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11 子飼いの新聞記者





 男は水色の長く緩いウェーブの髪をリボンで束ね、ジャケット姿に動きやすそうな半端丈のスラックスを履いていた。二重の深い青の瞳にニコニコ顔の顔はどこかで見た事がある気がした。


「誰!?」


 私は動揺して身構えると、三人の侍女達は呆れた顔を男に向けた。


「ジェレミー。私は貴方を紹介する気はなかったのですが……」

「いやいやいや! この部屋が何で筒抜け状態なのか説明してたじゃん。それは僕がいるからでしょ?」


 黙って話を聞いていてもどうしてこの男の人が部屋に居るのか分からなかった。


「どういう事?」

「お初にお目にかかります! ジェレミーと申します。いつもトミーがお世話になっております」

「トミー?」

「ジェレミーはトミーの兄です」

「ヘインズ領都新聞の記者をやっております」

「は? 新聞記者!?」

「左様で」


 益々意味が分からない。


「シェリル様。ジェレミーは元々ヘインズ家に仕える家の出身で、次期執事長候補として育てられた男です」

「執事長候補……」

「はい。王都にいる執事長の息子です。でも……僕が新聞記者という魅力ある職業に惚れ込んでしまいまして。執事を辞めたのです」

「……そんな人がどうして……どうやって部屋の中に?」

「それはですねぇ、天井裏から入ったのですよ」

「え……」


 天井を見上げても出入りした跡がない。それに彼の服に汚れ一つも見当たらない。


「ヘインズ家の者や子飼いのみが知っている通り道があるのですよ。それにこの二部屋は新聞記者の我々が立ち聞きして良い部屋なのですよ。今は僕だけですが」

「は?」


 それにネルが答える。


「シランキオ人のシェリル様には馴染みがないかもしれませんが、テナージャ系の貴族と出版商会は繋がっているのですよ。一応ジェレミーはヘインズ家の子飼いとして出版商会に就職しております」






 ネルの説明によると、まずテナージャ系の貴族は自領の出版商会と繋がっていて、貴族側に不都合な記事や本などは書けない様になっているらしい。


「え? 自由に書けないの?」

「正しくはヘインズ領でヘインズ侯爵家に不都合な事は書けないのです。他の領に行けば、ヘインズ侯爵家の事は書けますよ」

「……でも不都合な事は書けないんでしょ?」

「確かにそうですが、利点もあります。例えばシェリル様に関しての酷い記事は、ヘインズ侯爵家の力を持って載せる事はありません」

「……それ聞いちゃうと良かったと思っちゃうじゃない……!!」


 盲点だった。事前に私の良くない噂を流されていたら、もっと居心地が悪くなってたよ。

 でも、それじゃあ領民の意見を汲み取れないって事なんじゃ……。


「自領の印象を良く持たせるためにこんな事をしているのですよ。それにヘインズ家に関わる記事が書けるのはジェレミーだけです。ここで重要なのはヘインズ家子飼いの新聞記者でないと、ヘインズ侯爵家の記事は書けない点です」

「ヘインズ家に関わりのある人にしか書けないの?」

「はい。しかもその子飼いはヘインズ侯爵家へ自由に出入りが可能です。……この二部屋はその子飼いが聞き耳立てても良い部屋になります」








 するとジェレミーが説明を引き継ぐ。


「例えば、とある商人がこの部屋に通されたとします。もしその商人がヘインズ侯爵家に害のある人物だった場合、裏を取って記事に載せる事が出来るのです」

「そうなると……その商人はここの領には居られないし、評判も落とすわね」

「……ですから、へスター商会の若い従業員の事も……載せて良いんですよ」


 ジェレミーは怪しい目つきを私に向ける。……ちょっと怒っている様だ。


「……やめて。私はそこまで怒ってないの」

「……もしかして、言われて当然って思ってます?」

「……自分の身形(みなり)が魅了的だとは思った事はないの。当然とまでは思わないけど……自信は無いわ」

「うーん……自分を卑下し過ぎじゃないでしょうか?」

「事実を言っているだけよ」

「だとしても優し過ぎです」

「その程度で怒るなんて、みっともないと思わない? 領民も貴族も人間よ。失言くらいあるわ。まして私はシランキオ人。良く思わない人の方が多いのは仕方がないと思うのよ」

「……分かりました。この件は保留とさせて頂きます」

「ありがとう」

「でもそれでヘインズ家が舐められたら、彼女達を別の手段で叩きますよ」

「……そうならない事を祈るわ。それにしても、都会の記者は大変なのね。うちの領の新聞なんて、馬や牛の品評会とかの記事に力を入れているから、あまりゴシップがないのよね」

「アストリー領と言えば酪農や馬の質が高い事で有名ですよね?」

「えぇ。それに領主が領民に不当な事をしていれば、それも記事になる事もあるわ。……大体が公共施設の修繕の催促だけど……」


 するとジェレミーが笑い声をあげ、 侍女達からは羨望の眼差しを受けた。


「ハハッ! 良いですねぇ。うちとは大分違う」

「羨ましいです」

「王都が近いせいか、ゴシップばかりで……」

「うちの実家の村もそういう記事こそ欲しいのですが……」

「ルースの実家は村なの?」

「そうですよ。別の領なのですが、農家で畑をやってます。その領の新聞もヘインズ領と同じ様な記事でして……畑に関しての記事なんて一つも載ってないんですよ」


 ルースが困った表情で浮かべると、それを聞いたジェレミーが「うーん」と唸った。


「うちの新聞にもそういうの必要ですかね?」

「ヘインズ領の隠れた名産って銘打って取り上げてみれば?」


 私が浅い考えを提案すると、ジェレミーは嬉しそうに微笑んだ。


「良いですね。上に話してみますよ」


 そう言ってジェレミーはドアからでなく、その場から突然消えてその場を後にした。


「消えた……」

「正式に中へ迎え入れた訳ではありませんから。ジェレミーにとってはこれが正しい去り方です」

「なんか……一気に疲れちゃった」

「少しお休みになられます?」

「うん。少しだけ」


 少しだけ休み、夕食はフィランダーと一緒に過ごした。







 次の日の朝。

 私はフィランダーとトミーの見送りのため、玄関にいた。


「くれっぐれも、気をつけてね!」

「気をつけるのはそちらでは?」

「シェリルを狙う輩が居るに決まってるからね。俺が居ない間は緊急事態じゃない限り貴族や不審者を邸に入れるなよ」

「「「「承知しております」」」」


 執事長のユーインと私の侍女三人が答えると、再びフィランダーは私を見た。


「じゃあ、行ってくるね」

「行ってらっしゃいませ」

「そんな畏まった口調しなくても……」

「なら、『行ってらっしゃい、フィランダー』の方が良かった?」

「そっち! そっちが良い!!」

「道中気をつけてね……フィランダー」

「……うん! 行ってくる!!」


 満面の笑みのフィランダーと侍従のトミーと一緒に馬車に乗って王都へと出発した。


 




 後日ヘインズ領都新聞には、新たなコーナーが設置された。

 月に一回のペースでヘインズ領の名産品を紹介する「ヘインズ領の隠れた名産」のコーナーだ。これにより、売上が激増した名産もあったという。

 ものによっては新たな技術も公開され、作り手達に刺激を与えた。


 ゴシップばかりであまり新聞を読んでいなかった人にも受け入れられ、結果的に新聞の売り上げにも繋がったという。


 そしてジェレミーがお礼として、そのコーナーで紹介された名産品を持ってくるのが当たり前になってしまった。

 



ジェレミーは当初名無しの新聞記者としてちらっと登場するだけのキャラでした。

どうしてこうなったんだろう……。



登場人物紹介


名前 ジェレミー

所属 平民 ヘインズ侯爵家子飼いの新聞記者 ヘインズ領都新聞記者

年齢 28歳

容姿

・髪 長髪ゆるウェーブの水色の髪 リボンで結んでる

・瞳 深い青

・体型 中肉中背 細マッチョ

・顔 ニコニコ顔 二重 美形

・身長 174cm

魔法 水魔法 中


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