。
「今日はデートですからね。気合いを入れなくては」
「そんなに意気込まなくても……」
これが婚約者とのデートだったら分かる。でも……もうすでに夫婦のデートだ。あまり気合いを入れ過ぎないでも良いのでは、と思ってしまう。
それにこれは仕事の範疇だ。デートはついでで、実際は騎士隊への突撃視察が本当の目的。
「シェリル様。この前のはデートではなくお詫び行脚です。あれはデートではありません。という事は……本日が初デート! 気合いも入れたくなりますよ」
「護衛付きのね」
「それでも良いではありませんか。周りの様子を見る良い機会です」
「周りが過剰に反応しなければ、護衛なしのデートも出来るかもしれませんよ」
「ん〜……難しいんじゃない?」
フィランダーの容姿の良さはどんな服を身につけていても際立つ。彼の身分を知らない冒険者に絡まれる可能性は限りなく高い。
「絡まれそうになったら、私達や影達がそれとなく退場させますから」
「安心してデートなさってください」
「いや、今日は視察だからね? デートはついでって言ってるでしょ」
「私達にとっては視察よりもデートの方が重要です」
「何事も最初が肝心というではありませんか」
「だからデートじゃなくて視察ぅ!」
確かに昨日、デートみたいな事が出来るかもって言ったけどさ。
視察はデートじゃないんだってば!
……と思っていたのに。
「……グズ。ついに……ついに待ちに待ったシェリルとのデート……!!」
フィランダーは私の肩を抱きながら感極まっていた。
「今日は視察でしょ」
「そうだけどさぁ。公式じゃないでしょ? もちろん公式の場でシェリルと一緒に歩けるのも嬉しいよ。嬉しいけど……公務じゃん」
「でも……視察は立派な公務じゃ……」
「違うよ。公務って言うのは公にしている仕事でしょ? 今日のはお忍びに近いんだよ。あ。俺とした事が! シェリル。はぐれない様しっかり手を絡めて歩こうね」
そう言って私の手を絡める様に繋いだ。
「……ここまでがっちりじゃなくて良いんじゃない?」
「知らないの? これ、恋人繋ぎって言うんだけど」
「私達は夫婦でしょ?」
「夫婦でも恋人の様に歩きたいものだよ」
何を言っても無駄だと分かり、私は色々言いたい事を飲み込んでフィランダーと一緒に歩き始めた。
護衛付きのデートとはいえ、護衛が一緒に隣を歩く訳ではなかった。
フィランダーの斜め後ろにはトミー。私の斜め後ろにはルース。そして少し距離を取りながら後ろを歩くのはネルとセリーナだ。
影達は周りに溶け込み見えないところから守ってくれている……らしい。
「領都より人は少なめみたいね」
「うーん……時間帯によるかな。今、朝だし。昼になれば領都と同じくらい人はいると思うよ」
だからなのか冒険者らしい人は一人も見かけていない。
「……冒険者が歩いていないんだけど……」
「冒険者はもうギルドに行っている時間だからね。早く行かないと依頼がなくなるし」
「あ、そうよね。早いもの勝ちだったっけ?」
「そうなんだよ。特に級が低い依頼はあっという間になくなるからさ。残っているとすれば、雑用の依頼くらいかな」
「あー……やりたくないよね」
「それでも低い級だったらやらなきゃね。絶対一回はこなさなきゃいけないんだし」
「避ける事出来ないんだ」
「上の級に上がるには必須なんだよ」
そこまでは知らなかった。私は感心しているとフィランダーは「気づいてる?」と問うてきた。
「え。何が?」
「俺達が普通にデートできてる事」
「……あ」
「新聞が功を奏したのかな? 俺に気づいている人がちらほらいるけど無視してくれてるし」
「……絡まれてない」
「女性達も知らないふりしてくれてるね。人が多くなったら分からないけど、とりあえず第一関門突破ってところかな?」
「……そうかも」
「カツラも絡まれない原因かな? 黒髪だと目立っちゃうし」
「そうかも。この領で私だけなんでしょ? シランキオ人」
「今の所はね。いずれ増やしたいよ」
「そんな強者、なかなか居ないと思う」
「まずはここに滞在してくれるシランキオ人を増やすところから……かな」
「それ、当然でしょう?」
ここが良いところって分かってもらえなければ住むなんて話にならない。こういうのはいきなりではなく徐々にやって行けばいい。
「そういえば……騎士隊舎はまだ?」
「もうそろそろだよ。宿からはちょっと遠かったかな?」
「私は良い運動になるからいいけど」
「シェリル。無理はいけないよ。入る前にまた回復しとこうね。……それより、俺達デートしてるんだよね? ラブラブに見えるかな?」
「……微妙だと思う」
「でも夫婦には見えてるよね?」
「……良くて兄と妹じゃない?」
「そっか……もっと努力が必要だな。魔法で顔が変えれればよかったんだけど」
「そしたら私が浮気してるって噂が広まるでしょうね」
「……じゃあこのままでいっか」
「……その緩みっぱなしの顔なんとかしたら? 騎士達が何ていうか……」
「大丈夫だよ。それだけ俺がシェリルに惚れてるって事だからさ。それに……スタートレットの間者が紛れ込んでるかもしれないって思ったら、さすがに俺も警戒するって」
そうだった。スタートレット公爵家が家族を奪った黒幕かもしれないとフィランダーは思っている。
正直私もそう思う。私さえ居なければヘインズ侯爵家に嫁ぐつもりだったのだから、私を消したくて仕方がないだろう。
今はまだ嫌がらせで済んでいる。でも……もし、実力行使を使ってきたとしたら……。
ふと、前世で暗殺された光景が頭に蘇る。
「シェリル? 大丈夫?」
いけない。私の震えが伝わってしまった様だ。
「……ちょっと疲れちゃったみたい。あとで回復かけてくれる?」
「お安い御用」
前を見ると、大きな建物が見えてきた。
「あれ?」
「そう。あれが騎士隊舎だよ」
私は繋いでいる手を少し強く握った。




