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10 墓参り



 久々に家族水入らずで昼食をとった後、墓参りに行く事になった。


「久々よね。三人揃うのは、私の結婚式以来かしら?」

「そうですね。てっきりお姉様は旦那様と一緒に来ると思っていました」

「あぁ。たまには家族水入らずでって言われたの。もしかしたら、ホリーが戦争に行くと思っているのね」

「私は王城に残る事になりそうです」

「ジェネヴィーヴ様の騎士だもんね。……それはそれで心配だわ」

「なぁ、やっぱり……辞めてここに戻らないか?」

「やり甲斐がある仕事だから、辞めたくないの」

「確かにそうだが……」






 主人である王女ジェネヴィーヴ様は孤独なお方だ。

 それを知ったのは学園卒業後、新人女騎士達が集められてジェネ様と一人ずつ面談した時だった。


「どうして私の騎士になりたいの?」


 彼女は私の顔を興味深そうに見つめていた。なので私は素直な気持ちを口にする。


「ジェネヴィーヴ様とお話しがしたいと思ったからです。男爵家の者では、話しかける事すら出来ませんので」


 ジェネ様と私は学園の同期生。しかし事務的な話さえ、ジェネヴィーヴ様のご友人を通さないと出来なかったのだ。


 私の言葉に、彼女は目を丸くする。


「……貴女は違うのね」

「え?」

「いえ……面白い人だと思ったの」


 ニッコリ微笑むジェネ様に、当時はそれが良いのか悪いのか分からず、私はとりあえず口角を上げた。






 そして正式に王女の護衛騎士になれたのは、同期で私一人だった。理由を聞くと単純明快な言葉が返ってきた。


「王太子様とお近づきになりたいからって感じではなかったから」


 実は学園時代のご友人達は王家の方から用意されたご友人だと、この時知らされた。


「だから、私の本当の友人は一人もいないの。上部で付き合う事は出来るわ。王女だし、社交は欠かせないものだから。でも……本当の友人も作りたいのよね」


 この日私は、王女のご友人になれたのだ。


 そんなジェネ様が心を開いてくれるのは、私とダーシーさんだけ。なかなか心を開かないジェネ様にとって、私達が唯一の癒しと仰ってくださるのに、辞する事など出来るものか。


 ……ダーシーさんはこの戦争が終わったら、辞すると言っていた。本当は今すぐ辞めて欲しいと周りからも言われているそうだが、ダーシーさんが折れず、そこまで期限を伸ばしたらしい。

 なので私は何としても辞める訳にはいかないのだ。





「ハァ……私の娘は勇ましいな」

「私も体力さえあれば……」

「ジュリーは無理しない。剣の腕はあると思うけれどね」


 お父様は特技が剣だった事もあって、娘二人に教えてくれた。ただ、お姉さまには持久力がなかった。センスは良いのだが、長時間戦う事には向いていない身体なのだ。


「さぁ、着いたよ」


 丘の上には歴代のコリンソン家のお墓がきっちりと等間隔に並んでいる。その中で最も綺麗な墓に持って来た花を供えた。








 墓はたまにベンが磨いていると言うだけあって、どの墓も綺麗だった。古いものはさすがに年季が入っているのが分かるが、それでも同年代に建てられたものよりも遥かに綺麗だ。


「カーリー。来たよ」


 お父様は愛おしいものを見るように、お母様の墓を見つめる。昔から見ているその姿は、まるで恋する男だった。未だにお父様はお母様に恋しているのだ。


 そんなお父様を見て昔から「私にもいつか好きな人が出来て、そんな目で見つめてくれるかな?」と思っていた。


 隣にいるお姉様はちょっと呆れた目でお父様を見ている。私が見ているのに気づいたお姉様と目が合い、互いに苦笑した。


 お姉様は好きな人を見つけた。私はビルを見つけたけど、結婚は実りそうにない。しかも戦争があるかもしれない。


 三人で会いに来た事をお母様に口に出さずに報告する。しかし私は別の事を思い浮かべていた。


 どうしたらいい? お母様。


 本当は「ただいま」と言いたかったのに、質問になってしまった。







 家に帰るとお姉様は疲れたのか、また部屋に篭ってしまった。私はちょうどお姉様の部屋を出て来た侍女に話を聞いた。彼女は子爵家の侍女だった。


「お姉様。……もしかして、無理しているの?」

「あー……ちょっと、ですかね。実はコリンソン家の方々を驚かせようと、昨日到着予定だったのですよ」

「え? でもお父様は今日だって……」

「はい。昨日、ここから一番近い街に着いた時、眠ってしまって……起きそうにないので、僭越ながら今日の到着になると手紙を出したのです」

「そうだったの」


 私は侍女にそう頷きつつ、部屋の前で警備をしていた二人の騎士に注目した。


「あの……このお二人も姉の?」

「はい。もう二人居ります」


 何でも、子爵家の騎士四人、侍女一人、そして馬車を運転する御者一人の計七人で来たそうだ。


「たった一人に……まるで上位貴族ね」

「それだけ旦那様に愛されておられるのです。……正直、胸焼けしそうで……」


 ふと周りを見ると警備の騎士達も苦笑いを浮かべる。姉は大変愛されている様だ。


「楽しそうで良かった」


 その場にいる人達と笑いあった後、私はそのまま自分の部屋へと戻った。




 


 部屋に戻るとまるで昔に戻ったかの様に錯覚する。貴族にしては決して広くはないけど、落ち着く部屋。昨日も泊まったが、私が出て行った時のままにしてあったのには驚いた。


「……いつでも戻って来て良い……か」


 お父様が私に戻ってきて欲しいのは頭の中では分かっている。けれど、私は戦う事を選ぶ。実戦経験は少ない。新人研修の魔獣退治でたまたまその帰りに出くわした盗賊討伐が私の数少ない実戦だった。


 ジェネ様を護れるだろうか?

 交戦に向かうビルは大丈夫なのか?

 私は……生き残れるだろうか?


「後悔しない道を……選んでね」


 そう言ったのは、天に召された母だ。

 小さい時はよく分からなかったが、今がその時なのだろう。

 この道を選ぶ事に後悔はしない。






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