64 ある日のカテリーナ
―夜会前のある日―
「だいたいさ、目立つ役職のやつと親戚以外、誰も顔なんて知らないって。にこやかに挨拶でもしておけ」
そう言ったのはアレンさんだった。だから、そんな馬鹿なって思ったんだよね。
ほら、イメージだけど貴族なんて顔売ってなんぼって言うか、それが仕事なんじゃ?って思ってたからね。
だから、夜会に出なきゃってなったときに、貴族名鑑みたいの無いのか聞いたんだよね。お兄様であるアレンさんに。
で、結局。アレンさんに聞いた私が馬鹿だったなと思ったんだよ。うん。
だから、ちょっとだけ反省して。聞く相手間違えたと思ったから、ちょうどバルトール殿下の執務室にいたテオドール様に聞いてみました。
「あぁ、俺、そういうの苦手でな。嫁が出来る子だから、全部そういうのは任せている」
あ、そうなんですか。
テオドール様はまさかまさかの脳が筋肉で出来ていらっしゃる方なのかな?
硬派で素敵なお兄様なのかと思っていたんだけども、むむ。
「戦って面白かったやつだけは、名前も覚えてるけどな」
あー、ダメだ。アレンさんと違う方向に同類だわ。
普段、あまり執務室で見かけない訳が、今ここで分かってしまった気がする。
アレンさんと同じで、すぐに訓練場に行っちゃうんだな?それでガイ様に怒られるパターン。
バルトール殿下、側近の人よく選んで付けた方がいいんじゃないかな。他の人が優秀だから大丈夫なのかな。ガイ様が大変な気がする。
「って訳で、レオナードさんに教えてもらえたらと思って」
「そうなんだ。カナちゃんのお願いだしなぁ。んー、そうだな。資料纏めるのに2、3日もらってもいい?」
「はい、もちろんです。夜会前に準備したいだけなので。ご面倒お掛けして申し訳ないですが、よろしくお願いします」
大まかな派閥程度は、教えてもらったんだよね。ミレー様に。
だけど、例えば義父様との関係とか、バルトール殿下との関係とかさ。私の知らないところで迷惑掛けるとかイヤだしさ。
面倒ごとを避けられるなら避けたいでしょ。それにはやっぱり情報が必要だよね。
レオナードさんが引き受けてくれたから、今度の夜会に出て来そうな、メジャーな貴族は網羅出来そう、なぁんて気楽に考えていたこともありましたよ。
「はいこれ。カナちゃん、夜会、頑張ってね。あとこれ、最近流行ってるお菓子なんだって」
レオナードさんが渡してくれたのは厚さ8㎝にもなる紙の束と、ナッツにカラフルなお砂糖がかかってる、最近街で流行ってるらしいお菓子だった。
お菓子の袋には、ご丁寧に薄い水色のリボンまで掛かってる。
「念のため、教会の組織図も載せておいたよ。それから周りの国のことも軽く纏めておいたから、読んでおいてね」
周りの国?と、一瞬考えはしたけど、美味しそうで可愛らしいお菓子に気を取られて、ウキウキしながら部屋に帰った私は、悪くないと思うんだ。
「え、何これ」
レオナードさんが纏めてくれた貴族名鑑が、まさかまさかの大容量で、本来なら知るはずもない裏情報満載の、恐ろしい内容で。
しかも教会内部情報も、隣国の情報も、知ったらヤバいヤツ満載なんですけど、どうしろと?
レオナードさん?私に何させる気なんですか?こんな悪魔のノート、欲しくなかったんですけど。




