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False;World  作者: 川犬
32/32

●●の世界-4

 僕の目の前には涙を流している可憐な少女がいる。

 その涙はさっきまでは再開を喜ぶ涙だった。でも、今は多分違うと思う。

「どうして忘れちゃったの……っ」

 僕は頭の中を必死に駆け巡る。

 どこかに由愛との思い出があるはずなんだ。だって、由愛に僕の記憶があって、僕に由愛の記憶がないなんてそんなのおかしいじゃないか。

 ぐるぐると、駆け巡る。

 何度も何度も駆け巡る。

 でもやっぱり思い出すことは出来なかった。まるで由愛との思い出が誰かによってどこかに隠されちゃったかのよう。

 由愛は座り込んで下を向きながら肩を震わせている。そして時折、キラリと光る雫がぽたりぽたりとスカートに落ちていった。

 なんだろう。ものすごくもやもやする。

「本当に……ごめんね……」

 それを聞いた由愛は教卓の下から出てきていきなり立ち上がった。

 そして間を置かずに教室の外へ出て行く。

「ち、ちょっとまって!」

 僕は由愛が出て行った方向へ手を伸ばし、

「……」

 それをゆっくりと下ろした。

 僕に由愛を追いかける資格なんて、ないよね。

「いいのか? 追いかけなくて」

 さっきまでずっと僕と由愛とのやりとりを見守っていた悟朗は、そう僕に語りかけてきた。

「由愛にあんな事言っちゃったんだ。合わせる顔なんて無いよ」

「確かにそうかもしれないな」

「うん」

「じゃあ追いかけなくていいのか?」

「うん……」

「いいんだな?」

「うん」

「いいわけないだろ!」

 悟朗の怒鳴り声が教室全体に響き渡る。そして悟朗の怒鳴り声は壁に当たって吸収されていき、静寂が訪れた。

 え?

 僕は視線を上に移動させ、悟朗を見た。

 悟朗の眼から強い意志が伝わってきた。

「周りを見てみろ! ここはどこだ!」

 周囲を見渡しても、いくら見渡しても、白と黒しか無かった。

 僕は拳を握りしめる。

 そうだ。そうだった。ここは異世界。僕達の世界とは異なる世界。


 死神がいる世界だ。


「そうだ……ここは死神の世界なんだ」

 僕は立ち上がって悟朗を見上げた。

「悟朗! ありがとう。目が覚めたよ」

 由愛に合わせる顔がないなんてそんなの今はどうでもいいんだ。合わせる顔なんて今は必要ない。

 どんなことが起きようとも、この世界で離れ離れになったら、死神に襲われるかもしれない。

 合わせる顔なんて後で作ればいいんだ。思い出せない思い出なんてきっといつか思い出せる日が来る。

 今僕がするべきことは、由愛を捕まえて逃さないこと。どんなに嫌がられても逃さないこと。

「それじゃ、行こう!」

「おうよ神治!」

 悟朗、本当にありがとう。



「由愛ー! いるなら返事してー!」

「由愛返事しろー!」

 僕と悟朗は走りながら由愛を探していた。

 いつ死神が出てくるのか全然検討もつかない。今のところ、僕達の周囲には現れていないようだった。

 白。黒。白。黒。

 どこからどこまでも白と黒。

 僕の脳内で最悪の可能性が思い浮かぶ。由愛がもうすでに死神の鎌によって存在が消されている可能性。でも僕はその可能性をすぐに打ち消した。

 少しでも存在している可能性があるなら、僕はそっちの方を信じたい。いや、信じる。

「ハァッハァッハァッ……」

 僕の肺と心臓が悲鳴をあげていた。悟朗は体力があるみたいでまだまだ余裕そうだ。というよりも悟朗のペースで走ってるから僕がついていけなくなるのも当然だよね。

 と、悟朗がちらりと僕の方を見た。

「なんだ、神治。疲れたか?」

「ひ、ひはっ……だいひょうぶっ……」

 休んでいる時間があったら由愛を探さないと。

 苦しいけど、でも頑張らなきゃ。

 呼吸は乱れに乱れまくっているけれど、そんなことは気にしていられない。

「……よし、一旦歩くぞ」

「へっ?」

 悟朗に僕の肩を掴まれ、僕はそれ以上前に進むことは出来なかった。

 なんで肩をつかむのさ! 僕はまだまだ走れるよ!

 そう言いたかったよ。でも、しゃべることすら困難だったから、何も言い返せなかった。

 僕は悟朗の指示に従うことにした。

 悟朗と一緒にゆっくりと歩き出す。

 しばらくお互い無言で歩く。

 大きく息を吸って。ゆっくりと吐いて。また吸って。吐いて。

「ふう」

 だんだんと呼吸が落ち着いてきた。また走れそうだ。

「よし、そろそろ行けそうか?」

 悟朗は僕の様子を見計らって、そう問いかけてきた。

 僕はこっくりと頷く。

 そして、僕たちは再び由愛を探すために走りだそうとした。まさにその時だった。


「やめてッ! 来ないでッ!」


 僕達の耳にはっきりと少女の悲痛の叫びが聞こえてきた。

 僕と悟朗は一瞬顔をあわせる。

「おい今の! 近いぞ!」

「うん、行こう!」

 僕と悟朗は悲鳴が聞こえてきた方向へかけ出した。

 間違いなく由愛の悲鳴だった。

 僕の脳内で最悪のイメージが浮かび上がる。僕達が追いついた時に丁度由愛が死神の鎌によって消されるイメージ。僕はそのイメージを即座に消した。

 そんなこと考えるな、僕。



「いやぁぁぁあああああああッ!」

 僕と悟朗は最後の曲がり角を曲がる。すぐそこに由愛はいるはずだ。

 僕の直観がそう叫び散らしていた。

「なんだこれは!?」

 悟朗は変な声を上げた。

 僕が目にした光景は想像を絶していた。悟朗も思わず直進するのを躊躇しているほどだ。

 多数の死神に囲まれて、由愛が頭を抱え蹲っている光景。数が多すぎる。

「ヴァア?」

 由愛を囲んでいる死神が一斉にこちらを向く。多数の赤い眼光が僕たちを捉えた。

 モノクロの世界に浮かぶたくさんの赤。普段の僕なら恐怖で逃げ出していたところだ。

 でも今の僕には恐怖している余裕なんてなかった。

「うおおおおぉぉおおおおおッ!」

 僕は全力で走った。風よりも速く、音よりも速く、光よりも速く走るかのような勢いで。

 数なんて関係ない。僕たちが助け出さなきゃ由愛はどうなるのか。それを知っているから僕は動く。突っ込む。

 死神に突進した。

 僕の突進をまともに喰らった死神は大きく吹っ飛んだ。そして、その死神が吹っ飛んだことによって、中心にいる由愛への道が開かれる。

「由愛ッ!!」

 由愛は名前を呼ばれてこっちを見る。涙まみれでぐしゃぐしゃだったけれど、間違いなく由愛だった。

 僕は思いっきり由愛へ手を伸ばす。この手が届いてほしい。由愛の手を掴んで、悟朗の元へ思いっきり投げ飛ばすのが最善策だ。だから、それを実行したい。

「ヴァァッ」

 でも僕が手を伸ばしているすぐ横で死神が僕の手目がけて鎌を振り下ろそうとしていた。

 このままじゃキラレル。

 お願い。お願いします。届いて。僕は由愛を助けなきゃいけない。だって、守るって約束したから。

 由愛も僕の手を握ろうと手を伸ばす。後、もうちょっと。

 死神の鎌はもうすぐそこまで来ていた。

「届けぇぇぇぇぇぇッ!」

 僕は由愛の手を掴み、思いっきり真後ろへ投げる。間に合った。

 由愛は予想外のことだったのか、僕の方を振り向き、絶望の表情を浮かべていた。絶望の表情を浮かべていようが何だろうが、由愛が助かればいい。そのためなら僕の命なんて惜しくない。

「神治ぃっ!」

 僕は目を閉じた。今の僕はきっと達成感に満ち溢れた顔をしているだろうね。

 今までのことがいろいろフラッシュバックしてくる。

 楽しかったこと。悲しかったこと。悔しかったこと。うれしかったこと。いやなこと。

 どれも僕の思い出だ。僕だけにしかない思い出だ。

 17年間全てが詰まった思い出なんだ。

 でも、これ以上思い出を創ることは出来ないんだよね。だって、僕がいないと僕の思い出を創ることなんて不可能だもんね。

 

 …………。

「あれ……?」

 普通ならもう僕に振り下ろされているはずの鎌が振り下ろされない。僕はゆっくりと目を開ける。

 まず視界に入ったのは、悟朗が死神の鎌を蹴り上げているところだった。

 ガキィンッと大きな音を出しながら、鎌は死神の手から離れ天井に突き刺さった。

「神治! お前は生きろッ!」

「え」

 そして悟朗は僕の手を掴み、思いっきり由愛のいる方向へ僕を投げた。さっき、僕が由愛にしたのと同じように。

 悟朗は僕を投げた反動で、死神達の中心へと倒れこむ。

 死神達は一斉に鎌を振り上げた。

 嘘、でしょ。ちょっと待ってよ。

「悟朗ッ!」

 悟朗は最期に僕を見た。その悟朗の眼を見ているとふんわりとした何かに包まれていくような不思議な感じがした。


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