○●の世界-3
朝食をいつもよりややゆったりペースで食べ終えた僕と咲は、登校時間になるまでくつろぎ、それから登校した。
咲が色々と話しかけてくるのを、ところどころ華麗にスルーしながら歩いているうちに、校門に到着した。
咲は、笑顔をこちらに向けてきた。
「ついたねー」
「そうだね」
体育館の方を見ると、バスケ部が朝練をやっていた。かなりハードそう。僕じゃ、10分も持たないと思う。身長的に。
僕は、足を止めて、バスケ部の朝練の様子をほんの数秒見てから、再び歩みだす。咲もワンテンポ遅れてついてきた。
「しんちゃんー」
「ん?」
「バスケ部大変そうだねー」
なんで咲は突然、バスケ部の話何かしてくるのだろう。バスケしたいのかな?
僕は、とりあえず相槌を打った。
「大変そうだね」
「バスケ部のエースさんは誰かなー?」
「さあね」
僕は、バスケ部に知り合いはいるけれども、特に親しい友達はいない。はずだ。
……あれ? 本当にいなかったっけ。
いたような気がする。でも僕の記憶の中には、そんな親友いたなんて形跡が全くもってない。僕がバカだからか?
咲は歩みを止めて、またバスケ部に見入っている。
ここにずっといても時間の無駄なので、僕は咲の方を軽く叩いた。
「さ、いこ」
「え、あ、うんー」
僕と咲は、教室に向かった。
教室に入ると、いつものざわめきが耳に入ってきた。
僕は、自分の席に荷物を置き、咲も自分の席に荷物を置いた。それから、咲は僕の方に寄ってきた。
「しんちゃんしんちゃん」
「何?」
「宿題やってないから見せてー」
咲が両手をあわせて、上目づかい攻撃をしてきた。
僕は軽くスルーする。
「……自分でやってください」
「宿題見せてくれたら、ご褒美あげるからお願いっ」
ご褒美……か。
「ご褒美は何でもいいんだね?」
「なんでもいいよー」
「どんなことでも?」
「うんー!」
僕の脳裏に何かが浮かぶ。
「よろしい。なら、見せてあげよう」
咲が、ぱぁっと眩しい笑顔をこちらに放った。僕は10のダメージを受けた。まあそんなわけない。
僕はバッグの中から、英語のプリントを取り出して、咲に渡す。
「ありがとー」
「じゃあ、ご褒美は――」
僕は、笑顔が漏れそうになるのをぐっとこらえた。
咲が何でもいいって言ったんだ。何でもいいって。何でもいいって!
ということは、つまり、どんなことを言ったって、いいってこと! ご褒美は何にしてもらおうかな! テンション上がってきた!!
僕は、咲に向かって指さして、勢い良く答えた。
「ドクペで!」
「「「「ドクペかよ!」」」」
「……ッハ!?」
僕は我に返った。
それからちょっと冷静になって、周囲の状況を確認してみる。
いつの間にか、僕と咲の周囲にクラス内の生徒たちが集まっていて僕達の会話を聞いている、という状態だった。……どんな状態だ。
どうやら、また僕はドクペのことばかりを考えてしまっていて、周りが見えてなかったみたいだ。
そんな状態の中で、咲は平然と、
「いいよードクペ。あ、でもこの前もドクペだったけど、いいのー?」
「……はい」
僕のテンションは大暴落真っ最中。クラス内の生徒たちも、リア充死ね死ね言いながら、散り散りになっていった。一体何しにきたんだ……。それに、女子までがリア充死ねだなんて……。やばい……僕もう生きていけない。
咲はうれしそうにステップしながら、自分の席に戻っていった。といっても、僕の隣なんだけれどね。
一段落つき、疲弊しきった僕は椅子に座って、とりあえず机に顔を埋める。
そうすることによって、周りから僕が切り離されたような錯覚が生じて、自分の世界に入り込むことができる。
――僕は、なにか違和感を感じていた。でも、この違和感の正体がぼんやりとしか分からない。そのぼんやりと分かる違和感っていうのは、いつもよりなにかが足りないって感じのもの。
いつもと違う。何かが決定的に違う。何が違うのだろう。気になりすぎて、スルーできない。
そこで、僕は、昨日のことを思い出してみた。
簡単に昨日のことをまとめると、昨日は、学校に行ってから、普通に授業を受けて、昼は、学食で牛丼を食べて、咲にドクペをおごってもらって、それから、放課後にパソコン部にいって、それが終わって咲と校門で待ち合わせて一緒に家に帰った。はずだ。
今日も昨日と特に変わらない日々を送ると思う。
でも僕が違和感を感じているのは、今現在だ。
じゃあ、違和感を感じ始めたのはいつだろう。まあおそらく僕は、朝起きてから、学校に到着し、教室に入るまでの間で、なにか違和感を感じていた。
学校に入る前と言ったら、校門に入る辺りかな。
確かあの時、僕と咲は、バスケ部の朝練を見て、少し会話をしてから、立ち去った。どんな会話だったかというと、バスケ部のエースはいないのかなー的な話だった。そこで、僕は何らかの違和感を感じたんだ。でもそれは一体何だろう。
……僕はもともと、友人は少ないほうだから、友人全員の名前を今ここで全部話すことだってできる。
だからこそはっきり断言できる。
バスケ部のエースが友達なんてことはなかった。それどころか、僕はバスケ部の友人すらいない。
……あれ? 本当にそうだっけ?
本当の本当にバスケ部に友達なんかいなかったっけ。なんとなくいたような気がする。なんとなく、ね。
……でも、やっぱりバスケ部に友達なんかいなかったと思う。
人は、以前体験したことのないことをあたかも体験したことがあるかのような変な既視感に囚われることがあるらしい。それをデジャヴって言うらしいんだけど、多分僕はそれなんじゃないのかな――
「よし、ホームルーム始めるぞー」
教室のドアが開き、教師が入ってくることによって、僕の思考は強制的に中断された。
もうデジャヴってことでいいや……。あ、ちなみに、なんでそんなに高度な言語を僕が知っているのかというと、ラノベ読んでる時にその単語が説明されてましてですね……ってなんで敬語なんだ僕。
僕:そういえば
僕:さっきはモノローグで僕が自慢げに話してたけど、
僕:デジャヴの意味実は知らないんだよね




