〇〇の世界-17
腕時計で時間を確認してみる。
午後1時5分。みんなだいすき昼食たーいむだ。
いつもは、学食にいる僕は、今日も例外なく学食にいた。
今日は木曜日だ。それで、明日は金曜日。明明後日に確か、咲と買い物に行かなきゃいけないんだっけ……。数学教師の野郎にも行けって命令されたことだし、行くしかないのか……。
「しんちゃん、あげるー」
僕が悩ましげに腕を組みながら、椅子に座り込んでいると、目の前のテーブルにどんっとドクペが置かれた。
この時、僕の目が瞬時に星星星状態に切り替わったであろう。
「お! くれるの?」
咲はにこりと微笑んだ。
「うん。この前、牛丼の牛肉だけ食べちゃったから、そのお詫び」
「ありがとう!」
僕は、ドクペをプシュッと勢い良く開け、一気にゴクゴクと飲む。
やっぱドクペは最高だよね。杏仁豆腐みたいな味がするところがものすごく! でも、たまに、杏仁豆腐の味なんてしねえよっていう輩がいるけど、僕の舌では、杏仁豆腐みたいな味がする。大体、杏仁豆腐の味なんてしねえよっていう輩は、(以下略)
僕は、ドクペを飲み終えて、ゴミ箱にシュートした。
ドクペはゴミ箱に綺麗に入った。あれだよね。ドクペを飲んだ後の僕なら、バスケで悟朗に勝てるかもしれないよね。
「おいしかったー?」
「おいしかったよ! ありがとう!」
僕のテンションは、限界値を突破しかけている。
やばいドクペ素晴らしい。
「それじゃ、私、となりで食べるねー」
「どうぞ」
咲は、わたわたと僕の隣に座り、どこかで買ってきたのかサンドウィッチをバッグから取り出して、そして、頬張った。
僕は咲をしばらく観察することにした。
ハムスターみたいに頬が少し膨れていて、ちょっと可愛い。あ、ちょっとだから。そこらへん勘違いしないでね。
それにしても本当に美味しそうに食べている。こっちまで、お腹が空いてしまいそうなぐらいだ。
ここで、僕のお腹が鳴った。わけではないけれど、とりあえず、僕もなにか食べ物を購入して、昼食にしようと思う。
「ちょっと、何か買ってくる」
「いってらっはーい」
いつもの僕なら、ここで咲に口の中に食べ物を入れたまましゃべるなっていうところだけれど、今の僕はかなり機嫌が良いから言わないでおく。咲が口の中に食べ物を入れたまましゃべる度に、僕の寿命が一年ずつ減っていくとかそんなことじゃないし、たまにはいいよね。
僕は、7人ぐらいで構成された列に並び、僕の番が来て、牛丼を注文してから、33番と書かれたカードを受け取って、自動販売機に向かった。
ドクペロックオン。
自動販売機に150円を入れて、ボタンを押した。
ドゴンっという音を立てて、僕の相棒が自動販売機から出てくる。
僕は、スーパーハイテンションになった。今なら、一発でプラチナキ●グを倒すぐらい楽勝だ。嘘だ。
ドクペを買ったあたりで、33番さんー! と学食のおばちゃんの声が聞こえてきたので、牛丼を受け取りに行く。
ここの学食は、注文したものがすぐにできるので、待ち時間が少なく、僕は好きだ。電子レンジでチンとかそんな外道なことはしていないはず。信じているよ……おばちゃん……!
牛丼を受け取った僕は、咲の隣の席に戻った。
咲は、サンドウィッチを3分の2ほど食べ終えていた。
相変わらず美味しそうに食べている。
僕もドクペと牛丼の最強タッグ(?)を早めに食べちゃっておこうと思う。
牛丼を食べ終えて、ドクペを飲み干して、僕は腕時計で時間を確認した。
1時25分。
午後の授業が始まるまで、あと5分しかない。
「ごちそうさまー」
隣で、咲も昼食を食べ終えたみたいだ。
実に幸せそうな笑みをこぼしている。拾っちゃいたい。
「それじゃ、戻ろうか」
というよりも、もう戻らないと時間的にやばい。
僕は席を立った。
つられて、咲も立ち上がる。
だけれども、咲はなんだか疑問に満ちたような表情で僕を見ていた。
「何?」
「え? ……いや、なんかいつもと違うなーって」
「そりゃそうだろうね。だって今日は珍しく、咲が僕の牛丼の牛肉を食べなかったから、いつもと違うに決まってるよ」
「いつも食べてるわけじゃないよっ?!」
それでも、咲は3日に1回は僕の牛丼の牛肉を奪いに来るんだけどね。今まで犠牲になった牛肉ちゃんはたぶん20㎏を超えているだろう。なんて可哀想なんだ!
「……まあそれでも、特にいつもと変わったところはないと思うけど」
「うーんそうかなー……――っあ! 悟朗くんがいないよー!」
「あー、本当だ」
すっかり悟朗の存在を忘れてた。
悟朗の存在を思い出したのと同時に、僕はもうひとつのことも思い出していた。
「……明日の放課後、屋上へ来い。部活はすっぽかせ。話がある」
………………。
特に何も心配することがないはずなのに、テンションが減少傾向にあった。
本当になんだろう。悟朗の話って。気になる。気になりすぎて、これじゃ授業中も眠れない。
悟朗のことを思い出したおかげで、ドクペ熱が冷めたのか、周りのがやがや音が耳に入ってきた。
「あいつマジリア充死ねし」「リア充だよねー! ドクペか咲様のどっちかにしろっての!」「なああとで、藁人形に釘打たね?」「おーけー!」
うんスルースルー。
「まあ、とりあえず戻ろう」
「うんっ」
僕と咲は学食を後にして、教室に向かった。
僕:本日はドクペの素晴らしさについて語りたいと思います
咲:いらないー
悟朗:同感だ
僕:スルースキル発動ッ。……えー、まずドクペの誕生秘話から。アメリカ・バージニア州在住のペッパー医師がドラッグストアを兼業し、そこのスタッフが医師の実娘との結婚を切望して、仕事上の能力を認めてもらおうと開発、その後1885年カリフォルニア州で商品化を始めたといわれているんだ。そして、――
~3時間経過~
咲:バターブレッドなんて嫌いだぁ……むにゃむにゃ……
悟朗:よ~し100対0で俺たちのチームの勝利だ……ぐがーっぐがーっ
僕:しまった……。寝てたんじゃ、僕が語りまくってた意味が無いじゃないか……




