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スクールライフに彩りを ②


「ーーーーうちも教師になってわかったけど、子供って大人より人の好き嫌いがはっきりしとるやん?」

「ええ」

「好かれるんはきっと人柄やないかな」

「……人柄ですか」

思い当たる節はままある。幾ら戦闘学の教師といえ、ああも迅速にラミィ(生徒)の救出へ向かえるのは、性根の良さの表れだ。それにナフカも非武装の一般人といえ、カイムがずば抜けて強いと漠然と肌で感じていた。

(そういえばエリナとサビーナも彼に救われたわ)

最初に彼女がカイムに突っ掛かったのは、生徒の身を案ずる他、実は前任の戦闘学教師との諍いや戦闘職への偏見もあった。ただ今回の一件で世の中には、正しい暴力もあるのだと知る。

「…まぁ…悪い人ではないです」

「せやろ〜」

「頼り甲斐があるのも認めます」

「やなぁ」

そもそも彼に勝てる人間を探す方が困難だとチヨは思った。

「顔は怖いしぶっきら棒だけど紳士ですよね」

「わかるわぁ」

飲み会帰りのエスコートを思い出し笑みが溢れる。

「…カッコいいとも思います」

「うんうーーーーん?」

ピタリとチヨの動きが止まる。

(やっぱり下ろしてみようかしら)

前髪の毛先を弄りつつ思い悩む。

「……もしやナフカ先生は」

「え?ーーーーち、ち、違いますよ!別に深い意味はないですから」

「……」

「ま、まったくもう」

(隠すのが下手やねぇ)

ナフカは隠し事のできない性格のようだ。

「ーーーーうちはカイム先生を素敵やと思っとるよ?」

「え」

チヨとナフカは、教師陣の中でも仲が良い間柄である。

軍人と学者。正反対な職種だが、同じ帝国民で歳も近いことからか不思議と馬が合った。そんな同僚が初めて見せる恋敵を牽制するような態度に驚いた。

「……職場恋愛はトラブルの元ですよ」

わざとらしい注意を促す。

「そりゃ妻帯者に恋したらアカンけど、独り身の男に恋するんは個人の自由やない?」

「で、ですが」

「ナフカ先生は興味ないみたいやしぃ安心したわぁ〜」

「!…私だって」

「私だって?」

「あっ…」

「ほら。素直にならないと、いつか後悔するよ」

口車に乗せられたと気付いたナフカは唇を尖らせた。

「……チヨ先生は意地悪ですね」

「うふふ〜」

朗らかに微笑む。

「まぁ素敵や思ってるのは本心やけど」

同性でもゾクッとする真顔を一瞬覗かせ、彼女は言った。

「さぁて残りも回ろか」

微笑むチヨを見てナフカは小さく息を吐いた。

「……食えない人ですね」

「よう言われるわ」

ネムの預かり知らぬ所で着々とライバルは増えている。


「ーーーーはくしゅっ!」

カイムは口元を抑えた。

「くしゃみ?」

「誰か噂してるのかも知れないですわ」

「悪い噂じゃないといいがな」

ラミィとアレクシアに答え、カイムは鼻を啜る。

「……本に囲まれてぼく目眩がしそう」

辺りには見渡す限りの本、本、本、本。本棚で区切った迷路のようだ。

「本の匂いってさぁポンポン痛くなるよね〜」

「ん」

「ひ、一人で来たら迷っちゃいます」

「迷うか……一つ面白い話を知っているぞ」

カイムは静かに喋り始める。

「共和国の『魔術都市アヴァロン』には、『魔女の棺桶』という地下図書館がある。そこには世界中のありとあらゆる魔導書と『禁書』が保管されているらしい」

「禁書?」

「定義は諸説あるが、とても危険なアビリティ・スキルの習得、古代兵器製造図、現代では違法な禁薬の精製方法を記した本を総じて禁書と呼ぶ。ーーーーその魔女の棺桶の深部には、どんな願い事も叶える『渇望のリブラム』という喋る魔導書が眠っているそうだ」

「え〜〜本が喋るの?ってかてか!願いを叶えるってマジ?」

「真相は分からない。……何故なら誰も深部まで到達できた者は居ないのさ。そもそも『いつ』、『誰が』、『どんな目的で』、『何の為に』、魔女の棺桶を建造したのかも不明だ」

「「「「「……」」」」」

「ただ魔女の棺桶を管理している『魔女教会』の『魔女』は、その理由を知っているかもな。……何かと秘密の多い組織だが、六年前冒険者ギルド『レプリコーン』と『鮮血』の魔女ことミラバル・シュタインが指揮を執る探索隊が地下72階まで踏破したのが、公式の最高記録だと発表されてる」

(地下72階……どれだけ深いんだろ)

「そもそも誰も深部に辿り着けていないのに、その(渇望のリブラム)が眠っていると言うのは、話が矛盾してません?」

「アレクシアの言う通りだ。伝承や伝説を考察する時は、一つ一つ疑問と矛盾を潰す過程が重要になる。……きっと本の存在を裏付ける何か証拠があるのだろう。俺の知る限り魔女教会は、出鱈目な憶測で動いたりしない」

「魔女教会とは中々興味深い組織ですのね」

「ブ、ブリュンヒルデおばさん元気かなぁ」

「オルタは知ってるの?」

「うん!よく遊んでもらったから」

(……妖精王の伝手だろうが、あの恐ろしい魔女をおばさん扱いか)

【魔女:『裏魔法』という魔法アビリティを会得した女性を指す呼称】

ブリュンヒルデ・ステューの実力を肌で知るカイムは、ふと過去を振り返る。

(あの裏魔法には当時、苦渋を舐めさせられた)

今の俺ならーーーーと一瞬、考えるも直ぐに思考を止める。

(ふっ…そんな機会は二度とないだろう)

「ん、カイム笑ってる」

「ちょっと昔を思い出してな」

「…魔女の棺桶ってネーミングだと幽霊とか出そうだね」

「幽霊は兎も角、モンスターはいるぞ」

「ふぇ!?と、図書館なのに?」

「図書館と言っても実態はほぼダンジョンだからな」

「そもそも幽霊の正体はモンスターですのよ」

アレクシアが人差し指を立て、説明を始める。

「有名な例を挙げますと、『彷徨う鎧(リビングメイル)』ですわ。ーーーー非業の死を遂げた騎士の霊魂が、鎧に宿り血を求め彷徨い、無差別に生き物を襲うと言われていました。しかし、研究の結果、リビングメイルの正体は霊魂ではなく『元素虫(エレメントバグ)』と判明。ヤドカリのように鎧を外殻にして、身を守っているだけなのです」

「ん。幽霊=エレメントバク説は有名」

エレメントバクは元素を糧にする昆虫系モンスターである。

「え〜〜フラウは幽霊っていると思う」

面白味がないと言わんばかりにフラウが反論する。

「いいえ。エレメントバクに限らず、幽霊の正体は全部モンスターですわ」

「アレクシアに同意するのは癪だけど、ぼくもそう思う」

「癪ってどーゆー意味ですの」

「……あたしは幽霊を信じてるかな」

「わ、わたしも」

意外にもラミィとオルタは幽霊肯定派のようだ。

「はーい。3対2で肯定派の勝ち〜〜」

「…お待ちなさい。幽霊を肯定する()()()()()はありますの?」

「えびでんす?エビ料理がどーかした?」

「お馬鹿さん!エビデンスとは『証明』という意味ですわ」

(…中々白熱してるな)

思いの外、話が盛り上がっている。

「ーーーー先生は肯定派?否認派?」

「俺か?そうだな」

ラミィの質問にカイムは少し考えた後、口を開いた。

「幽霊=モンスターは、理に適った説だ。裏付ける証拠も数々ある」

「フッフーン!これで3対3ですわよ」

一瞬、間を置き息を吐いた。

「ただ、俺は幽霊の存在も一概に否定できない」

「え」

「ん?どーゆーこと?」

「……百年戦争中、敵兵の奇襲により孤立したある兵士がいた。彼は何とか敵を殲滅するも、深手を負ってしまう。増援が来る前にその場から直ぐにでも退却する必要があったが、奇襲に遭った場所は、不幸にも土地勘のない鬱蒼とした密林。探知のスキルを使おうにも、意識が朦朧としてスキルは発動しない。彼は死に直面していた」

静かにカイムは喋り始めた。


◇◇◇◇◇◇


目つきの鋭い精悍な男は、油汗を額に滲ませつつ、口に太い木の枝を咥えると、熱したナイフを躊躇なく脇腹の傷口に当てる。

「〜〜〜〜ッ……ぐっ…がぁ…!」

出血を止める為、無理矢理傷口を焼いたのだ。

他にも裂傷、打撲、骨折、火傷と全身の怪我が酷い。

涎と一緒に噛み砕かれた木の枝と涎が垂れ落ちた。

「はぁ…はぁ……」

ペッと唾を吐き出して、大樹を背にへたり込む。

「ポーションはーーーー使い切っちまったか…MPも全然、回復しないな」

状態が酷く自然回復が殆どしないようだ。


頭が霞がかったようにぼんやりして、荒い吐息が漏れる。

「俺は死ぬのか?」

あの数の敵兵を相手に勝利しただけでも奇跡に等しい。

我武者羅に戦った所為か、戦闘の記憶は余り覚えていない。

「……クソが」

一瞬諦めかけた彼だったが、満身創痍の体に鞭打ち木を背に立ち上がる。

「絶対に生還してやるっ…!」

意気は良し。ーーーーしかし、肉体が追い付かなかった。

一歩二歩と踏み出す度、激痛に襲われ血が滴る。意識は遠のき、自分がどう進んでいるかさえ定かでない。

遂に倒れそうになったその時、不意に脇を抱えられた。

「ーーーー大丈夫か?」

「……誰だ!?」

敵かと思い、身構える。

「敵じゃない。味方だ」

霞む視界の先、見慣れた腕章が瞳に映った。彼を支えたのは、同軍の兵士だった。

「お……俺以外で、生き残りがいたのか」

「……」

返事は返ってこないものの、彼は安堵する。窮地には変わらないが、仲間の存在に希望が湧く。

「このまま真っ直ぐ進めば、救助隊が待ってる」

「あ、ああ」

それ以降会話もなく、男に支えられ前へ進むが、負傷と疲労もあり、彼の意識はもはや曖昧だ。そして遂に意識が消失する。

次に目を開けた時、彼の目に飛び込んだのは白い天井。そこは自軍の野戦病院だった。自分が助かったと悟るまで、然程時間は掛からなかった。

医師から暫く戦線離脱するよう診断され治療に専念する。

ある日、面会を許された同期が彼を見舞った。

皆頻りに功績を褒め称え、面食らう。どこか辻褄が合っていないのだ。

「生還したのは俺一人じゃないだろう?」

彼がそう言うと怪訝そうに仲間は顔を曇らせる。

「ここまで運んでくれた兵士がいるはずだ」

「…君は一人で戻って来た。生還したのは君だけだよ」

彼は信じられなかった。確かに記憶に残っていたのだ。自分を支えた兵士の感触と温もりを。

しかし、どんなに証言しても信じて貰えず、生と死の狭間で脳が見せた幻覚と幻聴だと言われた。


◇◇◇◇◇◇


「ーーーー真実はどうあれ彼は生涯この体験を忘れないだろう」

一息に喋り終わると、セアは首を傾げつつ聞いた。

「その人を助けたのは、幽霊ってこと?」

「真相は分からない。ただこの類の話は何年、何十年経とうと尽きないのが、幽霊という存在を裏付ける証拠なのかも知れないな」

情報は集合知となることで、例え虚偽だとしても真実味を帯びる。

(……()()()()()()、結局言えず仕舞いだった)

カイムは少し寂しそうに、目を細めたのだった。


「ここが魔術部の部室だ」

数分後、端にある魔術部と表札を掲げた角部屋の前に到着する。

「邪魔するぞ」

ノックしてドアノブを捻り、開けるとサビーナがソファーに座り本を読んでいた。

「……おや先生?それにラミィとオルタまで」

「ども」

「こ、こんにちわ」

面識のある二人が挨拶する。

「部活の見学に来たんだ」

「そうでしたか……私は部長のサビーナ・ルイドリッヒです。そっちの三人は初対面ですね」

「アレクシア・ロレーヌですわ」

「セア」

「フラウだよーん」

「急な来訪だったが大丈夫か?」

「大丈夫です」

本を閉じてゆっくりと立ち上がる。

天井から吊るしたキャンドルタイプの角灯は青火を灯し、棚に並ぶ色鮮やかな背表紙の本を照らす。翡翠色の液体を容れた大釜からは甘い芳香が薫った。円形の巨大フラスコの中で、分裂と消滅を繰り返しつつ不思議な菌が漂っている。

「越を凝らした趣向のインテリアですわね」

「だね」

「おもしろーい!増えて消えるよ〜」

「本当だぁ」

「ん」

五人は物珍しい風景に興味を惹かれたようだ。

(ふむ…)

カイムは部屋の中を注意深く観察する。

「どうかしたです?」

「もしやサビーナは()()()()()か?」

「ふぇ!ま、魔女ってサビーナさんが?」

五人の視線がサビーナに集まる。

「……どうしてそう思いました?」

「部屋のインテリア品は、どれも『ブラウニー工房』の物ばかりだ。ブラウニー工房は一般人に決して商品を販売しない。購入する場合は魔女の紹介か仲介が必要になる。……それと決め手はこれだ」

彼が棚から手に取ったのは、背表紙に四つ目の猫が描かれた魔導書だった。

「この四つ目猫は『キャスパリーグ』。魔女教会を創設した初代魔王の召喚獣で教会のシンボルでもある。それに魔女が執筆したと嘯く偽書はよく出回るが、『オリハルペーパー』、『火蛸の墨』、『鱗蜘蛛の外皮』を材料に製本してる以上、これは本物だろう。とても学生が入手できる代物じゃない。そうなれば身内に魔女がいると考えるのが妥当だ」

触れただけで、材料の選別もできるとは大した目利きだ。

「ーーーー大当たりですよ」

小さく拍手するサビーナはとても感心していた。

「先生の仰る通り、私の祖母が魔女でした。祖父との結婚を切っ掛けに足を洗ったそうですが、ブラウニー工房のインテリアと教会の魔導書も祖母の伝手のお陰ですね」

「むふ!カイムってば名探偵じゃーん」

「別に大したことじゃないさ」

罠、待ち伏せ、襲撃に遭った経験から癖付く観察眼だった。

「先程まで先生から魔女にまつわる話を聞きましたし、タイムリーですわね」

「魔女にまつわる話とは?」

来る途中の雑談した内容を説明する。

「なるほど。それは実にユニークな偶然です」

「ねぇねぇ魔術部ってどんな活動するの〜」

部屋の物色に飽きたフラウが問う。

「魔導書を読書したり、古代遺物の文献を探してフィールドワーク……あとは魔法実験ですかね」

「え〜〜それって勉強じゃん」

「私は勉強が好きですから苦じゃありません」

「うそぉ…」

勉強嫌いのフラウは信じられないといった顔だ。

「自分の夢のためなので」

「サビーナ先輩の夢って何?」

「ずばり祖母のような魔女になることです」

(やはりそうか)

ラミィの質問にサビーナは生き生きと答えた。

魔女と認められるには、『裏魔法』という魔法アビリティを会得する必要がある。

「そもそも何を持って魔女になれますの?」

「私の解釈だとまず裏魔法を覚える必要があります」

「ん…スゴイ魔法だってママに聞いたことがある」

「それは興味が湧きますわ。どのような魔法なのかしら」

「ーーーー知りたいですか?」

ぐわん、と目を見開く。

「それには最初に属性魔法の性質を理解する必要があるです……皆さんも魔法学で基礎は習ったでしょうが、属性魔法は周囲のエレメントを適合するエレメントへ変化させ、放つことが出来ます。つまり火素の豊富な環境下で水魔法を使っても本来の威力が発揮されないのは、自然発生した大多数の火素に水素が押し負けるからですね。逆に適応する元素が豊富な環境ならば、威力と効果も2倍3倍と跳ね上がる。MPを消費してエレメントを変化させる量の規模と質は、魔力も密接に絡んでまして、術者で差異が生じるのもそれ故なのです。これを念頭に次は複合属性のーーーー」

(め、目が爛々としてますわ」

(…ん、ん…ちょっと)

「あ、あはは〜」

瞬きもせず熱弁し始めた彼女の迫力を前に、さしもの三人の威勢の良さも影を潜めた。

「先生、先生」

「アレクシアちゃんたちが引いてますぅ…」

見兼ねたラミィとオルタがカイムのコートの裾を引っ張る。

「ーーーー裏魔法とは属性魔法にスキルを融合させた超高等アビリティだ」

「む…」

「魔法や技のアビリティは、ALVとステータスが質に関わる。攻撃系に重点すると魔法はMP、魔力、精神。技は筋力、敏捷、技術だ。そこにエレメント・闘気も合わさる。ALVは修練度の目安と言ってもいいな。スキルは更に複雑でステータスの他、遺伝、血筋、才能、経験、心象が基となりアビリティとは似て非なるものだ。つまり裏魔法とは魔法とスキルを融合させた『固有魔法』。その裏魔法に着想を得て、共和国軍が編み出したのが戦闘系スキル『魔装術』と言われている。魔装術は耐久力を底上げし武器破壊を防ぐ他、魔法を重ね合わせ一時的に身体機能を強化するスキルで裏魔法と原理は似てる。しかし、習得難度を比べると天と地ほど差があるがな」

「ほぇ〜」

「有名な魔女教会の魔女『クロッカ・ナイブス』の裏魔法を一例に挙げると、彼女は水魔法に固有の治癒スキルを融合させた『不死なる源泉』という魔法を使う。…四肢が爆散しようと、目を潰されても、頭を吹き飛ばしても肉片から自己再生する驚愕の異能は、『黄泉返り』の二つ名に相応しく百年戦争中、帝国軍はクロッカを不死身の魔女と恐れた」

「…ん…倒しようないよ」

「そんなの無敵ですわ」

セアとアレクシアは口を揃えた。

「そう思うのも仕方ないが、この世に完全無欠で無敵の能力スキル・アビリティなど存在しない。故に強者はALv・SLvを上げ能力のリスクを緩和させ、あたかも弱点や隙がないように欺くんだ」

高Lvの実力者同士の戦闘は、相手の能力を解明するもしくは、駆け引きを要する頭脳戦を強いられるケースも少なくない。

「現にネム……理事長はクロッカと対決して勝ってるしな。詳細は割愛するが、あれぞ虚を突く戦闘形の理想だろう」

「まぁ!さすがネム理事長ですわーーーーって先生は何故、そんなに詳しいのかしら?その場に居合わせましたの?」

カイムは喋り過ぎたと眉を顰める。

「話が脱線したな。俺の知る習得条件は、①単一属性と複合属性の魔法のALvを合計値12以上。②MP、魔力、精神のステータスを合計値2900以上。③融合させるスキルのSLvを最大値まで上げる。この三つだ」

(……露骨な逸らし方だわ)

「カイム」

セアがコートをクイッと引っ張る。

「どうして共和国以外で魔女がいないの?」

「世界には『性別』、『地域』、『種族』、『信仰』等が習得可否に影響する珍しい能力も存在する。裏魔法は共和国で出生した女性のみ習得できるアビリティなんだ」

「ほ、ほぇ〜」

「継承されるアビリティとスキルの体系を遡ると、最初に習得した者の習得条件がベースとなるルールだ。わざと複雑な制約と限定を設けることで能力の質を底上げたと考えるのが妥当だろう。帝国にも似たアビリティがある」

「ふーん」

「サビーナから補足はあるか?」

「いえ」

知識を披露する機会を取られ、若干憤慨しつつもカイムの博識振りに感心したが、同時に疑問も生まれる。

「先生は裏魔法ーーーーもとい随分と魔女に詳しいですね」

「そうでもないさ」

「正直、交流があったとしか思えないです」

(……調子に乗って喋り過ぎたな)

図星である。彼も七年前、ある魔女と戦った。裏魔法を詳しく知るのは、『略奪の誓いと強奪の試練』でアビリティ強奪に成功したお陰だった。強奪技『闇の左手と光の右手』の元は、『闇喰らい』のミディールという魔女の裏魔法である。

「あまり気にしなくていい」

(ミステリアス……謎の多い先生です)

「それで魔術部はどうだ?」

「ぼくはいいかな」

「フラウもいーや」

「わたしも」

カイムに問われセア、フラウ、ラミィが答える。

「入部しますわ」

「め、迷惑じゃなきゃわたしも」

「ほう」

アレクシアは兎も角、オルタは意外だった。

「傷を癒す魔法を覚えれば、アーちゃんが怪我しても安心かなって」

オルタらしい動機である。

「魔法は攻撃、防御、支援、回復をこなせる応用力の高いアビリティですわ。オルタさんも上位と最上位を目指して私と頑張りましょう」

「じ、上位と『最上位』?」


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