48 信頼を得ると言うこと ーバルトー
「カテリーナ嬢の心配ですか?」
ガイに声を掛けられ、顔を上げれば、何故かアレンが驚いた表情をしていた。
見ていたレオナードから届いた報告書を机に置くと、アレンが、
「何、なんかあんの?」
と、珍しく興味がある様子だから、渡してやる。他人にほぼ興味のないアレンからすれば、珍しい事だ。
「心配と言うか、何も言ってもらえない事が、歯痒くはあるな」
基本、カテリーナは人を頼るということをしない。あれほど困った状況にあったときも、我慢する、耐える、といった方法を選んだように、侍女を付けた後も、その傾向は変化しなかった。
「レオナードからも、気を付けてやれと連絡が入るくらいだからな」
「まぁ、絶対的な信頼関係を築く所までは行ってないって事ですね、殿下」
ガイに言われ、苦笑いで答える。その通りだから、仕方がない。ただ、何かあるならば、俺がどうにかしてやりたい、そう思うだけだ。
「あいつ、変なヤツだよな」
アレンが報告書を見ながら、呟いた。
「自分の身も守れないくせに、聖女を守る為にって、魔方陣改良しまくってるんだぜ。しかも、ミレー様まで巻き込んで、すげぇの作りまくってんの」
なるほど。アレンがこれほど興味を示す理由が分かった。カテリーナの才能を面白がってる訳だ。しかも、アレンの大好きな魔方陣絡みだからな、当然と言えば当然か。
「そうか。なら、お前も気を配ってやってくれ。才能が知れれば、余計な者まで寄ってくるだろう。教会と繋がりのある、面倒な奴等もな」
自分の時にもあったアレコレを思い出したからか、あー、と言って、
「仕方がない、即席とは言え妹だからな」
と珍しくごねずに承諾し、部屋から出ていった。ガイはその様子を面白そうに見ていて、
「カテリーナ嬢、嫌がるでしょうね」
「まぁな」
きっとするであろうカテリーナの表情を思い浮かべれば、笑いが込み上げてきて、思わず口を覆った。
「信頼は、積み上げて築くものです。そして、想いは伝えなければ意味を成しません」
ガイは何を俺に伝えようと言うのか。真剣な眼差しに、心の奥を覗かれるようだった。
「言わずに対処したことは、彼女にとっては起きなかった事と同じです。影でいくら守っても、本人は何も気が付かない」
それは。
思わず手をグッと握りしめる。
本人に言えと言うのか。聖女に余計な知恵を付けたくない者から排除の対象になっている事を?
世界の救済後に聖女を取り込みたい勢力から、狙われている事を?
そして、俺のせいで貴族の権力争いに巻き込まれつつある事を、カテリーナに言えと言うのか?
「知らせずに守りたい気持ちは分かります。ですが、彼女はそれを良しとしますか?」
いや、しないだろう。
レオナードや、侍女からの報告でも、カテリーナは負けず嫌いで、やられっぱなしではいたくない性質な事も、嫌がらせしてきた令嬢達を、嬉々としてやり込めている事も知っている。
「俺の我儘だな」
「分かっていただければ結構」
全部お見通しかよ。
ガイは、必要な事は全部話したとばかりに、俺の決裁が必要な書類を大量に机の上に置き、
「さぁ、しっかり働いて下さいね、殿下」
と部屋を出ていった。
何も知らないまま、笑っていて欲しいなんて、俺の我儘だって事は分かっていたんだ。




