77 平常心とか売ってませんか?
「色々と、聞きたいことも知りたいこともあるとは思うんだけどさ」
シオンさんはそう言ってからゲインさんに目配せをした。ゲインさんはサッと移動すると、積み上がった書類やら冊子やらの山を、纏めて持ち上げて運んで来る。
目の前のテーブルにそれは置かれて。
「これはね、聖女ちゃん達の残したものなんだ」
そう言ってシオンさんは、眉毛をハの字にして笑った。それは、寂しそうにも悲しそうにも見えて。
ただの勘でしかないけど、きっとこの人も、
「助けて死にたくない」
の意味を、ちゃんと知っている人なんだろうと思った。
「私は聖女ではなく、カテリーナと言う名前があります。それから、今、結界修復の旅に出ている聖女様のお名前は沙羅様です」
「あぁ、本当は加奈子ちゃんなんだっけ?」
どこからどこまで知ってんのよ、恐ろしいんですけど。沙羅様の前では絶対に呼ばれないようにしなきゃ。
それに、良く知らない人達との馴れ合いは、良くないったら良くない。
「カテリーナと」
「了解でーす。で、とりあえずこの、始まりの書から読んでもらえるかな?」
渡されたのは、明らかに他のものよりも古いと思われる、少し黄ばんでシワシワになった紙の束だった。
一番上の紙には【始まりの書】ってそのまま書いてあるけど、何か違和感がある。
「リーさん、この【始まりの書】ってこの国の文字で書かれていますか?」
「はい、この国の文字です。ですが、この下の文字はうちの国では使われていない文字で書かれています」
なるほど。
もの凄く早く動き出した心臓の音が、周りに聞こえてしまうんじゃないかって、不安で手に汗を握ってる。
驚きを隠せてるかな。とにかく、考えないと。
日本語と、この国の文字について。
ちゃんと検証する機会がなかったから、どうなってるのか分かってなかったんだけど、多分、私も沙羅様も意識しないでこの国の文字を読めている。
ミレー様に色々と教わった時に、資料とか見せてもらったし、本も読んだし。どれも普通に読めるんだなって驚いて。
だから、これが言語チートかぁ、位に思ってたんだよね。
でも。今、日本語とこの国の文字が一緒に書いてあるのを見て、初めて違和感に気がついたんだ。
もちろん、日本語には違和感は全く無い。
だから、この違和感は本来理解出来ない言語に対して、なんかしらの強制力が働いて理解出来るようになってるから、的な?いや、本当のところは分からないけど、自分の中での落としどころと言うか。
んで、じっと見ていると、知らない文字が、薄っすら透けて見えることにも気が付きましたよ。
これで一応、判別出来ることが分かりました。
よし、大丈夫。
【始まりの書】
上の文字はこの国の文字。
始まりの書←これは日本語。違いが分かる?
この国の人、誰か味方か分からない。
絶対に日本語教えちゃダメ。
分かる?周りにいる人は信用出来ない。
全てを訳したら絶対にダメなんだからね。
聖女が帰れるか幸せになるためのヒントになるといいのだけれど。
佐藤 真奈美
なんて一枚目の紙に書かれていたら、動揺すると思いませんか?




