↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖騎士団第三隊長は猫型妖精の王に勝てない  作者: 書庫裏真朱麻呂


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/18

〈番外編〉ちょっとした夢物語

 聖騎士団第三隊所属の守護者アンは、両親の顔を知らずに孤児院で育った。しかし、彼女はそのことを寂しいとは思っていない。姉妹のように仲の良いダイアナがいつも一緒にいるし、引退した前第三隊長のヒルダとその夫のオシアンが、彼女にとっては親同然の存在だからだ。

   *        *

 ああ、久しぶりに君が生まれた時の話を聞きたいと言うのだね、アン。もう何度目になるかね、だがまあ良いだろう。それでは話してあげよう。


 そう、あれはとても月が美しい宵のことだった。ハワードが十歳、ダイアナが三歳の頃のことだ。ヒルダは臨月で、彼女のお腹には君がいた。生まれるまであと一週間だと聞いていたし、既に二度の出産を経験していたこともあって、ヒルダも我も少し油断していたことは否めない。

 ところが、そろそろ子どもたちを寝かしつけようという時に、ヒルダが急に産気づいたのだよ。慌ててハワードに助産師を呼びに行かせ、次に妹のミュリエルに来てもらってダイアナを預かってもらったのだがね、どうした訳か助産師がなかなか到着しなかった。

 そこで、やむを得ず我が取り上げ役を務めたのだよ。幸い、弟のカイが生まれる時にも似たようなことがあったので、取り上げ役を務めるのは初めてではなかった。あの時とは違い、家の中でもあったしね。それに、出産自体は安産だった。

 それで、無事生まれて来た君に産湯をつかわせていた時に、やっと助産師とハワードが到着した。ここに来る途中の橋で巨人に邪魔をされたが、辛うじて出し抜いて来たと言ってね。

 そう、我がかつてその屋敷と領地を巻き上げた、例の巨人の弟が遺恨を晴らそうとしたのだ。……アンは、その巨人がどうなったか、気になるのかね。無論、すぐさま其奴の元に出掛けて、二度と我らを煩わせることなど出来ぬようにしたとも。

 それから、出産を終えたヒルダと生まれたばかりのアンのことは助産師とフォスター屋敷の爺やに任せ、我とハワードはミュリエルの家にダイアナを迎えに行った。

 そうしたら、アルがすっかりダイアナを気に入ってしまっていてね。ダイアナを抱きしめたまま離そうともせず、この子は僕のお嫁さんだから連れて帰らないで、と言い張るのだよ。

 幾ら宥めすかしても聞かないので困り果てていると、ハワードがアルにこう言い聞かせた。ダイアナが大きくなった頃に、まだダイアナのことをお嫁さんにしたいと思っていたら、ダイヤモンドの指輪を用意してプロポーズをしにおいで、とね。

 子どもが大人の言うことよりも少し年上の子どもの言うことの方をよく聞き入れるのはどういう訳だろうね。ともかくアルはダイアナを解放した。ようやく三人で帰って来た時には、もう空が白み始めていた。

 その時は、ダイアナを預けるのはカイの家にすべきだった、と後悔したよ。カイの家の子どもは女の子のフィンだけで、男の子はいない。フィンならお姉さんらしくダイアナの世話を焼いてくれて、しかも聞き分け良く我らを帰してくれただろうからね。

 ……アル、あの時の我は至って優しい態度で君に言い聞かせたと思うのだが、君は違うと言うのかね?

 だがね、君だっていつか娘が生まれて、その娘をどこかの若者が攫って行くとしたら、同じ態度を取るに決まっているのだ。我が父にして君の祖父でもあるユーアンの名にかけても良い。


 とはいえ、ハワードが六歳の時に薔薇荘でモリーを連れて帰ると言い張った時ほどではなかった。あの時のハワードときたら、モリーを連れて帰れないのならば自分がこの家の子になると言い出し、モリーと一緒に子ども部屋に閉じこもってしまってね。

 普段は聞き分けの良いハワードがそんなことをするとは思いもしなかったから、どうしたものかと、非常に困ったよ。

 しかしモリーが笑顔で、お腹が空いたから一緒におやつを食べようとハワードに提案した途端、ハワードはモリーがお腹を空かせているのはかわいそうだからと、閉じこもるのを止めたがね。


 そういう訳だから、家に帰った時、ダイアナはたいそう眠そうにしていた。だが、生まれたばかりのアンが小さなベビーベッドに寝かされているのを見て大喜びしてね。今日からは自分もお姉さんだと大いにはしゃいだために、眠気がどこかへ行ってしまったらしい。すっかり興奮してしまって、眠ろうとしないのだよ。そうは言っても三歳だから、二時間くらいで体力が尽きて眠ってしまったがね。

 だからね、アン。君が生まれた日は、とても大変だったけれども、それ以上に家族全員が幸せだったのは間違いない。

 その君がすっかり素晴らしい女性に成長して、ダニエル・バトラーという信頼出来る良き若者と結ばれると言うのだ、何と喜ばしいことか。

   *        * 

 アンが自分と同じ第三隊の隊員であるダニエル・バトラーと結婚すると聖騎士団本部に報告するために二人でアーケイディアに来た時、聖騎士団長ハワード卿は、二人にフォスター屋敷を訪ねるように勧めてくれた。昼になれば、そこにヒルダとオシアンも来るから、と。

 フォスター屋敷でモリーから熱烈な歓迎を受けていると、ヒルダとオシアンが昼食を摂るためにフォスター屋敷に戻って来た。二人はアンとダニエルの報告を聞き、とても喜んでくれた。そこにハワード卿から連絡を受けたアーセンがダイアナを連れてやって来て、楽しい昼食の時間となった。

 そこでアンは、ヒルダが第三隊長だった頃に、オシアンがいつも第三隊駐屯地の厨房でダイアナとアン、それから気心の知れた他の隊員たちに夜食を振る舞いながら聞かせてくれた話をしてくれるように頼んだのだ。

 もっとも、九歳のアーセンが三歳のダイアナを離そうとしなかったという話や、六歳のハワード卿が三歳のモリーを連れて帰りたがった話が追加されたのは今回が始めてのことだが。

「やっぱり、私が産んだことになってるのか……」

 ヒルダがクッションに顔を埋めて呟いた。その耳は苺のように真っ赤になっていた。

「ちなみに、俺が生まれた日、というバージョンもあるんですよ。その場合は、ハワード卿とダイアナ姐さんの下に俺が生まれたことになっていて、アンはモリーさんの妹という設定です」

 ダニエルがけろりとした顔でそう白状したので、ヒルダはますます深くクッションに顔を埋めた。

「……第三隊の全員、私が産んだことになってた」

「全員ということはないですね。厨房で夜食を振る舞ってくれる『マクユーアンさん』がオシアン公だと気付けた奴だけですから。ケイン・カーターの奴とジョン・ヘイズは俺たちの兄弟でも従兄弟でもありませんよ」

 ダニエルの言葉を受けて、オシアンが厳かに言った。

「あの二人だけは我の正体に気付きもしなかったし、真夜中に厨房に来ることもなかった。他人に深夜までの仕事を強いておきながら不健全な遊興に耽るような輩だ。あのように魂が腐った人間どもは、心の目もまた濁るものだからね」

 その言葉がどこまでヒルダの耳に届いたかは分からない。

「……結局、第三隊に今いるメンバーは全員、私が産んだってことになるじゃないか。しかも皆、どうして自分たちの父親がオシアンだって、当たり前のように受け入れてるんだよ」

「それは自分たちの胃袋を掴んだ人の言葉が絶対だからに決まってますよ。他所では、その立場にあるのは大抵お袋さんだそうですが、うちは親父殿だったというだけです」

 ダニエルがきっぱりとそう言った。

「伯母上。私には、血は繋がってなくても頼もしい従妹や従兄弟たちが沢山いるんですね」

 モリーが心から嬉しそうに笑った。

 ヒルダはようやく顔を上げた。

「そうだよ。皆、私の大事な子どもたちだ。全員、幸せになってほしい宝物なんだよ」

 その笑顔は太陽のように晴れやかで優しかった。

作者が気付かないうちに、アーセンとダイアナが恋仲になっていました。

今回登場したダニエルは先住民族出身で、ヒルダとオシアンの結婚式で太鼓を演奏していた若者です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
あっ、前に活動報告で言っていたエピソードですね♪ オシアン〜〜ww もうほぼほぼ聖騎士団の中には兄弟姉妹ばかりになってしまいますね♪ アーセンもいつの間にかカップルに!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。