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序章 暖かい日の思い出

はじめまして、カクヨムで活動中の十六夜水明(いざよい すいめい)と申します。

この作品は、私の初めての長編(中編)作品で2026年3月に連載開始して完結した作品です。


沢山の伏線を散りばめて書いたの作品なので是非最後までお付き合いいただければと思います。

気に入っていただけたら、反応いただけると嬉しいです。

 彼と初めて会った日は、柔らかな日差しが印象的だった。


 まだまだ春の気配が残る初夏の昼下がりのこと、私は父と母には内緒で生まれて初めて1人で外に出た。青葉の瑞々しい薫りを運ぶ風に連れられて私は野原を駆けた。

 気持ちの良い晴天で、いつの間にか辿り着いた

川は陽の光を浴びて昼の天の川のように光彩を放っている。今まで見たことがないその美しさに、どうしても自分の目に焼き付けたくて、私は身を乗り出した。そして私は川に落ちてしまった。

 それまで川でなんて泳いだことがない私にとって、それは生死の間を彷徨さまよう程の一大事だった。

 息も続かず、空気を探すために開いた口からどんどん水が流れ込んでくる。

 あぁ、死ぬかも。幼心ながらにそう思った時だった。

『っ大丈夫か?!』

 耳に入ってきたのは、父の声でも母の声でもない、息の切れた澄んだ青年の声。その声と同時に私はいとも簡単に川から引き上げられた。目に水が入ったせいでぼやける視界をなんとか正常に戻し、助けてくれた青年の姿を見る。

 この世の者とは思えない程に美しい青年だった。陶器のような色白の肌に陽の光をキラキラと反射させた麦色の絹のような髪を自由に背中に流している。

『大丈夫? 喋れるか?』

 その容姿に見惚れていると青年は私の安否を心配した様子で聞いてきた。

 大丈夫、と伝えると青年はどこか安心した様子で肩を撫で下ろす。

『どうしてこんな静かな場所に? ご両親は? それとも友達と来たのかい?』

 幼い私が一人であることを不思議に思ったのか青年は次から次へと矢継ぎ早に質問してくる。

『友達……。いないよ。一人で来たの』

 ずっと両親と暮らしてきた私にとって、友人なんて架空の存在だった。いないからといって何か不自由なことがあるわけでもなく、必要もなかった。

 それなのになぜだろう。彼は今にも泣きそうな顔をしている。

『なんで……、そんな顔するの?』

 私は悲しくないよ、という私の言葉に彼はもっと辛そうな顔をする。

『違うよ、君が友達がいなくても大丈夫だと思っている事がとても悲しいんだよ』


 僕が君の友達になってあげよう、と彼は私の頭を考え無しに撫で回した。

 友達だなんて初めてだからか暖かな陽気も相まって、くすぐったい気持ちになった。


 それからは私は両親の目を盗んであの川辺に通うようになった。いつも彼はそこにいた。ある時は木陰で本を読んで、またある時は小鳥とたわむれていた。いつも川辺に行けば、必ず彼がいた。そして、他愛もない話をしたり、森を探検したりした。

『お兄ちゃん!』

 その日は川辺に行くのが日暮れ時になってしまった。もう空は夕焼けで紅く燃えている時分である。

『今日は遅かったね。何かあったの?』

『ごめんなさい。お兄ちゃんに昨日話した花の冠を見せようと思って、探してて遅くなっちゃったの』

 でも見つかったよ、無邪気に言って私は彼にシロツメクサとカスミ草を組み合わせて作った冠を手渡した。

『これ、お兄ちゃんにあげる』

『くれるの? こんなに綺麗なのに』

 元々は白の花冠が夕日によって紅に染められている。色白の彼の顔も、ほんのりと赤く染まっていた。

『うん』

 そのかわり私のお願い聞いてくれる? と今思えば打算でしかないのだが、そう私は口にした。

『いいよ』

 聞いてあげる、そう言って彼は私の目線に自身の目線を合わせるように屈んでくれる。

『あのね』

『うん』


『私が大きくなったら、お兄ちゃんのお嫁さんにして』


 自分でもどうしてあの時こんな事を言ったのか不思議でたまらない。ただ変えようもないのは、間違いなく幼心ながらに彼を慕っていたという事実である。そして、今も。

 それを聞いた彼は、陽の光で染められた顔を更に染めて目を見開いていた。そして私の瞳をまっすぐ見つめ、私の頰に手を伸ばした。


『ありがとう。大きくなっても、その気持ちが変わらなかったらお嫁さんにしてあげる』


 その時の青年の顔は、それまで見たことない程に辛そうで、一筋の涙が頰を伝っていた事を今でも覚えている。


 それ以来、彼が川辺に来ることはなくなった。

この作品は別タイトルでアルファポリスさんとカクヨムさんに投稿しているものです。

カクヨムさんの方では既に完結済みですので、続きが気になる方はどうぞそちらへ。

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