04 冒険者市場
スープを飲み終えたあと、私はまたベッドに横になる。
するといつの間にか寝ていた様で、起きた時にはもう夕焼けの光がカーテンの隙間から漏れていた。
思っていたよりも疲れていたのかも。
ちょっとスッキリした。
部屋を見回すと誰もいない。するとひっそりと扉から入る人影が見えた。
「誰?」
「……セリーナです。良い時にお目覚めになりましたね、シェリル様」
「良い時?」
「もうそろそろ夕食の時間なのですよ」
「え! じゃあ着替えなきゃ……」
「お手伝いします」
私は顔を洗って整え、ワンピースに袖を通す。
最後にカツラを被せてもらい、宿の食堂へ行く準備が整うと、部屋をノックする音がした。
「誰です?」
セリーナはなぜか天井に向かって聞いた。
『若です』
なんと天井裏に影達がいる様だ。
……ってことは、寝ているところも見られてたの !? ……なんか恥ずかしい。
セリーナが扉に近づき警戒しながら扉を開くと、言っていた通り、フィランダーがいた。
「シェリル。調子は?」
「平気。……ずっと寝ててごめんなさい。迷惑かけちゃって……」
「いいんだよ。あれ、普通の人でも気分悪くなったからね。俺もちょっと危なかったし、トミーも顔色悪かったよ。シェリルは寝てて正解だったのかもしれない」
あの強行軍で平気だったのはルースだけだったそう。ネルもセリーナも馬車を降りてすぐは調子が悪かったという。
するとフィランダーが私の額に手を当てる。
「熱はないみたいだね」
「うん。食欲はあるから食堂に降りようと思うんだけど……」
「なら一緒に行こう。ここの食堂は美味しいよ」
「本当?」
思わず心が浮き足立った。
食堂へ降りると木の香りが漂ってくる。
どこか懐かしい雰囲気の食堂は私の気持ちをホッとさせた。
「良い雰囲気の宿屋だね」
「この街で一番人気の宿屋だよ。成金感溢れる宿屋もあるけど、俺はここの方が落ち着く」
「ふふふ。ありがとうございます」
声の主を探すとそこには宿屋の女将さんが立っていた。
「あら。お姫様抱っこされてた奥さん。目覚めたのね?」
「お姫様抱っこ……」
「そうよ。ここに入ってきて『妻を休ませたいんです』って奥さんの部屋を一番に借りて駆け上がって行ったんだから」
ちらりとフィランダーを見ると頬が赤くなっている。
「お……お世話かけました」
「元気になって良かったわ。たくさん食べていってね。二人用の席が空いてるからそこに座って」
「はい……」
私達が座ったのを確認してから女将さんが離れて行くと、私は机に顔を突っ伏した。
お姫様抱っこ……。
ここで?
私が?
「恥ずかしいよぉ~」
「いや……考えて見ると俺も恥ずかしいよ。もっと落ち着いて行動すれば良かった」
「フィランダーは得しかないでしょ。私はだらしなく眠ったままだったんだから」
「え。とっても可愛かったよ」
「どこが?」
よだれが垂れていたかもしれない事を想像すると、さらに恥ずかしくなった。
ふと侍女達はどこだろうと辺りを見回すと、侍女三人とトミーはすぐ近くの四人用の席に座っていた。その姿を見て思う。
あれ? 影達はいつ食事を摂るんだろう?
そんな事を考えている間に食事が運ばれてきた。
「今日のメインはうちの名物。グリーンフォレストボアのシチューだよ」
女将がお皿の乗ったトレーを私とフィランダーの前に静かに置いた。
トレーの上には野菜とよく煮込んである肉が入った濃い茶色のシチューと、ジャガイモのチーズ乗せ。あと色鮮やかなサラダが添えられていた。
「ごゆっくり」と言って女将は食堂の奥へと行ってしまった。
私達は祈りを捧げてから食べ始めると、思わず顔がほころんだ。
「美味しい……肉が柔らかい……」
「うん。相変わらず良い味」
「サラダも新鮮だし、このジャガイモも良いね。チーズも美味しい」
「でしょ。シェリルとは好みが合うと思ったんだ」
「……いつの間に私の好みを?」
「ニールに聞いたのと、俺の大好物を食べた時のシェリルの表情……かな。食の好みが似てるって俺達相性ぴったりだよね」
「……合わないよりはマシね」
私は話をそらすために何かないかと周りを見回すと、使っている食器に目がいった。
「ん? 食器だけ……何か違和感が……」
食堂の中で食器だけが浮いている。
「……確かに……ちょっと豪華過ぎるかな?」
すると話を聞いていた女将がまたこちらにやってきた。
「あぁ。それね。安くなってたからつい買っちゃったのよ。お皿が足りなくなった時に急遽必要になってね。勿体無いからそのまま使ってるんだけど……やっぱりそぐわないわよね」
「どこ産のものなのです?」
「確か……スタートレット産ね」
その言葉を耳にすると私とフィランダーは固まってしまった。
「近いからかよく来るのよ。行商人がね。お得な値段も多くて……ついつい買っちゃうの」
困り顔で言う女将に私は聞く。
「他にも何か売りに来るのですか?」
「色々あるわよ。ポーション売りもよく来るし、魔道具とか……宝石商も来るわね。雑貨関係もあるから、何か困ったら冒険者市場に行くの」
「冒険者市場?」
「冒険者ってつくけど、商業ギルド同盟主催の市場よ。冒険者ギルドの裏のスペースでたまに開いてるの」
「商業ギルド同盟のスペースじゃないんですね」
「そこはちょっと狭いのよ。広場みたいなスペースがないの。だから冒険者ギルド裏の広場を間借りしてるみたい」
私は思わずフィランダーに尋ねる。
「冒険者市場は領都にもあるの?」
「いや……ないはず。女将、それはいつからあるんです?」
「結構前からあるね。それこそ……二十年前にはもうあったよ。私が十代だった頃からあるから」
女将さんは三十代後半くらい。そんなに前からあるという事は当然次期領主のフィランダーは知っているはず。
なのにフィランダーは知らない。
これは……何か怪しい?
私達は眉間に深いシワが寄せて見つめ合った。




