65 ふわふわっと ―沙羅―
「マットさん、昨日はありがとうございました」
みんなに笑顔で見送られ、昨日の教会を後にした馬車の中で、マットさんに感謝の気持ちを伝えました。
だってあの時マットさんが司祭様を追い出してくれなかったら、あの人はもっと暴言を吐いたと思うし、もっと皆を悲しませたと思うから。
「いえ、逆に申し訳なかったと思っています。あのような者ばかりではないんですがね」
マットさんは苦笑いをしながら、深いため息を吐いた。そして、祈りの時間のことについても謝罪してくれたんだった。
確かに、イベントの様に行わなければならない、祈りの時間と、この旅に対して寄付を募らなくてはならない行為は、私にとって苦痛でしかなかった。
だって、皆の純粋な信仰心を利用してるって罪悪感しかなくって。
「私の魔力は、祈ることで何か変わるのですか?」
と、教会の魔導師の人に、いつだったか尋ねた事がある。
祈りの時間、祈りの時間って、しつこくてちょっとね。
だって、女神ヘレナ様に祈らないと聖なる魔力は使えないんだとしたら、信仰心のない私だと、ダメじゃない?
この宗教の在り方に疑問を持ってしまっている私の祈りなんかじゃ、余計にダメなんじゃないかと思って、心配になって聞いてみたけれど。
「民には、聖女様が教会で熱心に祈っている、そのお姿を見せることこそが重要なのですよ」
って、とりあえず姿を見せればいいみたいな雰囲気の返事だった。
「聖なる魔力は聖女様にしか使えないのだから、私達に分かる訳がないだろう」
その場にいたもう一人の魔導師の人なんて面倒臭そうにこう言って、鼻で笑った。
なんて言うか、少しは取り繕ろったらいいのにって思った気がする。
「本当、沙羅様に負担を掛けて、申し訳ないと思ってるんだ」
マットさんは、自分の教会での立場みたいなのを教えてくれました。
「昔から、魔力のある子供達を集めて、地域の教会で育てているんだよね」
国の魔導師は7人しかいないけど、教会所属の魔導師はたくさんいて、その中で力のある魔導師だけが、ほんの数人聖魔導師になれるんだって。
若いからなめられることも多いけどねって、マットさんは笑ってる。
「じゃあ、マットさんって、すごい魔導師さんなんじゃないですか」
本人は謙遜してるけど、ほんの数人に選ばれるってすごいことだもん。でも、なんか意外だったな。すごくなさそうなのに、すごいなんて。
「魔力量が多かっただけなんだけどね」
はにかむように笑うマットさんは、男の人なのに可愛らしい人だなと思う。普段はいつもこんな感じ。
いつも差し入れしてくれるお菓子も、可愛らしい色合いの物が多いし、ふわっとした感じなのになぁ。
なのに昨日の夜のマットさんは、なんて言うか、男らしくて頼もしかったような気がしなくもない。
少しだけかっこいいな、と思ったのは内緒にしておこっと。




