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57 ヘビーな話は飲み込んだ

 



 は?何を言ってるの?

 私が聖女様な訳が、


「あの魔方陣で召喚された人は、聖なる魔力が必ず使えるんだって、君、知ってた?」


 チャラい感じの男の人が、歩きながら机の前まで来ると、そこに腰掛け長い足を組んだ。ムカつく程に長い足だな。


「どうしてだと思う?」


 そう言って、顎に手をやって首を傾げるとか、なんだ、おい。可愛く見えるとか、あざといんですけど。


「話は変わるけどね?俺たちは聖女様を助けたいの。このままだと、死んでしまうかもしれないからね」


「死、んで?」


「助けて死にたくないって書いてあったでしょ?」


 あ、って思ったときには聖女様の書き残した文字が脳裏に浮かんだ後で。咄嗟に表情を取り繕うことなんて出来くて。

 どうして本の事を知ってるの?とか、私が読んだことを知ってる様に言うのはどうして?とか、頭の中のグルグルが収まる前に、畳み掛ける様に、


「ねぇ、君はこの世界にどれだけの聖女様が召喚されたかを、考えたことがあるかい?」


 チャラ男は柔らかそうな前髪を指で掬って後ろへと流しながら、私を見据えた。

 軽口とヘラっと笑う表情とは違って、真剣な眼差しだった。


 だから。


「一方的に考えを押し付けられても困ります。私が動きたくなる様な情報を下さい」


 なんて。

 自分でも、甘い甘いと思ってはいたけれど、甘すぎるよね。


 でもね、仕方ないと思う。だって、私は一般人だからさ、国とか宗教の暗部になんて思いは至らないって。想像すらしないわ。

 単純に、沙羅様の行動の助けになれば、位に思ってたんだから。




 でも、これはそんな話じゃなかった。






 それこそ、聞いてる途中で気持ち悪くなって、


「今日はもう、休みなよ。勝手に連れてきて、こんなヘビーな話してごめんね?」


 と、チャラ男に心配された程だった。






 用意された部屋は豪華ではなく、こじんまりとしていて。でも、手入れの行き届いた部屋だった。

 私がベッドに転がると、


「熱は無さそうですね」


 リーさんは私の額に当てた手を離して、心配そうな表情を浮かべている。


「リーさんの手、ひんやりして気持ちが良いね。あー、起きてられそうもないから、このまま寝るけど、リーさんも早く休んでね」


 思いがけず、リーさんと同室で休むことになったけど、一緒の部屋だと聞いて単純に嬉しかった。





 今は一人になりたくないって思ってたから。




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