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59 思い出の中の理想の人

 


 と、バルトール殿下と城下町の夜景を見下ろした日の事を思い出して、思わず頬を押さえた。




 よく考えてみて欲しい。

 現代の日本で育ってきた私にとって、エスコートすることが当然の国の男の人相手に、どう振る舞うのが正解だと言うのか。

 知っている人がいたら、私に懇切丁寧に教えて欲しいと思う。



 夜会のダンスの練習の時だって、手を繋ぐことだけでも慣れなくて、緊張して。

 しかも相手は本物の王子様と、見た目キラキラしいアレンさんだったし。


 恐るべきことに、あんな残念なアレンさんでも、まぁ、表情と表現は置いておいて、息を吸う様に自然にエスコートするんですよ。

 それが当然で育ってきてるから、無意識に手が出るみたい。いや、言い方が悪いか。手が出るなんてね。

 でも、こちらの世界の人達はそうなんだから慣れるしかないんだけど、ね。


 でも腰は、腰は慣れないでしょ。背中だってそう、ダンスだからって思っても、ドキドキして赤面して。


「意識しすぎだろ、アホか」


 と、アレンさんには呆れたように言われ、


「赤面の上、涙目で上目遣いとか」


 と、バルトール殿下はなんだか不機嫌になってしまって、当日は殿下とアレンさん以外とは踊らない事を約束させられた。

 いや、万が一、誘われたとしても私、知ってる人居ないんだからね?怖くて踊れないっての。

 なんなら夜会なんか出たくないって話ですからね。




 まぁ、とにかく。

 何が一番言いたいのかと言いますと。


 父の姿形と雰囲気が似てるんですよ。バルトール殿下って。

 ファザコンの私にとって、本当、辛い。





 物心ついた頃には、父は母の王子様だった。母はもちろん父にとってのお姫様で。

 ドアの開閉、車の乗り降り、買い物カゴだっていつも父がサッと持ってた。

 私が大きくなってからだって、ずっと仲が良くて。


「ママってお姫様だったの?」


 って、私が小さい頃に母に聞いたことがあったらしい程に、二人はラブラブだった。


 そんな愛し愛される関係の両親を見て育った私は、恋愛において、少し、いやかなり、拗らせていた。

 いつか、私だけの王子様が現れると夢見てしまう位には、しっかりと拗らせていた。


「いつか加奈だけを愛してくれる人が、必ず見つかるわ」


 って母はよく私に言ってたしね。



 けどね。小学校にも中学校にも当然ジェントルマンなんかいるわけもなくて。

 容姿のことで意地悪されたり、嫌な構いかたをされたりと、散々だった。とにかく男子との関わりは、嫌な思い出だけしかない。

 その上、キラキラと眩しい思い出だけを、たくさん残して、私の理想の二人は消えてしまって。

 

 そりゃ、苦手にもなるでしょ?

 社会人になって、ようやく大人的対応を学んだと言うくらい、はっきり言って異性に対しての免疫はない。

 そう。あるとすれば、職場のおじ様達と、ラノベやゲームの二次元だけだ。







 だからね。

 背の高さも肩幅が広い所も、姿勢が良くて綺麗な所作も、それからスマートなエスコートも。

 公用の王子様らしい表情でない、普段の笑みも。優しい言葉も。

 まるで父が母にしていたのと重なって見えて。

 バルトール殿下には、私が特別に見えているんじゃないかって、勘違いしてしまいそうで、本当に辛い。



 聖女じゃない私を、必要とする人がこの世界にいるかな。

 私だけを愛してくれる人は、本当に現れるかな。


 リーさんに声を掛けられるまで、そんな事をぼんやり考えてた。





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