10 従業員の失態
ドレスを脱ぎ終わった後、改めてへスターと従業員の二人が私に頭を下げた。
「この度は次期領主夫人であらせられるシェリル様に失礼をおかけして、大変申し訳ございません。……ドレスの金額ですが、こちらで提示した額の半分で勉強させてください」
「え……っと、それについてはフィランダーにお任せしているのです。なので彼と交渉して頂けませんか? 私からもへスターに良くして頂いたと申しますので、そこまでしないでも良い様に……」
すると、ネルが話に割って出た。
「シェリル様。お言葉ですが、それではうちが侮られてしまいます」
「でも、無理を言って急いで作って頂いたのよ? 作ってくれた職人達に申し訳ないわ」
「大丈夫だよ、シェリル」
そう言って入って部屋に来たのはフィランダーだった。
「俺の愛しい人に対して酷い物言いをした子がいた様だね、へスター」
「も……申し訳ございません」
「ドレスの金額は最初に提示してくれた分だけ払うよ。無理を言ったからね。でも、誠意は見せて欲しいかな」
フィランダーが若干威圧をかけながら言うと、へスターは震える口を開いた。
「は……はい……。で、で、では……次回ドレスを注文してくださった暁には、二着無料で作らせてくださいませ」
「……うん、それで良いよ。あとは……」
「あの二人は辞めさせます」
「いや……それはやめてくれ。領主に睨まれると辞めさせられると噂されかねない。そうだなぁ……減給と降格。それと辞めても推薦状を出さない。あとは……二度とヘインズ領主夫人のドレスを仕立てる事が出来ない……ってところかなぁ。へスターから見て、あの二人は優秀?」
「……ついこの前に一人前の仕立て屋として認めたばかりの子達です。本日は良い経験と思って……申し訳ございません」
「うん。多分辞める事になるんだろうけど、うちはあの二人とは関わりたくないから。……あの二人の身元と行方は常に確認したい。分かるね?」
「はい。戻りましたら早急に領主様宛に手紙を送ります」
次々決まっていく事柄に、私はついていく事さえ出来なかった。
そしてそそくさとへスターとベテラン二人と、なぜへスター達が青い顔になっているのか分からない若手仕立て人の二人は帰って行った。
「ごめんねシェリル。あそこの仕立て屋は古くから付き合いがあるのだけど、まさかこんな事になるなんて……」
「お忙しい中……すみません」
フィランダーは明日挨拶行脚に出かけるため、慌ただしいはずだ。
「シェリル。この結婚で無理を言っているのはこっちなんだ。巻き込まれただけのシェリルが気にすることはないよ。俺が留守の間も起きそうだな。一応連れていくのは侍従のトミーだけなんだ。何かあったら執事長のユーインに言うといいよ」
「……はい」
「じゃあ、俺は準備があるからこれで……三人共、しっかりシェリルを守るんだぞ」
「「「はい!」」」
そう言ってフィランダーは部屋を後にした。
私はなんだか申し訳ない気持ちになる。「今忙しいフィランダーに迷惑かけるなんて……」と気持ちがへこむ。そう言えば、どうして彼がここに来たんだろうと思うと、フィランダーがセリーナと一緒に部屋に入って来た事を思い出した。
「セリーナが呼んできてくれたの?」
「差し出がましいと思ったのですが……」
「ありがとう。お陰で助かった。……お金の事とか分からなくて……」
「分からなくて当然です。私達も細かい事まで知らされている訳ではありませんから」
「それにしても、失礼な平民でしたね。仮にも領主の家に来るなら、それなりにわきまえているものですが……」
しかめた顔で言うのはネルだ。
「新人の方だったのだから仕方ないわ。それより、隣の部屋って防音が効いていないの?」
私が聞くと三人の侍女達は気まずそうな顔を浮かべる。
「……実は、この部屋と隣の部屋には防音がかかっておりません。この部屋と隣の部屋は普通に話すくらいだったら、隣には聞こえないのです。ですが、やや大きめな声で話したら別です。とても響きますので隣にも聞こえてしまいます。漏れても良い話をする時にこの二部屋を使用します」
「漏れても良い話って……」
「例えば信用出来ない方がいらっしゃった時は、どちらかの部屋に通します。それで主人がその場を離れている間に雑談から良からぬ企みを聞き取った場合、すぐに対処が出来るのです」
「確かに……でも大事な話になった場合は危ないんじゃない?」
「その時は魔道具を使用します」
ネルはポケットから白いコースターの様な薄くて丸いものを取り出した。縁側に丸くて小さい水色の石が等間隔に埋め込まれている。
「これは防音の魔道具です。これを使うと周りに声が聞こえなくなり、私達の姿もはっきりとは見えなくなりますので、大事な話をする時に重宝します」
「……そんなものがあるの。私でも使えるのかしら?」
「えぇ。この魔道具についている小さな石は宝石です。そこに魔力をあらかじめ入れておけば、起動者が誰であれ使う事が可能です」
「魔力さえ入れてあればシランキオ人でも使えるって事ね」
「えぇ。そうです」
「便利だなぁ」と思って見ていると、外からいきなり声をかけられた。
「ネル。いつまで無視するつもり? 僕も紹介して欲しいんだけど」
その声に私は驚き、カーテンがかかっているはずの窓を見ると、いつの間にか部屋の中に男性が一人立っていた。




