〇〇の世界-9
夜。念のために僕の部屋の鍵を昨日以上に厳重にロックする。
今度こそ、咲は侵入できないだろう。また侵入されから泣く。
鍵をロックし終えてから、僕はベッドにダイブした。
あ……。また、昨日みたいな夢を見るかもしれないな……。でもそんなことを気にしていたら、眠れないし、そこは諦めよう。
どうせ、夢だしね。
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目を開けたら、そこは、教室の中だった。真っ暗なところからして、夜なのだろう。
とりあえず、椅子に座っていたので、立ち上がってみる。
まずは、自分の格好を確認。するまでもなく、制服だった。
それにしても。
不気味だな……。夜の学校って言うのは肝試しに最適な場所だね。
僕は電気をつけるために、蛍光灯のスイッチを手探りで探す。スイッチらしきものに触れたので、強く押してみた。
教室が明るくなった。
「……」
僕は、自分でも驚くほど冷静でいた。どうせ夢なんだって、心の中で思っているからなんだと思う。
誰かいるかな。
「誰かいませんかー」
叫んでみたけど、反応なしだった。それ以前に、物音一つすらしないところからして、誰もいないのだろう。
これ以上、教室にいても暇なので、廊下に冒険に出てみる。
廊下も当然真っ暗だった。廊下の蛍光灯をつけるために、廊下を速足で歩く。
でも、輝き学園高校の廊下は広いので、なかなか蛍光灯をつけるスイッチが見つからない。
とにかく歩く。ずっと、歩いていれば見つかるよね。
「……ぐすん」
廊下を歩き続けていたら、女の子の泣いている声が聞こえてきた。
「この声……」
この声は、どこかで聞き覚えがある。どこだっけ。
「うぅう……ッ」
また、泣いている声が聞こえてきた。廊下の曲がり角のその先あたりからだ。
計画変更だ。廊下の蛍光灯のスイッチを探すよりもこの泣き声が誰のものか知る必要がある。
僕は、曲がり角の曲がる前で立ち止まって、ゆっくりと曲がり角のその先を見る。
そこには、一人の少女が顔を手で覆って泣いていた。真っ暗なのに、その少女だけがはっきりと見える。なんだろう。不思議な感覚だ。
その少女は、この学校の制服をまとっている。セミロングのやわらかそうな髪。体は高校生なのに、声は幼いようなそれでいて透き通っている声。どこか、神聖な雰囲気を漂わせていた。
僕は、思い切って声をかけてみることにした。
「ねえ、君、どうしたの? そんなところで泣いて」
「うぅ……ぐすん」
「大丈夫?」
「うぅえんッ……」
少女は、嗚咽を鳴らしながら、僕の声がまるで聞こえていないかのように泣き続けた。
いや。
本当に聞こえていないのかもしれない。夢だし、ありうる。
試しに僕は少女の肩に触れてみようとする。
「え?」
少女の肩に触れようとしたら、そのまま通り抜けた。触れなかった。幽霊ってことなのかな。
「うぅう」
相変わらず、少女は泣き続けている。
ほかにすることもないし、このまま夢がさめるまで、ここにとどまっておくとしよう。
僕は、少女の隣に体育座りをした。少女のことを観察してみる。
すると顔を埋めたまま、ずっと泣いていた少女が少しだけ顔を上げ、こっちを向いた。
泣いているせいで、目が赤くはれていたけど、可愛らしい顔立ちだった。
少女が口を小さく開いた。
「しんじぃ……ッ」
「……え?」
少女が初めて何かをしゃべったかと思ったら、僕の名前をつぶやいた。
どういうことなんだろう。僕は、この少女のことを知らないはずだ。見たこともないし、聞いたこともない。名前も知らない。
「どうして、しんじは私の気持ちに気付いてくれないの? 私は、こんなにもしんじのことが好きなのに……ッ」
突然愛の告白をされた。
愛の告白をされたのはいいけど、なぜだか、僕は胸がきつく縛りつけられたかのように痛んだ。
「うぅぅッ……ッ」
再び、少女は顔を埋めてしまった。
「ごめん……ごめん」
あれ?
今のごめんごめんは、少女の声じゃない。
じゃあ誰の声なのか。
僕の声だった。
「あ、あれ、なんで僕、謝っているんだ」
よく分からないことばっかり起こる。夢だし仕方ないんだけどね。
気にしないでおくことにした。
少女は、相変わらず泣いている。
「うううぅ……イヒィ」
ん? 今、笑わなかったか。
僕は、少し身構えた。
「うぅイヒヒヒうイヒヒぅぅ……イヒヒィイヒヒ!」
僕は、身の危険を感じて、少女から離れた。
その少女はっていうと、肩を震わせて、笑っていた。幼い少女の泣き声と金属音のような笑い声が交互に聞こえてくる。
そして、徐々に金属音のような笑い声の比率が増えていく。
……逃げるべきか。
少女が、顔を上げた。その顔はもうさっき見せた顔じゃなかった。目が赤く光っていて、にんまりと笑っている。
「イヒヒヒヒヒッ!」
化け物が手をかざしたかと思うと、何もない空間から突如、何かが現れた。
それは、鎌。ギラギラに光る鎌。
僕は、逃げた。
とにかく、走る。走る。廊下を駆け抜ける。
廊下を走っていると、明かりのついている教室が見えてきた。さっきまで、僕がいたところであり、僕が目を覚ました場所だ。目を覚ましたって言っても、夢の中なんだけどね。
僕は、前のドアから教室に飛び込んで、ドアを閉め、鍵をかけた。すぐさま、後ろのドアの鍵もかける。
「はぁッ……はぁッ……はぁッ……っふう」
ドアから廊下を覗いて、追手が来てないことを確認してから、僕は安堵した。
やっぱり、化け物が現れた。でも、あの少女、途中までは普通の人間だった。なのに、途中から金属音のような笑い声が聞こえてきたかと思うと、化け物になっていた。
泣いているときの表情は、守ってやりたいって思うぐらい人間らしい表情だった。あれが、いい具合に狂ったような感じの笑っている表情に変化したんだ。さすがは夢だ。……油断できない。
僕は、汗を拭う。
「イヒッ」
後ろで、金属音のような笑い声が聞こえてきた。
すぐ後ろで。
「うぁッ」
僕は振り返る勇気が出なくて、さっき鍵を掛けたばかりの教室の前のドアの鍵を解除しようとした。
だけれど、接着剤で固められたかのように、ドアの鍵は解除できなかった。
「またかよッ!」
後ろで、気配がする。
僕は、今度は、後ろのドアの鍵を解除しようとした。
結果は同じだった。やっぱり、ドアの鍵は解除不可能。
「クソッ!!」
あきらめたくない。どうせ夢なんだろうけど、でも、こんなやつに毎晩のようにやられたくなんてない。精神的に参るよ。
「イヒイヒヒヒッヒイヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒイヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッッ!!」
僕の後ろでたぶん一番大きな笑い声が響き渡った。
僕の体は硬直した。
まただ。
またこれ。
金縛り。
鎌に刺される前に一瞬、僕の脳裏にさっきの少女が僕に言ったことが過ぎった。
『どうして、しんじは私の気持ちに気付いてくれないの? 私は、こんなにもしんじのことが好きなのに……ッ』
それから、視界が暗転する。
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僕:悪夢とかマジ勘弁だよなー……
咲:どんな悪夢だったのー?
僕:えっと、死神に襲わ……いや、攻撃される夢
咲:攻撃されっ……はぁはぁ
僕:なんでだよ!




