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Page3~クラリスの決断、私、政略結婚目指します!~

幼なじみのミナに相談して、クラリスは母の病気と国の財政難を打破すべく、家族に決意表明をすることに。

クラリスの王家――ハート家は、食事を家族全員そろって食べる習わしがある。

 それが王様、いやクラリスにとっては父の意向であり、家族と食事をすることが父の息抜きであり、楽しみの一つでもあった。


 クラリスは仔牛のステーキを頬張りながら、父に相談を持ちかけた。

 「お父様、食事の時間にするお話でもないのかもしれませんが、よろしいでしょうか。」

 父は口を拭きながらにこやかに応じた。

「どうしたんだい、クラリス。やけに改まった口調だなあ。」

 クラリスは、手汗で滑りそうになったナイフとフォークを緊張した面持ちで置いた。

 母と弟も不思議な顔でこちらを見つめている。

「あのね、私、結婚したいと思っているの……!」


 その一言に、一気に食卓が驚きに満ち溢れた。父は口角を上げたまま静止してしまい、母はスプーンにすくっていたパン粥をぼとりとテーブルクロスの上に落とした。

 弟は突然天井まで届くほどの大笑いをし、おなかを抱えるのだった。

 「み、みんなして!なにがおかしいの!!私だって、良い年頃なんだから……。」


 ひとしきり場が和やかになった後、父が気を取り直してクラリスに向き合った。

「それにしても、なぜ急に結婚なんて言い出したんだい?気になる人でもできたのか?」

 落ち着きを取り戻してもなお、父の口元には隠しきれていないほどには、笑みがこぼれていた。

 メイドたちが食後の紅茶を運んできてくれる。やんわりと湯気が穏やかなティータイムに立ち込める。


 クラリスは、両手で自分の頬をぱしゃっと叩き気合いを入れなおすと、真剣な面持ちで口を開いた。

 「お父様。結婚といってもね、好きな人ができたわけではないんだ。私が言っているのは、政略結婚のこと。今、私やお父様……いやハート家が解決すべきこととしては、二つあると思うの。

一つは、ここ数年の財政難。このままでは、国民が苦しみ困窮してしまう。どうにかして、財源を確保しなければならないよね。もう一つは、お母様の病気のこと。私、お母様がもう余命一年と言われていることは分かっている……。でも、もっと長生きしてほしいの!

だから、他国に協力してもらえば、財政のことも、お母様の病気のことも少しは良くなるんじゃないかと思って……!」

 つい語尾が上ずってしまう。なるべく冷静に、自分がやろうとしていることを伝えて、理解してほしいと思っているのに。

 額にうっすら汗がにじむのは、熱い紅茶のせいだけではないとクラリスは分かっていた。父、母、弟の眼差しが真っすぐで、少し怖さもあった。


 父は、そうか、と息を吐くように一言こぼし、幼子をあやすような口調で続けた。

 「クラリスがもう、そんなことまで考えるようになったとはなあ。いやはや、月日が経つのは早いものだ。もう、十八だもんな。クラリスの提案を受けたうえで、お父さんの意見を言うぞ。」


 一呼吸置き、父はクラリス、母、弟をゆっくりと見渡した。

 「父親としてはなあ、クラリスにはクラリスが好きになった人と結婚をしてほしいと思っているんだ。お母さんも、私のことを好いて愛してくれて、嫁に来てくれたからねえ。

でも、確かに、クラリスの提案はとても利口で、今後のことを考えると良い選択の一つではあると思う。なあ、メルトよ。そう思わないか。」

 母の名を呼び、父は喜ばしげに母に目線を送った。花を愛でるような、目線の運び方だった。

 母、メルトはそうね、と言い、

「もう女性の仲間入りだものね。そういう発想になってもおかしくはないわ。でもね、私もできればお父様と同じ意見よ。本当に好きで、ずっと一緒にいたいと思えるようなお相手と結婚してほしいわ。それが、どんな身分の方であろうとね。」

 うむ、と立派なあごひげをさすりながら、父は再度クラリスに向き直る。

 クラリスは唾をのみ込んだ。


「クラリスの相談を受けて、私から提案をしたいのだが、いいかな。」

 こくりと、首だけで頷く。緊張でのどが渇き、返事ができなかった。

 「まだ、人を好きな気持ちが分からないのだろうと思う。でももう十八であるし、結婚を視野に入れるのは良い機会だ。

そこで、私から近隣諸国の王子に娘を嫁に迎えるのはどうかと従者に声をかけさせるから、まあお見合いという形で、男性と接してみるのはどうだろうか。好きになって結婚という方向になれば、それはそれでおめでたいことであるし、クラリスが嫌に思うなら無理にとは言わない。父親としては、ちゃんと恋愛をして嫁いでいってほしいからね。」


 父の思いやりある提案にクラリスは、はいっ!と声を上げた。そして、紅茶を一気飲みすると、一つだけ条件がある!とティーカップをソーサーに置く。陶器の繊細な肌と肌が、緊張感をもってかちあった。

 「お父様!サーヴァント国の財政難対策と、お母様の病気を治せるような医療技術が発展している国の王子にしてくださいますか?それだけはお願いです!今は、恋心を知るよりもこれらのほうが大事なのです。」


 弟はやれやれ、長話が終わった、とでもいうように席を立ち、父と母はそうだね、と条件について快諾してくれた。

 三日月がブランコの様に揺れている。

 クラリスは、先ほど乱暴にしてしまったティーカップとソーサーを丁重に置きなおして、謝るようにさすった。

 恋愛も結婚もピンとはこないけれど、動揺してしまっていた自分に頬を林檎色に染めた。

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